粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』最終回「なぜ人はライフスタイルを発信するのか」【毎月第3火曜配信】
本日は、アイランド株式会社代表の粟飯原理咲さんによる連載『ライフスタイルメディアのつくりかた』の最終回をお届けします。なぜ人間はライフスタイルを発信して、またライフスタイルメディアを求めるのか。連載の内容の総まとめとも言える回となります。
▼プロフィール
粟飯原理咲(あいはら・りさ)
アイランド株式会社代表取締役。国立筑波大学卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社先端ビジネス開発センタ勤務、株式会社リクルート次世代事業開発室・事業統括マネジメント室勤務、総合情報サイト「All About」マーケティングプランナー職を経て、2003年7月より現職。同社にて「おとりよせネット」「レシピブログ」「朝時間.jp」などの人気サイトや、キッチン付きイベントスペース「外苑前アイランドスタジオ」などを運営する。美味しいものに目がない食いしん坊&行くとついつい長居してしまう本屋好き。
◎構成:稲葉ほたて
本メルマガで連載中の『ライフスタイルメディアのつくりかた』配信記事一覧はこちらのリンクから。
前回:「特別編:成長期のプロデューサーの「7割主義」仕事術――レシピブログプロデューサー・久永千恵インタビュー」(粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第7回)
昨年より7回にわたって続けてきたこの連載ですが、今回で最終回となります。これまでご覧いただいてきたみなさま、本当にありがとうございます。
さて、これまで「ライフスタイルメディアのつくりかた」というタイトルで主にウェブ関連の話をしてきましたが、いくつかのライフスタイルメディアをつくってきた中で、うまくいったことからも、うまくいかなったことからも、学んだことがひとつあります。
それは、はじめに「こんな風にしたい!」と夢見て描く「世界観の大切さ」です。
たとえば、ウェブサービスの世界でよく推奨される「リーン・スタートアップ」。リーン・スタートアップというのは、ざっくり言うと、とりあえず完成度が低くても最少単位でサービスを出してしまって、その後に軌道修正をしていく開発手法のことです。日本では伊藤穰一さんの紹介がついた同名の本で話題になったので、ご存じの方も多いかと思います。
このリーン・スタートアップの手法でライフスタイルメディアを作ろうとしたときに、機能としての最少単位だけを考えてしまうと、世界観を表現する部分をうっかり削りすぎてしまう危険性があります。
▲エリック・リース『リーン・スタートアップ』(日経BP、2012年)
■機能のリーンだけでなく、世界観のリーンを同時に考える。
例えば、この連載でも以前お話した、レシピブログの後にリリースした「子育てスタイル」というサービスのケース。
このサービスを立ち上げる時、ひとまずレシピブログとほぼ同じ機能を子育て版にアレンジしたものを、ママっぽいデザインにすることで横展開を図ろうとしました。こういう手法は、ウェブでの通常のサービス展開の仕方としてはよくあるものだと思います。
ところが、それはなかなか上手くいきませんでした。その原因を後で振り返って出てきたのが、「世界観のつくりこみ」の甘さです。「子育てスタイル」は、「お母さんが本当に求める世界観はなんなの?」とか「自分たちが提案したい世界観はなんなの?」というところが、完全にはつくりきれていませんでした。機能として必要なページだけを揃えてスタートしていたのです。結果、サービスのブレイクにはつながりませんでした。
それに対して、先行して成功していた「おとりよせネット」は逆でした。
オープンしたての頃は、お取り寄せ品などのデータベースはすごく貧弱だったのですが、なぜか「お取り寄せでホームパーティーをしよう!」みたいなページに、スタッフがものすごい熱意で写真を撮り下ろしていたのです。
普通にウェブサービス運営の効率を考えたら、「お取り寄せって素敵」みたいなページなんかに力を入れるのは間違っています。別段そのページを何度も見に来る人なんていないし、リピートにつながるかもわからない。費用対効果は一見して、決して良くないように思えます。
ところが、そこには明らかに私たちが「素敵だ」と考えるような、ひとつの世界観がつくられていたのです。お取り寄せのある生活とは、こんなに豊かで幸せなものなのだ――という、そんな“半歩先の憧れ”に溢れたメッセージがそこにはあったのです。
そして、私たちはそれがあったからこそ、「お取り寄せって素敵なのかも」とか「お取り寄せしてみたい」みたいな憧れを持ってもらえたのではないか、と考えました。
その後、レシピブログでは世界観をより一層意識して工夫していくようになりました。その成果は、確かに出てきたように思います。そして、これは今もなお弊社アイランドの重要な考え方になっています。