「パレード」から読み解くニューヨーク(前編)|橘宏樹 | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2023.07.12
  • 橘宏樹

「パレード」から読み解くニューヨーク(前編)|橘宏樹

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「パレード」から読み解くニューヨーク(前編)|橘宏樹

橘宏樹さんが、「中の人」ならではの視点で日米の行政・社会構造を比較分析していく連載「現役官僚のニューヨーク駐在日記」。
今回はニューヨーク名物の「パレード」について紹介します。「ジャパン・パレード」をはじめとして、異文化に積極的に触れられる場となっているこれらの行事は、どのような意図で開催されているのでしょうか。

橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記
第10回 「パレード」から読み解くニューヨーク(前編)

 おはようございます。橘宏樹です。6月のニューヨークは異常気象から始まりました。カナダでの山火事の煙が流れ込んできて、空がオレンジ色に染まりました。CNNによればこの時の大気汚染の程度は瞬間的ながら世界最悪だったとのことです。太陽の翳り方からして、世紀末というか、地獄というか、火星というか、なんとも現実感のない光景が広がっていました。空気もはっきりと焦げ臭くて、煤を吸い込んでしまう感覚が明確に感じられ、久しぶりにマスクをして外出しました。数日間外出を控えた方も多かったと思います。うちも9ヵ月の赤ちゃんの散歩は控えました。

NY市の大気汚染、世界最悪級に 米北東部を覆うカナダ森林火災の煙(2023年6月7日 CNN)

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▲6月6日のニューヨーク市内の様子。セピア色化などの加工はしてません……

 さて、ニューヨーク界隈のイノベーションシーンについて前編中編と2回にわたってお話ししてきたところですが、諸事情ありまして、後編に入る前に、ニューヨーク名物の「パレード」についてお話ししてみたいと思います。

 ニューヨークではよく、目抜き通りの交通を止めて、一定の距離を人々が練り歩く、様々な「パレード」が催されます。目的も参加者も色々です。ニューヨークの日系人コミュニティも「ジャパン・パレード」というパレードを催行しています。パレードはだいたい気候の良い3月から6月にかけて行われます。たいてい先頭はニューヨーク市警の騎馬警察が務め、そして消防隊と続いたあとは「グランド・マーシャル」と呼ばれる、そのパレードの象徴となる人物が現れます。グランド・マーシャルがどういう人物なのかは、パレードの性質を理解する上で重要なポイントになります。また、「フロート」と呼ばれる飾り立てられた山車を伴うグループも多く、壇上では歌や踊り、DJのパフォーマンスなどが繰り広げられ、パレードを盛り上げています。ちなみにフロートは、たいていスポンサーが400万円~600万円くらいの寄付を行って出すようなのですが、ここだけの話、日本の高校の文化祭でももっとマシなもの出てるだろうと思うような、実費がかなり抑えられてる感の強い造作のものも多いです……。差益を出すためでしょうね。

 パレードはそれぞれ、あくまで(毎年恒例の)お祭りであって、いわゆるデモとは違い政府等に対する強い要求を行っているわけではないのですが、ものによっては、より一層ニューヨークの人々から支持を得られやすいよう、楽し気でまろやかな形をとって、政治的主張を行っているものもあります。

 そこで今号では、ジャパン・パレードを含むニューヨークの有名なパレードを5つほど取り上げて、時期・目的・場所・グランドマーシャル・主催者・参加者・特徴等についてざっくり比較してみたいと思います。開催月順にお話ししていきます。

1 セント・パトリック・ディ・パレード

 セント・パトリック・ディ・パレードは、毎年3月17日、アイルランドの文化と伝統を祝い、アイルランドの守護聖人である聖パトリックを讃えることを目的として行われるパレードです。四つ葉のクローバーが象徴で、緑がテーマカラーです。バグパイプの音が響き渡ります。場所は、2023年は、ご存知、マンハッタン最高の目抜き通り五番街の 44 ストリートから79ストリートを歩きました。当然、50-51ストリートにあるセント・パトリック大聖堂の前は通りつつ、市街地からセントラル・パークのすぐ東を抜けていきます。第一回は1762年で、アメリカの独立よりも14年早いという、かなり長い伝統のあるパレードです。ニューヨーク市のアイルランド人コミュニティが主催しています。グランド・マーシャルは、著名なアイルランド系アメリカ人か、アイルランド系アメリカ人コミュニティの功労者であることが多いです。

ニューヨークのセント・パトリック・デイ・パレード2023のウェブサイト

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▲セント・パトリックデイ・パレードの様子。パレード自体のテイストは割とミリタリー色強め。

▲セント・パトリックデイ・パレード2023のニュース動画(CBS New York)

 このパレードの特徴は、思い思いの恰好ながらも、アイルランド国旗と四つ葉のクローバーをアクセントに使いつつ、全てが「緑一色」に染め上がっていることです。行進する集団の多くも、アイリッシュな民族衣装や軍服でビシッと揃えていて、統一感が半端ないです。しかも、会場周辺だけではなく、この日はほぼマンハッタン全体が緑色になると言っても過言ではありません。パレードの参加者や観覧者の服装のみならず、会場から遠く離れた場所でも、緑色の恰好をして歩いている人々を多く見かけます。また、アイリッシュパブは当然として、街中のあらゆるお店が、緑色に飾り立て、時には割引や特別メニューなどを出します。さすがニューヨーク最古のパレードという浸透ぶりです。街中の緑は、華やかで楽し気な明るい緑なのに比して、パレードそれ自体は制服の髭のおじさん多目で、いかつく渋い深緑なテイストだったりするギャップも個人的にはツボです。いずれにせよ、この日の緑の持つインパクトはあまりにも大きく、街中では、緑と言えば、聖パトリックであり、アイルランドである、と連想させるチカラはかなり大きいです。ニューヨークにおけるアイルランド人移民の誇りが緑に込められ、しっかり浸透し、顕示されています。そして、タイミング的にも、パレ―ドの当日はまだまだ寒いものの、この明るい緑には、「ああニューヨークもやっと長い冬も終わり、そろそろ春がやってくるのだな」という予感をニューヨーカーに与えるチカラもあるようです。

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