「ショートムービー以降」のインターネット(前編)|天野彬 | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2023.05.23
  • 天野彬

「ショートムービー以降」のインターネット(前編)|天野彬

本日のメルマガは、マーケターの天野彬さんと宇野常寛との対談をお届けします。
TikTokに代表される「ショートムービー」はインターネットをどう変えたのか。TikTokとそれ以前のSNSとの違いを比較しながら議論します。
(構成:徳田要太、初出:2022年5月24日(火)放送「遅いインターネット会議」)

「ショートムービー以降」のインターネット(前編)|天野彬

宇野 本日は「ショートムービー」をテーマに対談を企画しました。10代を中心に若い世代の消費行動に圧倒的な影響力を持っていると言われる、TikTokをはじめとしたショートムービーですが、僕たちの世代からすると別世界にも思えるこの新世代の利用スタイルをどう受け止めるべきなのか。近刊『新世代のビジネスはスマホのなかから生まれる』で注目の、天野彬さんと議論していこうと思います。天野さん、よろしくお願いします。

天野 よろしくお願いします。

宇野 早速ですが天野さんには自己紹介を兼ねて、『新世代のビジネスはスマホのなかから生まれる』の内容を簡単にご紹介いただければと思います。

天野 はい。それでは本の内容をかいつまんでお話しさせていただいて、この後のディスカッションの材料を提供させていただこうかなと思っております。僕はこれまでソーシャルメディアに関連する調査や、それをもとにしたコンサルティングなどの仕事をずっとしてきました。2019年には『SNS変遷史』という本を出版し、そのときにもPLANETSさんのトーク番組でお話しさせていただくなどして、書籍以外での情報発信活動もいろいろとさせていただいています。

宇野 こういう紹介をされると、本当に広告代理店の研究スタッフが突然現れたような印象を持たれるかもしれないんですが、天野さんは経歴を細かく見たらわかるように、もともと人文社会系の訓練を受けている人なんですよね。そういうバックボーンがあってマーケティングの世界に入っていったタイプの人なので、僕ともかろうじて話せるみたいな(笑)、そういう関係があるんですよ。

天野 そうですね。学生時代はいわゆる批評系の本も好きで宇野さんのご著書も読んでおりましたし、そういう人文系のエッセンスはこの本にも現れているかもしれません。帯の推薦文を書いてくださった方にはドミニク・チェンさんや眞鍋亮平さん、徳力基彦さんなど、人文アカデミズム系からビジネス系まで、あまり同列に並ぶことがない名前が載っている、少し不思議な本なのかなと思います。

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 帯の裏には「TikTok売れ」とあり、これが本書の一つのキーワードになっているんですが、要するにTikTokで取り上げられたものが売れる、ものが動くということです。コンテンツが流行ったり、商品が売れたり、そういうことがたくさん起こっていて、それがなぜなのかということを大きなトピックとして論じています。

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 この本の狙いとしては、一つには「SNS社会論」として世の中の一般の方々に訴求したいという思いがあります。まだまだTikTokも新しいテクノロジーなので、功罪いろいろな議論があると思いますが、僕としてはこういうものが社会にもたらすポジティブな面をどういうふうに描けるのか、それをどういうふうに見つけるのかというところに主眼を置いています。広告というのは、商品やサービスの良さはどこにあり、それが生活者にとってどんな価値になるのか、それを見つけて最大化してコミュニケーションするのがそもそもの大きな役割ですよね。

 あとはもっと特定の領域にグッとフォーカスしたものになりますけど、第二に「SNSマーケティング」の今の潮流はどうなっているのかという、企業の方々が大変興味がある分野も論じています。これまでの著作で論じてきたことも踏まえつつ、2022年現在の見取り図を提示しています。

 そして第三に「TikTokのすごさの分析」。ショートムービーの代表的なサービスであるTikTokのすごさがどこにあるのかということを、ユーザーベネフィットや、ユーザーの楽しさや価値、マーケティングオポチュニティの点から論じました。また「ソーシャルインパクト」という言葉を使いましたが、TikTokは若い人にとってはある種のカルチャーだったり、社会的影響を与える手段として使われている部分もあります。日本だとそうでもないですが、アメリカではソーシャルアジェンダや政治的なメッセージを発する場としても使われています。

 それぞれの視点から深堀りをしていって、せっかくなので宇野さんのようにTikTokを使ったことのない人にも興味を持ってもらえるような、そんな本にしたいなというふうに思って執筆しました。

