「パレード」から読み解くニューヨーク(後編)|橘宏樹 | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2023.07.12
  • 橘宏樹

「パレード」から読み解くニューヨーク(後編)|橘宏樹

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「パレード」から読み解くニューヨーク(後編)|橘宏樹

橘宏樹さんが、「中の人」ならではの視点で日米の行政・社会構造を比較分析していく連載「現役官僚のニューヨーク駐在日記」。
ニューヨークの名物イベントである「パレード」は、さまざまな異文化との接点になっています。時には政治的な主張に利用されるこのパレードから、グローバルな文化状況を分析しました。
前編はこちら

橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記
第10回 「パレード」から読み解くニューヨーク(後編)

4 イスラエル・パレード

 毎年6月に行われるイスラエル・パレードは、AAPIパレード以上に「政治的」です。今年は特別な事情もあって、一層バチバチしていました……。

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▲ホークル知事(左手を挙げた白いジャケットの女性)も参加。横にはニューヨーク州選出の連邦下院議員はじめ有力政治家がズラリ。(JCRC-NY Celebrate Israel Paradeのtwitterより)
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▲子供の参加が特に多いパレードです。(JCRC-NY Celebrate Israel Paradeのtwitterより)

 イスラエル・パレードは、ニューヨークのユダヤ人たちが、イスラエル国家の存続を訴えサポートの意志を表明する目的で行われ、1965年から約70年続いています。今年は6月4日に開催され、イスラエル建国75周年の祝賀の意味も込められていました。今年はセントラル・パークの東側、57番通りから73番通りまで南から北に歩いていました。

 毎年約4万人もの人々が練り歩きに参加しているとのことですが、パレードはイスラエルの国旗で埋め尽くされ、どのグループもほとんどみんな同じような青色のTシャツを着ています。パフォーマンスを行うグループは少なく、フロートの上のDJやミュージシャンの演奏に合わせて時々踊りながら、基本的には歩くだけのグループが多く、ジャパン・パレードに比べると、実に「一様」です。また、さすが子だくさんのユダヤ人だけあって、小学生から高校生くらいまで、非常にたくさんの子供たちが参加しているのが、印象的です。

 主催団体はJCRC-NYというニューヨークにたくさんあるユダヤ系団体を取りまとめるアンブレラ組織で、政治的影響力が非常に強い団体です。パレードには、アダムズ市長のみならずホークル知事も参加します。今年のグランド・マーシャルは、ハーレー・リップマン氏という、米国最大の IT コンサルティング・人材派遣系会社の一つGenesis10 の創設者兼 CEOでした。要は大富豪です。パレードにも莫大な金額を寄付していることでしょう。Foxによる生中継も行われます。さすがはメディアを制するユダヤといったところです。

 以前、本連載で、ユダヤ・コミュニティには、左派から右派まで色々な人々がいることについて述べましたが、今年のイスラエル・パレードでは見た目の一様さとは裏腹の、ユダヤ・コミュニティの「多様性」が面白いほどはっきりと見て取れました。

 まず、イスラエル・パレードは、イスラエル国家を祝福するのが目的なのですが、ユダヤ教の超正統派の人々は、メシア(救世主)が現れないと真のユダヤ国家は実現できない、しかし、まだメシアは現れていない、だから現在のイスラエル国家は偽物であり、認められない、という立場を取っています。なので、沿道の片側のある場所で横断幕やプラカードを立てて、パレードに対し、「イスラエルはユダヤ国家ではない」と、しっかりと抗議しています。ちなみに、彼らは大声で怒鳴ったりはせず、粛然と居並んで淡々と反対の態度を示すのみです。

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▲イスラエル・パレードに「イスラエルはユダヤ国家ではない」と抗議する超正統派の人々

 他方で、今年は特別な事情から、パレードは左派からの抗議にもさらされていました。現在、イスラエル国内では、極右政権が、最高裁の判断を国会が覆せるようにするなどの司法制度改革案を通そうとしています。これに対し、民主主義の根幹である三権分立・司法の独立を脅かすものであるとして、大規模な抗議デモが続いたり、軍の予備役の一部は任務を拒んだりと、大揉めに揉めています。アメリカのユダヤ団体や有識者らも、いつもは中東におけるイスラエルの存続のサポートに徹するのみで、イスラエル内政については口出ししないのが常なのですが、こればかりは、民主主義の国アメリカの国民として看過できないようで、各種メディアで批判が展開されています。

 そんな状況下での今年のイスラエル・パレードに、イスラエル本国からは、複数の国会議員らとともに、なんと司法制度改革を押し進める張本人であるロズマン法相が練り歩きに参加していました。これに対して、左派の人々が、超正統派が陣取る沿道の逆の沿道を、拡声器を持って、ロズマン法相や国会議員らの練り歩きグループにずっと並走しながら、「司法制度改革は民主主義の危機だ、直ちに止めろ」「植民地でのパレスチナ人いじめは恥だ。すぐ止めろ」と、訴えかけていました。少しうがった見方かもしれませんが、法相らの前を行くフロート上のスピーカーからは大音声の音楽が流されていたのですが、それは、こうした拡声器の声をかき消すためだったのかな、などと沿道から見ていて思いました。

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▲「Shame(恥を知れ)」「イスラエル国家は愛するが現政権は支持しない」などのプラカードを持って沿道でパレードに並走する人々。

 さらには、アジアン・ヘイト・クレイム以上に長い歴史のある、反ユダヤ主義の人種差別の人たち(髭もじゃで服装の汚い白人中高年ばかり。多分トランプ派)もまた、拡声器を持って、パレードに並行しながら、汚い言葉で罵声を浴びせたりしているのも何度も見かけました。パレードに割って入ろうとする人もいて警備員に咎められたりしていました。

 文字通り、右から左から、大変です……。これに比べたら、ジャパン・パレードはなんて平和なんだろう、とつくづく思います。

イスラエル・パレード2023のニュース動画

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