『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』第6回 消極も積もれば積極となる(濱崎雅弘・消極性研究会 SIGSHY) | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2018.09.27
  • 消極性研究会

『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』第6回 消極も積もれば積極となる(濱崎雅弘・消極性研究会 SIGSHY)

消極性研究会(SIGSHY)による連載『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』。今回はコミュニティ研究者の濱崎雅弘さんの寄稿です。濱崎さんがSNSブーム以前に開発した「学会支援システム」は、消極的な人でも紹介・被紹介による「出会い」を享受できる仕組みを目指したものでした。この試みで明らかにされた、「紹介」にまつわる意外な心理的負担とは……?
はじめに
皆さんこんにちは。緑豊かな学園都市つくばでインターネットとコミュニティ、さらにはニコニコ動画と初音ミクの研究をしている濱崎雅弘と申します。「ニコニコ動画と初音ミクの研究?」と思ったかもしれません。私はインターネットによって実現される新しいコミュニケーションとコラボレーション、そしてクリエーションに関心があり、そんな私にとって、ニコニコ動画上で初音ミク動画を中心として展開した派生作品文化は大変魅力的なものでした。2007年8月に初音ミクがインターネットの世界に颯爽と登場し、ニコニコ動画にて一大ムーブメントを起こしていた頃に、いったい何が起きているのかを明らかにしようとWebマイニング技術と社会ネットワーク分析技術を用いてデータ分析しました。

そんな研究をしている私ですが、実は「消極性デザイン宣言」の著者の一人でもあります。こちらの連載で記事を書く予定になかったので、第1回の西田さんの記事にて紹介からは抜けていましたが、こっそり著者に入っていました。
本の中では、先述の初音ミク動画について、特に歌ってみた動画や踊ってみた動画と呼ばれる初音ミク動画の派生作品における消極性について書きました。動画を作ってインターネット上で公開するなんて、これぞ積極性と言わんばかりの行動ですが、そんな中にも消極性が垣間見えることを、拙著の中ではデータを交えて述べています。SHYHACKする道具や仕掛けを作っている他の4人と比べると、ちょっと異色な内容といえるかもしれません。それはそのはずで、初音ミク動画の分析は今から10年前の研究で、当時は消極性デザインやSHYHACKという観点でこの研究は行っていませんでした。その当時の研究を知っている方からは、以前聞いたときは派生作品がどんどん作られる積極的な現象として述べられていたのに、今回はそれが消極的な現象として述べられていて驚いた、とも言われました。
これだけ聞くとなんだか私が二枚舌みたいなエピソードですが、実はこれは大事なポイントで、作品が公開されたという結果そのものは「積極的な現象」なのですが、そのプロセスに「消極的な現象」が潜んでいた、ということが、あの本に書いた内容でした。

本連載の第5回で、渡邊さんが「やる気は貴重な天然資源!」と指摘しましたが、ちゃんとした作品(動画)を作って公開するというのは、大変やる気が必要な作業です。動画は音も映像も作らなくてはいけないですし、作品を発表するというのはやはり勇気のいることです。つまり、投入しないといけない「やる気」は大量です。
しかし、初音ミク動画を中心とした派生作品のムーブメントにおいては、自分ができる部分だけ作って他は勝手に借用した「派生作品」が、「歌ってみた」「踊ってみた」といった「〇〇してみた」というやや及び腰なタグを添えて、大量に投稿されたのです。単体では投稿には至らなかったかもしれない作品が、他と足し合わせることで「やる気の壁」を越えて投稿に至ったわけです。
もちろん足し合わせるというコラボレーションだって本来は簡単ではなく、たくさんの「やる気」が必要になるわけですが、初音ミク現象が起きたその場所には、これを簡単にするいろいろな要因が詰まっていました。それが何か、ご興味のある方は消極性デザイン宣言の本をぜひ読んでみてください。また、初音ミク動画やその派生作品に興味を持ってしまった方は、この初音ミク現象をいろんな角度から可視化する音楽視聴支援サービス「Songrium」というものがあるので、ぜひお試しください。

以上、私が「消極性デザイン宣言」に何を書いたのかという説明でした。ここまで話しておいてなんですが、実は私が消極性研究会に参加するきっかけとなったのは、これら初音ミク動画に関する研究ではありませんでした。初音ミク動画に関する研究は、消極性デザイン研究とはかけ離れた所からスタートしたもので、前述の話はSIGSHYに参加してから消極性デザインの文脈であの研究を見直してみて得られた知見でした。
では、どうしてSIGSHYに参加することになったのか。実はさらに昔に、まさに消極性デザインな研究をしていたのです。本ではこれについてはまったく触れていないのですが、良い機会ですのでお話したいと思います。昔話ばかりですみませんが、少々お付き合いください。

学会支援システム
学会や研究会は、研究者が自らの研究成果を発表するために集まるイベントですが、研究発表(プレゼン)だけでなく、研究者同士で情報交換したり議論したり、時には就職活動(若手研究者は任期付きがほとんど)したり、つまりはコミュニケーションすることも重要です。特に年次大会のようなたくさんの人が集まる学会は、むしろコミュニケーションの方が重要という研究者も少なくありません。
研究職といえば研究室にこもって良い成果が出るまで研究に没頭すれば十分でコミュ障向きの職業だと思いきや、ここでもコミュニケーション能力が求められるわけです。なんということでしょう。そこで消極性デザインの出番です。

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