宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2019.11.01
  • 稲葉ほたて

稲葉ほたて×宇野常寛 実況者のファンは誰なのか? 闘会議から見えるオタクの現在(PLANETSアーカイブス)

今朝のPlANETSアーカイブスは、2015年に幕張メッセで開催されたイベント「闘会議2015~ゲーム大会とゲーム実況の祭典~」をめぐる、稲葉ほたてさんと宇野常寛の対談をお届けします。〈実況〉に〈ゲーム〉が従属しているという状況が明らかになった2015年の「闘会議」。かつて総合芸術の最新型だった〈ゲーム〉は、プラットフォーム優位の時代にどこへ向かうのかを考えます。(初出:「サイゾー」2015年4月号)
※本記事は2015年4月21日に配信された記事の再配信です

■ 闘会議で明らかになった「実況生主好きの女子中高生」と「昔ながらの男性オタク」の分断
宇野 「闘会議2015」(以下、「闘会議」)には、公式放送のコメンテーターとして最終日の午後から参加したんだけど、正直カルチャーショックだった。まず目についたのは、若い女子が実況生主【1】系のブースに大量に押しかけていたこと。彼女たちが「アイドル」として生主や実況者を消費していて、その動員力もすごい。いや、もちろん「歌ってみた」「踊ってみた」の頃からある現象なんだろうけど、それ以上のショックだった。
 それに合わせて、客層の断絶も感じた。例えば中村光一【2】さんの来場に盛り上がる往年のサブカル/ゲーム好きと、実況生主好きの女子中高生という2つの世界観に分かれていて、それらが基本的には没交渉という(笑)。
 ただ、こうした断絶も含めて、ここにはいま「ゲーム」をめぐる状況が全部詰まっていると思った。要するに、スマホがプラットフォームのひとつとして定着した現代のゲーム業界地図がきれいに出ていたと思うのね。大手ソフトメーカーとガンホーのような新興勢力が並んで、中央にはかたくなにスマホを拒否している任天堂が独立して静かに鎮座している、みたいな(笑)。そしてそれとは別にニコニコ動画を中心に、実況というゲームプレイを見るだけ、つまりコミュニケーションツールとしてのゲームという文化が定着した。
 ゲームバブルの崩壊からさらに二重三重の破壊があって初めてゲーム業界の硬直化が結果的にほぐれて、全体性を記述しうるイベントができるようになったんだな、というのが僕の大雑把な感想だね。
【1】実況生主
ここでは、ゲームのプレイ動画を「実況」放送する配信者のことを指す。以後の「ゲーム実況者」「実況者」も同様。ひたすらゲームの内容をしゃべりながらプレイする動画を流しており、ニコニコ動画の初期からあったジャンルだったが、ここ数年で一気に存在感を増している。ゲームの腕だけではなく、しゃべりの面白さやキャラの強さなども人気のポイントになる。若年層に絶大な支持を受け、人気実況者4人のユニット「M.S.S Project」は昨年3月に渋谷公会堂でライブイベントを開催した。
【2】中村光一
ゲームクリエイター。スパイク・チュンソフト代表取締役、ドワンゴ取締役。『ドラゴンクエスト』をつくった人物のひとりとして知られる。その他代表作に『弟切草』『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』『かまいたちの夜』ほか。
稲葉 ニコニコ動画の初期は、同人文化が盛り上がっていったシーンを経験したオタクたちの作ったカルチャーで、目立つ担い手は明らかに男が多かったんです。ところが、その後ボカロや歌い手の勢力が強くなるにつれ、10代女子のユーザーが増えていった。宇野さんは「断絶」と言いましたが、それも奇妙な断絶の仕方になっていて、いわゆるかつての同人的なサブカルチャーを相当変質した形で引き継いでいるのが実は10代女子のカルチャーなんです。『艦隊これくしょん』に続いてDMMが出した『刀剣乱舞』【3】が女子に爆発的に受けているのがわかりやすい例ですが、これは近年のオタクカルチャー全体における隠れた論点です。深夜アニメのタイムラインで興奮してるアニメアイコンって、実はいま女子が相当に多いじゃないですか。
【3】『刀剣乱舞』
DMMゲームズとアダルトゲームメーカー・ニトロプラスによる「刀剣育成」シミュレーションゲーム。ブラウザゲームで、ユーザーは「物に宿る心を目覚めさせて引き出す能力者”審神者”となり、武具から目覚める戦士「刀剣男士」を司る。彼らを束ねた「白刃隊」を率いて、過去に干渉して歴史を改変しようとする「歴史修正主義者」を討伐してゆく。今年1月のサービス開始から即ヒットしており、pixivランキング上位を同作の二次創作が占めるようになっている。
宇野 オタクの人数の割合として、起業したり制作側に回るのは男性が多いから目立っていなかっただけで、アニメやマンガはもともと女性ユーザーが多いという説はずっとあるんだよね。それがニコ動経由で、歌い手文化などをきっかけにゲームに流れ込んできたというのは有力な仮説かもしれない。

