災害ボランティアバスのプロデュース|伊藤朋子 | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2020.10.14

災害ボランティアバスのプロデュース|伊藤朋子

NPO法人ZESDAによる、様々な分野のカタリスト(媒介者)たちが活躍する事例を元に、日本経済に新時代型のイノベーションを起こすための「プロデューサーシップ®」を提唱するシリーズ連載。第10回目は、認定NPO法人かながわ311ネットワーク代表理事の伊藤朋子さんです。
たび重なる災害復興の機会を経て、いまや欠かせない存在となった災害ボランティアの方々の善意とマンパワーを、いかに安全に被災現場に送り届けるか。ボランティアバスのきめこまやかな運行プロデュースの手法をご紹介します。

プロデューサーシップのススメ
# 10 災害ボランティアバスのプロデュース

 本連載では、イノベーションを引き起こす諸分野のカタリスト(媒介者)のタイプを、価値の流通経路のマネジメント手法に応じて、「inspire型」「introduce型」「produce型」の3類型に分けて解説しています。(詳しくは第1回「序論:プロデューサーシップを発揮するカタリストの3類型」をご参照ください。)
今回はカタリストの第3類型、すなわち、イノベーターに「コネ」や「チエ」を注ぐ座組を整える「produce型カタリスト」の事例の最終回、第5弾として、認定NPO法人かながわ311ネットワーク代表理事の伊藤朋子氏をご紹介します。

 災害時に、善意に溢れた多くのボランティアの方々が、県境をまたいで被災地に入り、被災者の方々とともに復旧復興を行う活動が阪神淡路大震災以来、広く行われるようになりました。日本社会を裏糸のように支える、素晴らしい愛と絆が目に見える形で現れてくる感動的な活動です。
その一方、災害時のカオスの下で、ボランティアの労働力を適切に集め、適切に供給していくのは本当に至難です。自治体や病院、資材を寄付してくれる団体、バラバラに集ってくる個人などなど、極めて多種多様な関係者の取りまとめや調整が必要です。その調整中枢となる「事務局」は災害後にゼロから立ち上げねばならず、しかも、スピーディーかつ柔軟で決然としたリーダーシップを、現場の状況次第では、時に誰も公式に権限を与えてくれない中でも発揮していかなくてはなりません。伊藤プロデューサーは、あらゆる人材・組織(コネ)と情報(チエ)の結節点となる事務局を見事にプロデュースして、ボランティアを被災地に送り届ける「ボランティアバス」の運営を実現されました。

 伊藤プロデューサーの手腕の核には、様々な人々の「事情と想い」を高い解像度で把握し、それぞれにしっかりと応える「こまやかさ」(濃やか:愛情が深い、細やか:細部まで行き届いた)が見受けられるように思います。そして、様々な問題を一括で把握しつつも、それらを一手に引き受けたりせず、解決力を最も有する組織に対応を依頼して割り振っていきます。換言すれば、背負い込まないのです。シビアな災害現場でボランティア組織が運営の持続可能性を確保するための「しなやか」なリアリズムと言ってもよいでしょう。

 本連載では、奇しくもこれまで、荒野に敢然と道を切り拓く男性のプロデューサーのエピソードが続いていました。これと対照的に、「こまやかさ」と「しなやかさ」を兼備して被災者に寄り添いながら、過酷な地で最後まで立ち続けるタイプの、しかも女性の手によるプロデューサーシップの事例を、最後にご紹介できることを嬉しく思います。(ZESDA)

大規模災害と災害ボランティア

地震や水害、火山噴火などの災害発生時および発生後に、被災地において復旧活動や復興活動を行うボランティアを指して、災害ボランティアと呼びます。
阪神淡路大震災の時、多くの市民が被災者の救援に向かい、災害ボランティアとして大きく報道されました。これは、それまでには無かったことでした。阪神淡路大震災のあった平成7年(1995年)は、災害ボランティア元年と言われています。その後、被災者のニーズをボランティアにつなぐ、災害ボランティアセンター(以下災害VC)が被災地に開かれるようになり、災害復興を支援する団体の活動もだんだん行われるようになっていきます。
次の10年で、災害VCを現地の社会福祉協議会(以下社協)が運営する、という形が定着するようになりました。平成23年(2011年)の東日本大震災では、津波の被害に見舞われた太平洋沿岸部には、北は青森から岩手県から福島県の多くの災害VCができ、長期にわたって支援活動を続けました。多くの個人ボランティアが駆けつけ、また多くの民間団体が被災地に向かい、被災地でも多くの団体が立ち上がりました。

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図1 災害ボランティアの歴史

大きな災害が起こると、その復旧までには長い年月がかかります(図2)。この図の中で災害VCは、復旧の初期に被災した個人宅の片付けなどをメインのミッションとして問題解決に当たります。被災者のニーズを集め、参加したボランティアを割り振り、順調に安全に作業が進むようなコーディネーションを行います。

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図2 復興までの災害時支援の経時変化

発災直後の避難や救助には、警察や消防、自衛隊などが活躍します。道路復旧、公的施設の復旧は行政が行います。個人宅の片付けは被災者の作業ですが、被災者やその関係者だけで行うことは困難です。このとき手助けに必要な人手を繋ぐのが災害VCであり、人手を提供するのが、災害ボランティアです。
参加者を募集して運行する災害ボランティアバス(以下ボラバス)は、個々の災害ボランティアをチームにまとめ、被災地で効率よく作業が進むようにするための仕組みです。ボラバスを運行するにはいろいろな準備と調整、プロデュースが必要となります。
東日本大震災での事例と、最近の2018年の西日本豪雨の事例を元に、ボラバス運行のプロデュースについて説明します。

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