ゼロ年代における新自由主義の行方を描いていた『クロスゲーム』​​(後編)| 碇本学 | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2022.03.31

ゼロ年代における新自由主義の行方を描いていた『クロスゲーム』​​(後編)| 碇本学

ライターの碇本学さんが、あだち充を通じて戦後日本の〈成熟〉の問題を掘り下げる連載「ユートピアの終焉──あだち充と戦後日本の青春」。
あだち充の現状最後の少年誌連載作品である『クロスゲーム』読み解きの完結編です。浅野いにおの『ソラニン』とも同時期の連載だった本作の底に垣間見える、2000年代前半の新自由主義的な時代性を捉え直す視点について検証します。(前編はこちら

碇本学 ユートピアの終焉──あだち充と戦後日本社会の青春
第20回③ ゼロ年代における新自由主義の行方を描いていた『クロスゲーム』(後編)​​

『クロスゲーム』連載が開始された2005年ぐらいの空気感(承前)

浅野いにおが『ソラニン』のあとに2007年から「ヤングサンデー」で連載を開始しつつも、同誌が休刊したため「ビッグコミックスピリッツ」に移行した連載作品が『おやすみプンプン』だった。この作品の主人公であるプンプンは人としては描かれておらず、彼とその家族だけがらくがきのヒヨコのような姿であるなど実験的なシュルレアリスム表現がされていたが、その内容はまさに1970年代後半から1980年代前半生まれ(浅野いにおは1980年生まれ)の人たちの幼少期から青年期とリンクする、ゼロ年代中盤前の同時代性とシンクロするような物語だった。私は上京後に浅野いにお作品にリアルタイムでハマっていき、自分たちの世代の漫画家としてその作品に自分を重ねることができていた。

ちなみに「ビッグコミックスピリッツ」で2014年から連載が開始された『デッドデッドデーモンズデデデデストラクション』が、今年の3月に入って最終回を迎えて終わった。『デッドデッドデーモンズデデデデストラクション』はいわゆるディストピアものであるが、内容はクリストファー・ノーラン監督『インセプション』&『インターステラー』&『TENET』×『魔法少女まどか☆マギカ』の要素を感じさせる漫画だった。その組み合わせにおける並行世界であったり、3次元以上の4次元や5次元という高次元だったりといった世界の表現もされている。また、登場人物が元居た世界で起きた出来事を修正するために違う時間軸へ移動するなどの設定も含め、本作はこの20年近くに起きた現実世界とネット社会が当たり前に混ざり合うようになった世界を見事に漫画として表現しているように思う。
実際には令和4年に終了したわけだが、平成後期のゼロ年代以降のひとつの集大成的な表現でもあるように思える。それもあって、私としては浅野いにお作品は「戦後日本社会における平成的な青春」を描いていると思っていたのは間違いではなかったように感じている。

そして、当時リアルタイムで読むことができていなかった『ソラニン』と同時期に連載がされていた『クロスゲーム』を2020年代に改めて読むと感じるのは、この作品がもつほかのあだち充作品と圧倒的に違う点だ。それは前述したように星秀学園高等部野球部における一軍と二軍の戦いがメインになっていることである。

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