
脚本家・井上敏樹書き下ろしエッセイ『男と×××』第14回「男と男3」
今朝のメルマガは平成仮面ライダーシリーズの脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』第14回です。井上青年とジョセフィーヌ(仮名)のカップルを破局に追いやった、映画プロデューサーSのとんでもない仕打ちとは……?
男 と 男 3
井上敏樹
さて、クラブ通いと焼肉とをこよなく愛する大手映画会社のプロデューサーSの話の続きである。当時、私にはジョセフィーヌ(仮名)なる彼女がいた。そのジョセフィーヌ(仮名)との出会いもSのおかげだった。Sがいつも連れて行ってくれるクラブでホステスのバイトをしていたのである。当時の私は二十代前半、ジョセフィーヌ(仮名)も同じぐらいだったから気が合ったのだろう。私はなんとなく言いだしにくく彼女との付き合いをSには黙っていたのだがちょっとした事でばれてしまった。ジョセフィーヌ(仮名)が水割りを作る際、マドラーでグラスを掻き混ぜる回数が、Sよりも私の方が多いというのである。そんな事でなにが分かる、と言いたい所だが、Sは野獣の勘の持ち主だった。問い詰められた私は白状した。嘘をつかれる事に異常に敏感なSである。この際本当の事を言った方がいい。
『お前、調子に乗るなよ』とS。『別にお前がモテるわけじゃない。ただ若いから店では珍しいだけだ』
『はい。分かってます』と私。
別にジョセフィーヌ(仮名)に気があったわけではないと思うがSは事あるごとに私に絡んだ。
『お前、今幾ら持ってる?』
『五千円です』
『ぴったりか?』
『四千八百円です』
『そうだろう。大雑把に答えるな。大体お前は雑なんだよ。脚本も雑だ。神経が行き届いていない』
『………………』
『そんなお前がジョセフィーヌ(仮名)と付き合えるのは誰のおかげだ?』
『Sさんのおかげです』
『様だ』
『S様のおかげです』
『大体女を口説きたければ自分の金で飲みに行け。人の金で女作りやがって。お前はおれの金で女を口説いた。つまりおれの金を盗んだと同じだ。言い方を変えればジョセフィーヌ(仮名)はおれの女だ』
『………………』
『それにな、おれにこんな事を言わせるお前が気に食わない。まるでおれの器が小さいみたいじゃないか』
『いえ、そんな事は………』
『いや。お前はおれをケチで器の小さい嫌な男だと思っている。そうだな』
『決してそんな………』
『おれには分かるんだよ。け。飼い犬に手を噛まれたようなもんだ』
Sは絡み方もSらしい。
そんなある日、突然、Sが私の家に現れた。