宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

Serial

  • 2016.01.31
  • 井上敏樹

脚本家・井上敏樹書き下ろしエッセイ『男と×××』第13回「男と男2」

今朝のメルマガは平成仮面ライダーシリーズでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』第13回です。何もかもが規格外の男”S”と付き合い始めた敏樹青年が巻き込まれた、女性編集者をめぐるトラブルとは?


 

男 と 男 2
井上敏樹

さて、一晩でクラブと焼肉を何度も往復し駐車違反の鎖をチェーンソーでぶった切るようなSだったが女性に関してはこれがなかなかのフェミニストだった。言い忘れたが、当時のSは四十代で独身。働き盛りで大手映画会社のプロジューサー、足は短かったが顔だって当時の人気歌手フリオイグレシアス似のイケメンだった。だがらモテないわけはないのだが、それが当人の意に反して独身だったのはひとえにSの人となりのせいであろう。Sは確かに豪快な男だったが同時にひどく女性的で粘着質な一面があった。人間とは不思議なもので、相反するふたつの性質を、往々にして合わせ持っているものなのだ。当時の私はSのおかげで国民的な人気アニメのシナリオに携わっていたが、Sの仕事ぶりには辟易した。シナリオの読み方が重箱の隅を突つくように細かいのだ。ト書きのテニオハから句読点まで目を光らせていちいち直しを要求する。小説じゃあるまいしシナリオのト書きなどどうでもいいではないかと思いながら、こっちはド新人なので従う以外ない。
そんなSの細かさ、執拗さは女性が絡むとまた一段とすごくなるのだ。たとえばあるアニメ雑誌の女編集者と知り合いになって酒を飲みに行った事があった。その時はもうひとり、脚本家のTと四人で楽しい夜を過ごしたのであるが、帰り道に私とTはふたりになって女編集者を評し始めた。
『なにを考えてるのか分からん女だ』とT。
『汚れたパンツを穿いてそうな女だ』と私。大体、男なんてものは、そんな風に好き勝手を言うものなのだ。
それからしばらくしてTと会う機会があったのだが、すると、Sにひどく怒られた、と言う。尋ねてみると例の女編集者絡みだった。それもひどくくだらない。TとSが飲んでいて彼女の話になり、Tは『あれは汚れたパンツを穿いているような女ですよ』と私の言葉を引用したのだが、それがSの怒りを買ったという。女性に対してなんだ、その言い方は、侮辱じゃないか。そう激昂されてTは『いや、それは井上の意見で』と言い逃れた、と言う。全く余計な事を、と私が困惑したのは嫌な予感がしたからだ。そしてその予感は的中し、すぐにSからの電話があった。『Tから聞いたんだが』電話口から流れるSの声がくぐもっている。『お前、彼女のパンツにウンコがついてると言ったそうだな』
違う。少し違う。

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