 今日はせっかくの機会なので、4つほど宇野さんにお聞きしたいことを考えてきました。一つが、「そもそもTikTokってどうですか?」と。TwitterとInsagram、Facebookあたりは使っていらっしゃるのを存じ上げていますが、あまりTikTokは使われていないような印象があります。

 二つ目は率直に、この本のご感想も聞いてみたいということ。

 三つ目が、言論活動というものと、TikTokを含めたショートムービーとの相性、あるいはそれらが影響し合う環境をどうとらえているのか。このあたりはまさに「遅いインターネット」の問題と深く関係するところかなと思っております。

 最後に、TikTokが、広く日本のカルチャー内で流行ることによって、みんながこれを見たり発信したりすることによってどのような影響があるのか、お考えを聞いてみたいです。長くなりましたが、僕からは以上です。

TikTokの持つ「中間性」

宇野 まず最初の質問から答えると、ほぼ触ったことがないに等しい。本当に僕の私生活にも仕事の中にも入ってこない。でも、天野さんの本を読むとどれだけ流行っているのかわかりますよね。はっきり言うと自分の老いをすごく感じさせる存在です。僕の8歳下の天野彬としては、これは自然と触れるものなのか、それとも仕事として触れるものなのか、聞いてみたい。

天野 そこは半々かもしれないですね。流行り始めたころに一度ダウンロードはして、コンテンツはいろいろ見ていました。でもたぶん宇野さんと同じ感想というか、「これはあんまり自分に縁がないものなのかな」と思ったところはあって。ただ、ユーザーが増えていくにつれて、「職業柄これはキャッチアップせねばならん」という、もう半分は義務感があったかもしれません。

宇野 僕が普段どういうふうにSNSを使っているかというと、一番使っているのはFacebook。これは大半が仕事の連絡用です。Twitterはほぼ告知専用で、単に「今日は○○があります」とか「何日にこんな記事が出ます」と淡々と告知しています。インスタは完全に個人的なもので、ランニング中の風景や食べたもの、おもちゃの模型ばっかりを上げていて、要するに僕の好きな世界や僕の考える美しいものだけが並んでいるんですよ。主に使っているSNSはこの3つですね。

 こういう使い方をしてると、TikTokは完全に視界の外側にあるんです。だから、誰がどういうふうにこのSNSを使って、どう伸びてるのかというところを、いま僕が言ったような文脈を加味しながら話してほしいと思っています。

天野 そうですね。Instagramは、いままさに好きなものだけを載せているとおっしゃいましたけれど、やはりみんなが好きなものをシェアしたり、それを深掘りしたりする場所ですよね。Instagram自体も公式で「好きと欲しいを作るメディア」だという説明をしています。そういう意味では、たとえば日本人はストーリーズ更新がアクティブですし、パーソナルなコミュニケーションに使われていますよね。

 Twitterはそういうパーソナルなものというよりは、やはり世の中全体の視点が入ってくる。「いまみんなが何を話してるのか」「何が話題になっているのか」とか、話題になっているものに対してのほかのユーザーリアクションを見たり、そこに入って盛り上がるみたいな、世の中視点が強いのがTwitterの特徴だと思います。

 TikTokは、おそらくどちらかというとTwitterに近いんですよね。みんながいま何に興味があるのかという視点がある。でもやはりTwitterとは決定的に違うところがあって、たとえば多くの一般的なSNSは自分がフォローしたアカウントを見るのが一般的な仕組みですが、TikTokはそういうわけではなく、ユーザーは「おすすめ」(タブ)を見るんです。つまり「いまこれが流行ってるよ」とか「あなたはこれが好きですよね」と機械がおすすめしたものを見る割合のほうが高いという調査結果が出ているんです。それはつまり、それまでのSNSのように好きなアカウントをフォローして見るというよりは、いま流行ってるものとか、自分が好きだと機械がおすすめしてくれるものをずっと見続けることで時間が溶けてしまうという視聴体験になっているわけです。自分からコンテンツを探さなくていい、ある種の手軽さがあって、少しテレビと通じるところがありますよね。インターネットは自分の欲しいものが探せる良さがあったわけですが、この両者の中間的な部分をカバーしています。つまり自分が今まで見てきたデータに基づいて、受け身でもたくさん情報が得られる。受動態・能動態に対して、國分功一郎氏の議論を踏まえて「中動態」と表現するのが適していると思いますが、、そういう新しい情報の体験になっているところもこれまでのサービスに対して優位性を持っているところです。

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