宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2020.06.03

イノベーティブな関係性を創る〜大阪・メビックの活動を通して(前編)| 堂野智史

NPO法人ZESDAによる、様々な分野のカタリスト(媒介者)たちが活躍する事例を元に、日本経済に新時代型のイノベーションを起こすための「プロデューサーシップ®」を提唱するシリーズ連載。第4回目は、大阪市の施設「クリエイティブネットワークセンター大阪 メビック」でクリエイター・デザイナーの支援活動に取り組む堂野智史さんです。業界文化や慣習の違いを越えて、クリエイターと企業が真にイノベーティブな関係を育むには、どんな後押しの仕方が適切なのか。「コミュニティ・プロデューサー」としての丹念なノウハウの積み重ねが説かれます。

プロデューサーシップのススメ
#04 イノベーティブな関係性を創る〜大阪・メビックの活動を通して(前編)

 本連載では、イノベーションを引き起こす諸分野のカタリスト(媒介者)のタイプを、価値の流通経路のマネジメント手法に応じて、「inspire型」「introduce型」「produce型」の3類型に分けて解説しています。(詳しくは第1回「序論:プロデューサーシップを発揮するカタリストの3類型」をご参照ください。)

 今回はカタリストの第2類型、すなわち、イノベーターに「コネ」を注ぐ「introduce型カタリスト」の事例の第1弾として、メビック(2020年3月以前の名称は「メビック扇町」)で活躍する堂野智史氏をご紹介します。

 イノベーションには、今までにない出会いが重要。そのためにはマッチングが重要。そのためにはコミュニティが重要。そのためには場づくりが重要──。そこかしこで繰り返し聞かれる言説です。しかし「言うは易し、行うは難し」です。具体的に、誰が何をすればイノベーティブなマッチングがたくさん生まれるコミュニティを継続的に運営できるのでしょうか。大阪はメビックを拠点にクリエイターと企業のコミュニティを運営する堂野さんは、カタリストとしてひとつの模範解答を提示しています。

 堂野さんの手法において、特に着目するべきポイントは2つあります。1つ目は「自分事化」です。堂野さんは、多くの若手を含む現役のクリエイターから「クリエティブ・コーディネーター」を任命して、コミュニティ運営やマッチングを担わせています。彼らは「自分事として」クリエイター側の事情や気持ちも理解した上で、クリエイターに企業側の論理やニーズを説明することができます。その逆も然りです。カタリストとしてのメビックは、まさに「マルチ・リテラシー」を有しているからこそ可能となる精度の高い橋渡しによって、多くのマッチング成約の実績を重ねているのです。

 2つ目は、「刺激と共感のバランス」です。同質性の高い人々が集まっているだけのコミュニティでは、新規組み合わせは生まれません。かといって、基本的な価値観があまりに異なっていれば、ワクワクを共有するのが難しくなります。そこでメビックは、外部でのネットワーキングによって「良さそうな」企業やクリエイターを見繕ってはコミュニティに誘って絶えず外の血を入れると同時に、頻繁にプレゼン大会や交流会を営んでインフォーマルな人間関係を醸成するという、車の両輪を回しています。そして、あくまで自発的な共感によってコラボレーションが生まれるのを待つのです。

 豊富な実績を絶えず積み重ねるメビック。仲介にきっちりコミットしたり、コラボレーションの芽生えをじっくりと待ったり。ケース・バイ・ケースでメリハリを利かせた絶妙な匙加減に「プロの」introduce型カタリストの真骨頂があります。「個人と個人の間のインフォーマルな絆が育む自発的なモチベーションこそがイノベーションを導く」と語る堂野さんの手腕から、コミュニティ運営の真髄を学びたいと思います。(ZESDA)

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はじめに  - 「コミュニティ・プロデューサー」とは何か

みなさん、こんにちは。メビック(以下、メビック)という大阪市の施設でクリエイター・デザイナーの支援活動をやっている堂野でございます。
今日は、これまでの経験を踏まえ、「イノベーティブな関係性を創る」という視点で、私自身のプロデュース論についてお話ししてみようと思います。

