アジアにおけるグローカリゼーション:都市エリートと地方アーティストの役割 |藪本雄登 | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2021.03.25

アジアにおけるグローカリゼーション:都市エリートと地方アーティストの役割 |藪本雄登

中小企業の海外進出が専門の明治大学・奥山雅之准教授とNPO法人ZESDAによるシリーズ連載「グローカルビジネスのすすめ」。地方が海外と直接ビジネスを展開していくための方法論を、さまざまな分野での実践から学ぶ研究会の成果を共有していきます。
今回は、メコン地域を中心にASEAN各国で「法律」と「アート」という対照的な領域で活動する藪本雄登さんが、多様なローカリティをもつアジアで「ローカル」と「グローバル」の矛盾を超えてビジネスを浸透させるには、どんな哲学が必要なのかを考察します。

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本メールマガジンにて連載中の「グローカルビジネスのすすめ」の書籍が、本日3/25より紫洲書院から発売となります。各分野の第一線で活躍する人々の知識と経験とともに、グローカルビジネスの事例を豊富に収めた、日本初のグローカルビジネス実践マニュアルです。
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グローカルビジネスのすすめ
# 04 アジアにおけるグローカリゼーション:都市エリートと地方アーティストの役割

 近年、新たな市場を求めて地方の企業が国外市場へ事業展開する動きが活発になっています。日本経済の成熟化もあり、各地域がグローバルな視点で「外から」稼いでいくことは地方創生を果たしていくうえでも重要です。しかし、地方の中小企業が国外市場を正確に捉えて持続可能な事業展開を行うことは、人材の制約、ITスキル、カントリーリスク等、一般的にはまだまだハードルが高いのが現実です。
本連載では、「地域資源を活用した製品・サービスによってグローバル市場へ展開するビジネス」を「グローカルビジネス」と呼び、地方が海外と直接ビジネスを展開していくための方法論を、さまざまな分野での実践の事例を通じて学ぶ研究会の成果を共有します。
(詳しくは第1回「序論:地方創生の鍵を握るグローカルビジネス」をご参照ください。)

 今回は、メコン地域を中心にASEAN各国で活躍する法律事務所One Asia Lawyers代表の藪本雄登氏にご担当いただきます。海外進出の事例を数々見てきた中で、生半可なグローバル化、哲学なきローカル化をするだけの製品・サービスは淘汰されると藪本氏は予見します。グローカルビジネスにおいて、都市エリートがローカルな感覚に呼応するためには何が必要なのでしょうか? 「アート」というキーワードを切り口に迫ります。

(明治大学 奥山雅之)

アジアにおけるグローカリゼーション

弁護士法人One Asiaの創業者、メコン現代美術振興財団の代表を務める藪本と申します。本稿では、私が取り組んでいる法律の話とアートというテーマをめぐって、アジアにおけるグローカリゼーションについてお話しさせていただきます。
まずは簡単に自己紹介をしたいと思いますが、私はかなり変わったキャリアを経験してきました。大学を卒業していきなりカンボジアに飛び込み、法律事務所を作りました。私自身は弁護士でもなく、別に英語を話せるわけでもないので、どうしてカンボジアに行ったのかとよく聞かれるのですが、一言でいうとバカだったのだと思います。バカはバカなりにどう生き残ろうかということを考えて、大学4年生のときにノリと直感をたよりにカンボジアを訪れました。そしてここだったら何とかなるかもしれないと思い、法律事務所をいきなりつくってみたという単純なストーリーでした。
当初は見積もりの作り方や請求書の出し方も分からず、愛のある現地の方たちに助けられながら、10年間事務所を続けてきました。仕事はインフラ関係が主であり、国づくりに直結する水力、電力、水道などの仕事に多く対応しています。また、私自身カンボジアに留まらず、ラオスやミャンマー、タイと住居を転々としており、メコン地域に関する著書も出版しました。
私は和歌山県の熊野古道の出身で、藪本という姓の「藪」という字も、紀伊山地にしか見られない名前です。この熊野古道の中辺路に18年住んで、大学時代は八王子で過ごし、その後すぐにカンボジアで10年ほど過ごしてきました。歌川広重が大好きで、この静謐な自然と情緒的な人たちを残したい、この環境こそ、まさに世界平和を体現してるのではないかという価値観のもとに生きてきました。海外というとグローバルなイメージが先行しますが、私自身は長い期間、ローカルな世界で生きてきたということから、珍しいキャリアだと思います。

近年、メコン地域では、田舎でも都市化が進んでいます(図1)。左の写真はラオスで、コンドミニアムがすさまじい勢いで建築されています。右の写真はスリランカで、巨大なビルが建ち並んでいます。このような風景を目にするたびに、非常に残念な気持ちになります。

画像2図1.開発されるメコンの風景 ラオス(左)とスリランカ(右)
出所:筆者提供

都市化の進展によってローカルな土地の良さそのものがなくなっていくような感覚は、日々の業務の中でも感じられます。例えば日本企業が進出する際に現地の役所とやり取りをする場合にも、トヨタは来ないのか、工場は作らないのか、イオンはまだか、というように、都市化を前提としたリクエストが出ることが多いのです。三島由紀夫の言葉を借りて表現するならば、「無機質で空虚で、中立でニュートラルな、中途半端に富裕な人たち」がどんどん増えていき、良いところが無くなってしまっているという気がします。
何とかこの潮流に対して反逆したいと考えている中で、ZESDAが唱えるグローカリゼーションという指針には、非常に共感するところがありました。私が共に成し遂げたいのは次の2点です。
1点目は「田舎が外貨を稼ぐ」ことです。ZESDAは日本発のグローカリゼーションを取り扱っている一方で、私の場合はアジアの田舎、スリランカやラオスなどからも、グローバルな競争に耐えうる新しい価値の創出をして、全世界輸出に貢献していかなければならないと考えています。
2点目は「都市を世界と田舎のハブにする」ことです。これを実現するためには、都市設計のレベルでグランドデザインを描いて実行していかなければならないと考えています。
GDPの基本的な構成要素としては、国内消費、投資、非政府支出、純輸出の4つがあります。しかし、前者3つについては人口増加と内需の拡大を前提にしているので、人口減少国の日本にとっては、まったく優位性がないといわざるを得ません。そのように考えると、原資を獲得することは難しいため、輸出を増やさなければならないということになります。

言葉で表せないものをアートが補う

さて、私たちがやっていることは、この2つの目的の実現に大きく重なります。設立後10年ほどのOne Asia Lawyersでは、真のグローバルを目指した会社になるため、アジアでの17拠点を含め、ロンドンや大阪にも事務所を構え、200名ほどの所帯で展開しています。
そもそもなぜOne Asia Lawyersという名前を選んだのかという点に立ち返って説明しましょう。もともと、弁護士の「士」とは、侍を意味する文字です。侍は江戸時代の社会構造、すなわち士農工商において頂点に位置付けられていました。それは、彼らの役割が技術的な側面のみならず、グランドデザインを描いて実行に移すということを含んでいたことによるのだと私は考えています。この時代の指導者たちを見ると、例えば古田織部をはじめとする利休七哲や高山右近、細川忠興など、侍であると同時にアーティストでもあり茶人でもある、いわゆるパラレルキャリアを経験している人々が多く存在します。彼らのように多くの視座を持ち合わせた人にこそ、社会を俯瞰したグランドデザインを描くことができ、社会に対してその責任を背負うことができるのだと思います。

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