宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2019.12.03
  • 丸若裕俊

丸若裕俊 ボーダレス&タイムレス――日本的なものたちの手触りについて 第9回 渋谷の街から考える〈見立て〉と〈閒〉(後編)

工芸品や茶のプロデュースを通して、日本の伝統的な文化や技術を現代にアップデートする取り組みをしている丸若裕俊さんの連載『ボーダレス&タイムレスーー日本的なものたちの手触りについて』。かつてストリートカルチャーが隆盛し、現在は東急が力を持つようになった渋谷に、GEN GEN ANは何をもたらそうとしているのか。都市空間から生活の場へと浸透していく〈閒〉の思想の可能性について語り合います。(構成:菊池俊輔)
※本記事の前編はこちら

銀座の巨大商業ビルで「閒」に出会う

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宇野 ここまで丸若さんと「体験のデザイン」と「平和なカオス」についての話をしてきましたが、後者についてもう少し僕なりに解釈してみたい。
90年代の渋谷のストリートには「平和のもたらしたカオス」があったと思うんですよね。僕は雑誌の中でしか知らないけど、丸若さんは実際に体験していると思う。しかし、それは当時のアフターバブルの東京という経済的条件と、インターネットがまだ生まれていない情報環境があって初めて成立したものだから、二度と戻ってくることはない。
さすがに今の渋谷にそんなことを考えている人はいないと思うけど、90年代のカオスな渋谷を現代にそのまま再現するのはどう考えても無理ですよね。
90年代の渋谷は、バブル的なラグジュアリーのカウンターパートで、バブル後のストリートから若い世代によって、ジャンクで勢いのあるカオスなカルチャーが生み出された。そういった力学があってはじめて、90年代の渋谷のストリートは成立していたと思うんですよね。それを踏まえると、丸若さんが今、渋谷でGEN GEN ANを開いていることは、結果的にそこに生まれてくる意味も含めて、すごく考えちゃうんですよね。丘の上のパルコは、今度復活するんでしたっけ?

丸若 今年の11月にオープンしましたね。この時代に巨大建造物作って何を伝えるのか?そして誰に?という思いの中、実はそこでもある取り組みがスタートします。こちらについては、後日またお話ししたいです。

宇野 90年代に「丘の上の西武」と「谷底の東急」の対立があって、東急が勝つ形で和解を果たし、その後は東急が駅の南側や東側に「渋谷」を広げるかたちで巨大な開発が行われている。これは東急的な駅ビル中心の最適化が勝ったという流れなんですよね。いまの東急の戦略は、ストリートから建物へ。谷底から丘の上へのストリートが渋谷なのではなくて、ヒカリエとかストリームと言った「駅ビル」を拠点に働き、生活できるエリアが渋谷「圏」という発想でエリアマネジメントしている。この力が強くて、かつてのストリート的なものは劣勢になっている。
当時の文脈では、銀座的な大人の文化に対する渋谷的な若者の反乱でバランスが取れていた。ラグジュアリーに対するいい意味でのカウンターパートとしてカオスがあった。「バブル的なラグジュアリー」に対する「アフターバブル的なカオス」が、渋谷のストリートカルチャーだった。だとすると、GEN GEN AN的なものって東急的な最適化の重力に渋谷エリア全体が惹きつけられているときに、そこにノイズ的に入り込む「閒」なんだと思うんですよね。

丸若 今までは、広尾や青山といったお洒落スポットにつくられていたものを、既存の価値観とガチンコでぶつかるところと何と無く調和するでは無く、思いっきりアンチテーゼとして20世紀的な価値観で作られた人工的な都市につくる。

宇野 いい意味で対抗するというか、陰と陽みたいな関係ですよね。バブル期のDCブランドブームとかイケイケの消費社会カルチャーがなければ、90年代後半の渋谷ストリートもなかっただろうし、今の駅ビル化・最適化・巨大建築化の流れがあるからこそ、丸若さんのGEN GEN ANが体現する「閒」も力を発揮できる。巨大な時代の動きに対する応答として、クリエイターの力が発揮されていく。
最近のGoogle Mapsでは、ライドシェアやコミュニティサイクルを検索できるようになっていていますが、今後MaaSが普及すると、人々は建物から建物へ最短ルートで移動し、目的地まで迷わずにたどり着けるようになる。そうなるとストリートカルチャーはますます死んでいくと思います。ストリートカルチャーは街をフラつくことが前提なので。だからこれからの時代は目的の場所に、目的ではない「変なもの」がなぜかあることが大事になるんですよね。東京中が駅ビル化している今、この流れは変えられない。でも、そんな時代だからこそ、訪れた先に「変なもの」があるというハックは面白いですよね。都市の中になぜか最適化されていない領域があって、そこは「空間」ではなくて「閒」であると。

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