 

稲葉 それに加えて、この10年くらい、二次創作の現場を含めて女性のオタク業界に関しては「ステージの下で盛り上がる」という文化がずっとありました。ジャニーズやV系、2・5次元舞台などの流れの中で、ネタが投下されたときの盛り上がり方が共有されている。そういうステージカルチャーへのリテラシーがあった上で、いろんなジャンルにいたファンたちが「ゲーム実況が面白いらしい」という情報を得て参入してきているようです。

 

宇野 これは僕がよく言うことだけど、そもそも今の男性向けのアイドルブームも、AKBの「宝塚文化の密輸入」から始まっているからね。そして間接的にV系の文化なども入ってきていると思う。つまりステージカルチャーやファンコミュニティの文化においては、女性のほうが先進的なんだよね。そしていまや、より複雑化した素人の神格化に突入していて、それがおそらく今のゲーム実況者ブームなんだと思う。「ゲーム実況ブーム」じゃなくて「ゲーム実況者ブーム」だということがポイント。

 

稲葉 これはすごく重要ですね。というのも、実はブームといってもニコニコでのゲーム実況者の数自体は増えていないんですよ。近年のステージカルチャーの特徴に、ステージと客席間の疑似恋愛的関係が挙げられますが、これは実況者も同じ。つまりファンが増えても「ステージ下でキャーキャー言っているのが楽しいから、ステージに上がろうとしない」ということが起こる。
 ただ、そもそも「実況」の文化って、ニコニコに限らずネットの中に古くからあるカルチャーなんです。みんなで「バルス」と書き込むこと【4】かもしれないし、あるいは2ちゃんねるでスレを立てて、ということかもしれないけど、テキストなり音声なりでリアルタイムの事象を追いかけながら、わいわい盛り上がるという。それを擬似同期的に実装した場所で生まれたのがニコニコの実況で、その中でいまはゲームがいちばん人気がある、という視点が重要です。最近は、ゲーム実況者が別のジャンルの実況もやっているのがいい例で、「旅動画」【5】なんかも広義の実況でしょう。これはつまり、ゼロ年代のカルチャー論でよくいわれていたような「ゲームや音楽にネットワークが入ってくることによってネタ消費になった」というところから7〜8年が経って、「ネタ消費の仕方そのものに形式やジャンルがあって、楽しみ方にパターンがある」ということが構造化されて見えてきたんだと思うんです。そして、もはやゲーム実況を考える上では、実況こそが本質にあって、ゲーム論は二義的なものでしかないというくらいに事態は反転した。そうなると、もうこういう「遊び」の分析に焦点を合わせないと、カルチャーを語るのは難しい。
【4】みんなで「バルス」と~
アニメ『天空の城ラピュタ』がテレビで放映される際、リアルタイムで視聴している人たちが劇中の展開と同時にツイッターに「バルス!」と書きこむのがここ数年お約束となっている。13年8月の放映時には秒間14万3199ツイートという過去最高の数字に到達し、ツイッター運営側を驚かせた。
【5】「旅動画」
人気実況者が各地に旅行にいく様子を撮影した動画。『水曜どうでしょう』風の企画などもある。
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