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  • 2021.01.13

2ちゃんねる、ニコニコ動画、なんJ、野球YouTuber──「ネット」と「野球」の接近|中野慧

本日お届けするのは、ライター・編集者の中野慧さんによる連載『文化系のための野球入門』の第3回です。
体育会系で昭和的なものの象徴と思われていた野球ですが、2000年代の「2ちゃんねる」を中心としたインターネットカルチャーと結びつき、それまでの試合観戦を中心とした楽しみ方に限らない「オタク」的な楽しみ方が見出されていきます。

中野慧 文化系のための野球入門
第3回 2ちゃんねる、ニコニコ動画、なんJ、野球YouTuber──「ネット」と「野球」の接近

文化系/オタクにとっての野球

前回、野球という文化を解析するには、「体育会系/文化系」「ヤンキー/オタク」という2軸で考えることが必要なのではないか、ということを述べました。
そして野球は「体育会系」で「ヤンキー」な人に好まれていると考えられますが、では「文化系」「オタク」の人にとって、野球はどのような存在なのでしょうか。

一例として挙げたいのが、2015年のユーキャン新語・流行語大賞の年間大賞に「トリプルスリー」2016年には「神ってる」という、どちらもプロ野球絡みの言葉が選ばれたときのことです。
2015年の「トリプルスリー」は、同シーズンに山田哲人選手(東京ヤクルトスワローズ)、柳田悠岐選手(福岡ソフトバンクホークス)が打率3割、30本塁打、30盗塁という達成困難な記録を打ち立てたこと、そして2016年の「神ってる」は広島東洋カープの優勝の原動力となった鈴木誠也選手の活躍を評したものでした。
ですが、これらの言葉は野球ファンこそ知っているものの、それ以外の大半の人には知られていなかったと考えられます。

「それでは『国民的な流行から選ぶ』という流行語大賞の趣旨からは外れているのではないか」
「こうした野球絡みの言葉ばかりが「流行語大賞」に選ばれるのはなぜなのか」

こうした違和感が、ネットユーザーや様々な論客から異論が噴出したわけです。たとえば、漫画家・コラムニストの能町みね子氏は、「流行語大賞の人格は50代の野球好きのおじさんである」という説を唱えています。ここでいう「50代のおじさん」という言葉には、「センスが決定的に時代遅れになっているのに、自分たちの視界にあるものが社会の主流だと思っているみっともない中高年男性」に対する揶揄の意味が込められているのでしょう。

しかしそんな状況の一方で、流行語大賞よりももっと若い人たちのあいだでの流行語を取り上げる「JCJK流行語大賞」では、2017年には「熱盛」「ンゴ」という、野球関連のネットスラングがトップ5入りしています[1]。
「熱盛」というのはもともと、テレビ朝日系列の「報道ステーション」のプロ野球コーナーで好プレーが紹介されたときの、テロップと声による演出です。
しかし、これが同番組の野球と全然関係ない場面で手違いで何度か出てしまい、それについてアナウンサーが謝罪するということが何度か起こりました。それがネットユーザーのあいだでネタにされ、「何の脈絡もなく盛り上がってしまい、すぐに謝罪する」というある種のネタ的なコミュニケーションとしてネット上で定着していきました。
一方、「ンゴ」というのは、もともとは横浜・中日でプレーしたドミンゴ・グスマン投手が最終回に登板して失点を喫したときにネットユーザーの一部が、「ンゴ」と名前の一部を略して、なにか「やらかし」をしてしまったときの様子を表現し、それがやがて定着したものです。
どちらもいわゆる「ネットスラング」ですが、それを面白がって10代女性が使用するようになり、それがやがて「JCJK流行語大賞」で取り上げられることになった、というものです。
そして、2010年代後半に特に、こうしたコアなネットユーザー以外にも波及するようなスラングの発信源となったのが、2ちゃんねるの掲示板のひとつ「なんでも実況J(なんJ)」でした。

インターネットカルチャーと「なんJ」

「なんJ」は、野球を中心にしつつアニメやニュースなどの雑談を行う掲示板で、ネットの匿名掲示板サービス「2ちゃんねる(現:5ちゃんねる)」でもっとも活発な場所となっています[2]。ここではプロ野球チームや選手をネタにしたユーモラスな雑談が行われています。
もともと2ちゃんねるは1999年の開設以降、たとえば2005年に映画化・ドラマ化され社会現象となった『電車男』を生んだことからも明らかなように、長らく日本のインターネットカルチャーの中心地となってきました。
ユーザー同士が匿名でさまざまなトピックについて雑談や議論をして盛り上がることが特徴ですが、扱われるトピックはパソコン、ゲーム、アニメなどの「オタク文化」が中心であり、野球の話題はあくまでも傍流でした。

しかし、そんなインターネット社会に衝撃を与える「事件」が2009年3月24日に起こります。野球の世界大会WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の第2回、決勝に進出した日本代表は、ロサンゼルスのドジャー・スタジアムで韓国代表と激突します。
両者同点で迎えた延長10回表、日本が誇る大打者イチローが、韓国の抑えのエース林昌勇(イム・チャンヨン)投手から決勝の2点タイムリーヒットを放って優勝を決めました。
この瞬間、2ちゃんねるには書き込みが殺到し、多数の掲示板のサーバーがダウンする事態となりました。
それまでインターネットは漫画・アニメ・ゲーム・PCが好きな「オタク」や「文化系」のもの、というイメージが強くありました。しかし、「体育会系」で「昭和」なものの象徴であるはずの野球は意外にもネット上で大人気であることが、多くのネットユーザーの脳裏に焼き付いたわけです。

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