『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』第10回 物議を醸すモノづくりのはなし(栗原一貴・消極性研究会 SIGSHY) | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2019.03.20
  • 消極性研究会

『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』第10回 物議を醸すモノづくりのはなし(栗原一貴・消極性研究会 SIGSHY)

消極性研究会(SIGSHY)による連載『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』。今回は栗原一貴さんの寄稿です。2015年のパリでのテロ後、Facebookではプロフィール写真の背景をフランス国旗に変えて追悼の意を示す運動が流行しました。しかし、消極的な人間は安易に流行に飛びつきません。どうせやるなら全世界の平和を祈るべし、と栗原さんが発明したものは……?

皆さんこんにちは。「物議を醸すモノづくり」が得意な情報科学者、栗原一貴と申します。2012年に珍妙な賞として世界的に知られている「イグノーベル賞」を受賞し、自らのマッドサイエンティスト人生を運命づけられました。現在は「秘境の女子大」と巷で呼ばれているらしい津田塾大学学芸学部情報科学科で、リケジョの育成に邁進しています。
拙著「消極性デザイン宣言」で私は、一対一、あるいは一対少数のコミュニケーションにおける「自衛兵器」の研究を紹介しました。
おしゃべりな人を邪魔する銃「スピーチジャマー」、性能の悪い人工知能の暴走を装って自分のスマホやパソコンの画面を覗く人を撃退する「PeepDetectorFake」、耳の「蓋」として働くことで聞きたくない声や音を遮断する「開放度調整ヘッドセット」、そして人の目を見て話せない人のために視界のすべての人にモザイクをかける「視線恐怖症的コミュ障支援メガネ」などです。

さて、前回の連載では、消極性デザインによって身近な環境改善を図る事例として、音声エージェントのアレクサを用いた育児について論じました。
本日は、「物議を醸すモノづくり」の最近の事例として、「The Universal Background Filter」と「痴漢冤罪対策音ゲー」を紹介します。身近な(?)社会問題に対して、ある種常軌を逸したモノづくりで挑みます。

The Universal Background Filter

まず小さなところから。
以下のリンクは、私のFacebookのプロフィール写真です。よろしければ御覧ください。動画になっているので、再生ボタンを押す必要があるかもしれません。

https://www.facebook.com/qurihara/videos/1726840290729754/?l=2889760844340208902

冴えない男で申し訳ありませんが、主にお話したいのは、私の肖像ではなく背景のことです。このチカチカする背景、実は意図してそのように作っています。

少し前のことになりますが、2015年のパリのテロのあと、Facebookが「自分のプロフィール画像の背景をフランス国旗にして哀悼の意を示そう」という画像加工サービスをはじめました。多くの著名人、そしてあなたの身の回りの方々も、しばらく背景がトリコロールカラーになったことと思います。

私はといえば、もちろんテロの犠牲者を気の毒に思う一方で、なんとなく流行りに流されてプロフィール画像を自分にあまりゆかりのない特定の国にすることに抵抗を感じ躊躇しておりました。自分にあまりゆかりのないハロウィンイベントに仮装して参加するのを躊躇するのと似たような気持ちです。一方は哀悼で、一方はお祭りですから、比較して論じるのも不謹慎でしょう。しかし結局フランス国旗背景の方々がFacebookでポストし続けているのは、日常のおいしい、かわいい、ためになる、などですから、喪服着ながらはしゃぐのと似たようなもので、それもそれで不謹慎さを感じます。

消極的な人は、考え過ぎな人。流行りを流行りとして取り入れて、日常に彩りを与えたり楽しんだり、人と共感したりすることに対し、素直になれない人たちだと自己分析します。

一方、世界的な流れを追いかけてみますと、その後Facebookのこの機能に対し、「パリだけじゃないだろ。全世界の平和を祈るべきだ」という批判が相次ぎました。
超・積極的な人からすると、フランスだけでは手ぬるいというわけです。世界平和。大変結構なことですね。
私はこの主張に感じるところがあり、自分の心のモヤモヤを自画像的に表出させたくて、文字通り全世界の国の国旗を背景にすることで平和を消極的に祈るプロフィール画像加工アプリ「The Universal Background Filter」を作りました。
ちょうどFacebookが動画によるプロフィール画像の登録を開始した時期だったので、私のFacebookプロフィールはそれ以来、このアプリで加工したものになっています。

数秒以内という制限のあるプロフィール動画の中で、全世界の平和を祈れるよう、超高速で全世界の国の国旗を切り替えています。その結果、どうでしょうか。速すぎてどの国旗もほとんど見えません!

私はこの結果に対し、失望と納得の入り混じった奇妙な気持ちになり、とても気に入りました。
私はたぶん、フランスとかベルギーとか特定の国に限定せず、世界中のすべての国の平和を思っています。でもそれは、つまりどの国もたいして思っていないのと同じということです。
平等に何かに思いを寄せるというのは、キレイなようで、同時にとても薄っぺらい気持ちであることがわかります。まさに薄っぺらい、自分にぴったりのプロフィール画像だなと思いました。

無理やり効用を挙げるとすれば、以下のようなことが言えるかもしれません。テロは私たちの過剰反応を得るのが目的の一つであるので、予めすべての国への配慮を表明していれば、どの国に今後テロが起きてもすでに「配慮済み」ですから、特段なにもする必要がありません。それによって結果的にテロに与しないという意思表示になります……たぶん。

時事ネタとして特定の国のテロを悼み、たくさんの友人とともに自分のプロフィール画像の背景をその国の国旗にし、盛り上がるとともに消費していく。
普段から人知れずこの技術によってすべての国の平和を祈っているが、微量すぎて誰も気づかないし、自分自身もそれぞれの国への思いの至らなさを自覚している。

あなたはどちらの自分を、世界に発信したいですか?

※The Universal Background Filter のソースコードはGitHubで公開しておりますので、興味のあるかたはどうぞ。
http://www.unryu.org/home/ubf

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