インフォーマルコミュニケーションを考える|西田健志・消極性研究会 SIGSHY | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2021.12.22

インフォーマルコミュニケーションを考える|西田健志・消極性研究会 SIGSHY

消極性研究会(SIGSHY)による連載『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』。今回は西田健志さんの寄稿です。
オンライン会議などリモート環境の弱点として指摘されることが多いのが、予定外の雑談のようなインフォーマルコミュニケーションが取りづらいこと。「決められていない」からこそ発生する豊かな交流の場を、どうすれば意図してデザインすることができるのか。この矛盾した命題を、徹底的に考えます。

消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。
第22回 インフォーマルコミュニケーションを考える

リモート環境を不可避的に経験する中で感じる悲喜こもごもについては、オンラインコミュニケーション技術(#6)チャットツールの活用(#15)周辺体験のデザイン(#17)、など、この連載でも複数の視点から語られてきました。

私自身も同じような経験をしてきているのですが、同じく消極性研究会メンバーの栗原さんや簗瀬さんよりも輪をかけて消極的な性分だからか、個人的には比較的心穏やかに過ごせている方なのかなとバックナンバーを読み返しながら感じています。大学はオンライン授業になりましたが、COVID-19以前から各種コミュニケーションシステムを利用して消極的な学生からも意見を引き出せるよう工夫して授業をしていたのが功を奏して、その延長線上で慣れ親しんだ授業ができています。

そんな私でもずっと頭を悩ませてきたのがゼミ(研究室)の運営です。週に1度のオンラインミーティングで進捗を共有するだけではちょっとした困りごとの相談などがすぐにできないし、日頃がんばっている様子がお互いに見えていないと一体感が得られないし、研究のペースやモチベーションを保ちにくくなってしまいます。悪い意味でも心穏やかという感じでしょうか。

このような経験をしてきたのは私たちだけではなく、あるいは大学だけで見られた現象でもなく、おそらく一般的によく見られる現象だったはずです。実際、2021年3月に開催された「情報処理学会 インタラクション2021」において発表された「在宅勤務が職場の関係性及びメンタルヘルスに及ぼす影響」という研究では、在宅勤務ではつながりの弱い同僚間のコミュニケーションが減少することやそれに伴って不安感が増大することが報告されています。

インフォーマルコミュニケーションとアウェアネス

リモート環境になっても進捗報告ミーティングや仕事上必ず必要なやりとりなどはなくなりません。ビデオ会議ツールやチャットツールを使えばそれほど不自由しないからです。失われがちなのはインフォーマルなコミュニケーション、つまり議題・スケジュール・参加者などがあらかじめ計画されておらず、偶発的に発生するコミュニケーションです。

実は、リモート環境でインフォーマルコミュニケーションが減ってしまうという問題はコミュニケーション支援技術の研究分野では古くから(少なくとも1990年代から)着目されていて、お互いに今どういう状況にいるかが伝わりづらいせいで話しかけるきっかけがつかみにくいことがその主たる原因だというのが定説になっています。それぞれの人が今どうしているかに関する情報を「アウェアネス」と呼び、リモート環境でもアウェアネスを共有できるようにすることでインフォーマルコミュニケーションを促進しようとする様々な技術が提案されています。

わかりやすい研究事例でいうと、お互いの仕事場をカメラで撮影して随時共有するシステムの研究などは1992年に発表されています(Portholes : Supporting Awareness in a Distributed work Group (CHI 1992))。

ところが、それからおよそ30年後のコロナ禍にあって、こうしたシステムが日の目を見たという話はそれほど聞かなかったように思います。常に自分を映しているカメラがあってそれをどこかで誰かが見ているというのは何か嫌だなと感じた人も多いのではないでしょうか。アウェアネスを共有、つまり相手の状況を知ることの利便性は自分のプライバシーを失うこととトレードオフの関係にあるというわけです。同じ時間に同じ場所にいてお互いに状況を共有している状態は自然と受け入れることができているのに、それがインターネット越し、テクノロジー越しになるとどうも気持ち悪いという問題がなかなか解決できていないままなのです。

この問題に対してのおもしろいアプローチの一つとして、照明やごみ箱などの日用品の状態を遠隔地で同期させる、つまり自分の家の照明を点灯させると相手の家の照明も点灯する、ごみ箱のふたを開け閉めするとそれも連動するSyncDecorというシステムが提案されています

SyncDecorはその研究目的として遠距離恋愛支援を掲げていたこともあって、かなりプライバシーに配慮した形でのアウェアネス共有を実現できていると思いますが、専用の日用品が必要なことに加え、多人数でのアウェアネス共有には適していません(多人数で照明を連動させたら部屋がディスコになってしまいます)。

共有タイマーによるインフォーマルコミュニケーション支援

これに対して、昨年度、私の研究室で行われたある卒論では、今どうしているかを逐一共有するのではなく、もともと共有しているスケジュールに合わせてみんなで生活するという方法を研究しました。みんなが同じタイミングで休憩するのであれば、いちいち確認する必要もないというわけです。コミュニケーション支援技術研究の流れから言うと逆転の発想という感じがしますが、時間割に合わせて勉強しつつ休み時間には休憩しながら雑談する、誰しも経験したことがある学校生活のようなごく自然な発想だと言えるでしょう。

具体的に実施したのは25分作業と5分休憩の30分サイクルを繰り返す集中方法「ポモドーロ法」を参考に、グループメンバーでオンラインコミュニケーションシステム上に集まってポモドーロタイマーを画面共有しながら各々作業に取り組み、休憩時間になったらミュートを解除するという実験です。

私の研究室ではこの方法を実践しながら1週間のリモート夏合宿を実施し、もう一つ別の研究室でも概ね同様の実験に協力していただきました。

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▲ポモドーロタイマーをリモート環境で画面共有する実験のスクリーンショット

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