宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

Serial

  • 2016.03.31
  • 井上敏樹

脚本家・井上敏樹書き下ろしエッセイ『男と×××』第15回「男と男4」

今朝のメルマガは平成仮面ライダーシリーズの脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』第15回です。豪腕プロデューサーSにより愛するジョセフィーヌ(仮名)と別れるはめになった井上青年。しかしそれはさらなる悲劇のはじまりに過ぎなかった――今回は井上青年を苦しめた「フグと女子大生」のエピソードを語ります。


 
 男 と 男 4   井上敏樹
 
さて、クラブ通いと焼肉とをこよなく愛する大手映画会社のプロデューサーSのせいで愛する彼女と別れるはめになった私だがそれでもSとの付き合いは続いていた。なにしろ私は脚本家デビューしたばかりの二十歳そこそこの未熟者だったので、他に選択肢はなかったのである。それに、なんだかんだ言って私はSとの付き合いを楽しんでいた。クラブや焼肉だけではなく他のスタッフを含めて旅行に行ったりホテルのスイートを借りて宴会をしたりと時代はまさにバブル真っ盛りである。生まれて初めてフグを食べたのもこの頃だった。
『お前、この世にはフグというとんでもなくうまいものがある、食った事あるか?』ある日の打合せで私の本を途中で放り出してSは私の顔を覗き込んだ。
『いえ。噂には聞いていますが』と私。
『だろうな。お前ごとき青二才に手が出せる代物ではない。食いたいか?』
『は、はい。それはもう』
『いいだろう。なら女子大生を用意しろ』
『は?』
意味が分からない。なぜ、ここで女子大生なのか?
『分からないのか?、馬鹿め。いいか、よく聞け。おれはお前に仕事を教え飯を奢り酒を飲ませてやっているがおれ的にはなにもいい事がない。楽しいのはお前ばかりだ。使えないんだよ、お前は』
『すいません』
『だが、たったひとつ、お前にもいい点がある。それはお前がまだ大学生だということだ。回りには女子大生がうじゃうじゃしてるだろう。おれも女子大生と知り合いたい。だから………』
『分かりました』
要するにフグを食わせてやるから女子大生を紹介しろと言うわけである。言われてみれば分かりやすい。
そこで私は翌日、大学に行ってフグを食べたい有志を募った。約束の日、私は女子大生と共に待ち合わせの場所に向かった。やって来るなりSは私を手招きして私の耳元で叱責した
。『この馬鹿! なんだって8人も連れて来るんだ。お前、フグが幾らするのか分かってんのか?』
『はあ。末広がりでいいかな〜って』
『なにが末広がりだ。フグ食って死ね』
『じゃあ、剪定しますか? 好きなのを選んでください。残りはこのまま帰しましょう』
Sはジロジロと8人の女子大生を観察した。
 


 

▼執筆者プロフィール

井上敏樹(いのうえ・としき)
1959年埼玉県生まれ。大学在学中の81年にテレビアニメの脚本家としてのキャリアをスタートさせる。その後、アニメや特撮で数々の作品を執筆。『鳥人戦隊ジェットマン』『超光戦士シャンゼリオン』などのほか、『仮面ライダーアギト』『仮面ライダー龍騎』『仮面ライダー555』『仮面ライダー響鬼』『仮面ライダーキバ』など、平成仮面ライダーシリーズで活躍。2014年には書き下ろし小説『海の底のピアノ』(朝日新聞出版)を発表。

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