私自身、プロデューサーという立場に立てば、私の役割はコミュニティの形成を誘導することだと考えています。つまり人と人との繋がりを作ることで、それぞれの人が抱えている課題解決に結び付く関係性を作る存在です。つまり、「コミュニティ・プロデューサー」と呼ぶのがいいのかなと思っています。決して、私自身がビジネスを創るのではありませんので、「ビジネスプロデューサー」の役割を担う存在ではありません。

自分自身の経歴を整理すると、大学・大学院時代は経済地理学を専攻し、地域産業論、特に修論では造船業の立地配置を研究していました。修了後、恩師の薦めもあり財団系のシンクタンクに勤め、26歳から40歳まで地域振興や地域産業政策を担当していました。産業クラスター計画が全国に普及する前に近畿経済産業局で産業クラスター政策について検討したり、各地域の産業振興ビジョンや集積活性化計画、三重県ではメディカルバレープロジェクトという健康・医療・福祉産業振興といったプロジェクトに関わってきました。

シンクタンク時代の36歳の時に、たまたま出張した岩手県でINS(岩手ネットワークシステム)、通称:いつも飲んで騒ぐ会、いつかはノーベル賞をさらう会に出会い、これをきっかけにインフォーマルコミュニティの重要性について考えるようになりました。この出会いが、自分の価値観も行動様式も全て変えることとなり、その後20年以上、こうした活動に邁進しています。

その後シンクタンクの仕事を続けながら、インフォーマルコミュニティをいかに実現すべきか、試行錯誤し、失敗も経験しながら、結果、40歳の時に友人たちとともに、INSを模倣しKNS(関西ネットワークシステム)を立ち上げました。2002年12月から発足準備をし、2003年6月に第1回目の定例会を開催し、現在980回ぐらい活動しています。年4回行う定例会は次回で第65回目を迎え、京都先端科学大学で開催する運びになっています。

KNSの発足準備を始めた直後に、大阪市関係の友人からクリエイター・デザイナーの支援施設を作るが、そこの所長がいないから、現場に出てやってみないかとの話をいただきました。

シンクタンクの仕事は、調査をし、課題を発見し、そしてその課題解決の方法を提案するところまでが仕事で、提案した課題に対して課題解決を実践するのはクライアント(行政)の仕事です。クライアントの動きを見ていて、「こうしたらもっと上手くいくのにな」と歯痒い思いをすることもあり、「現場に出て自分で考えたことを実践してみたい」との思いが強くありました。そんなタイミングで、メビックの所長を探しているのでやってくれないかという知人からの誘いがあったのです。1年契約で退職金もなしというあまり良くない条件でしたが、自分の考えたことを実践できるのではと思い、2003年5月に転職をしました。そのまま17年、毎年契約の更新を続けて、今に至っています。

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インフォーマルコミュニティからの学び  -  INSからの模倣とKNSの発足

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まず、簡単にINSとKNSについて説明します。INS(岩手ネットワークシステム)とは、「岩手県における科学技術、および研究に関する人・情報の交流・活用を活発化し、共同研究を推進、科学技術、産業の振興に資する」という目的で1992年から活動しています。INSを「いつも飲んで騒ぐ会」「いつかはノーベル賞をさらう会」などと呼んで、産学官民のメンバーが個人単位で参加し、フラットな関係でコミュニケーションを取り、そこで形成された関係性をベースにして様々な形で新しい活動が行われています。最近は主力メンバーがかなりお年を取られたので昔のような勢いはなくなってはきていますが、みなさんと交流を深めるということは現在も続けておられます。

KNSはINSを模倣して作らせていただいたもので、偉い人も偉くない人も、男も女も、国も地域も年齢も飛び越えて、1人の人間としてフラットな関係性を作ったら何が起こるかという社会実験を17年間続けています。その開催回数は、既に980回を超えました。

最近は産学官民連携が持て囃されていますが、これを行うためには元々産学官に所属する人が個人的に繋がっていることが必要だと考えています。そこでKNSのような産学官メンバーが交流できるフィールドを提供しています。

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