宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2015.09.23
  • 中川大地

現実空間を変容させるウェアラブル・ゲームの胎動〜「iPhone」ゲームと『ドラクエⅨ』〜(中川大地の現代ゲーム全史)

今朝のメルマガは『中川大地の現代ゲーム全史』の最新回です。今回の舞台も引き続き2000年代後半。のちにゲーム市場の地図を大幅に書き換えていくことになる「iPhone」の登場、そして日本的なネットワークゲームのひとつの雛形を示した『ドラクエIX』の発売とその意義を振り返ります。


 

第10章 「ゲーム」を離れはじめたゲーム/コミュニケーション環境が変えたもの 2000年代後半:〈拡張現実の時代〉確立期(5)

■ コンシューマーゲームの本当の「敵」〜iPhoneが切り拓いたスマホゲームの胎動

しかしながら、日本ゲームにとっての本当の脅威は、コンシューマー機での海外ゲームの発展などではなかった。それよりもはるかに大きなスケールのインパクトをもたらしたのが、2007年の「iPhone」発売に他ならない。かつてMacintoshがGUIの導入によってパソコンという道具を万人に解放したのと同様、再びアップル製品の先導によって、「スマートフォン(スマホ)」と総称されることになる新たなウェアラブルデバイスのカテゴリーが生み出されることになったのである。

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▲iPhone

01年登場の携帯型音楽プレイヤー「iPod」シリーズの系譜上に、携帯電話機能を付加することで成立したこのデバイスは、常に「他の用途」からの副産物の領域が肥大するかたちで発展を遂げてきた。初代iPodは、元々はビデオCD用の音声圧縮規格だったmp3を純粋な音楽ソフトのためのファイルに、汎用のハードディスクをジュークボックス的な楽曲ストレージに転用した、いわば「AV機器の真似事をするPC周辺機器」に過ぎなかった。しかし、ここにモノクロ液晶の表示画面とホイール型の操作系によるゲーム機的な触感のインターフェースを加えることで、横井軍平の「枯れた技術の水平思考」のお株を奪うようなプロダクトデザインとして結実し、同様の製品とは決定的に差別化されたブランド価値に繫がってゆく。実はこの時点で、液晶画面上に「ブレイクアウト(ブロックくずし)」がオマケとしてUIプログラムの片隅にプリセットされており、若き日のスティーブ・ジョブズがウォズニアックとともにアタリで手がけた、ゲームの遺伝子が刻まれていたのである。
加えて、テクノロジーのコスト対効果がこなれないうちは音楽のような単独のコンテンツ分野に特化した単機能機として地盤を固め、そこから徐々に多機能化させてマルチメディア機器化していくというロードマップは、かつてSCEがプレイステーション・ブランドで成功した方法論を徹底化させたものでもある。

その意味でiPhoneは、タッチスクリーン式のインターフェースで携帯ゲーム機にPDA的な機能を取り込んだDSと、AV機器的な機能を取り込んだPSPのそれぞれの特徴を、あたかも統合していくようなデバイスだったとも言える。
あるいは事態を逆に捉えるなら、Wi-Fiでの無線インターネット接続が標準化され、様々なアプリケーションを利用可能なコミュニケーション端末になっていたDS・PSP世代の携帯型ゲーム機は、期せずしてスマホによって実現されるユーザー体験の先行実験になっていたのだとも言えるだろう。
実際、iPhone発売初期には、画面タップ式のリズムアクション『Tap Tap Dacce』(Tapulous 2008年)や、加速度センサーで本体の傾きを検知させることで画面上の円形のキャラクターを横方向に転がしていくパズルアクション『Rolando』(ngmoco 2008年)、半自動で跳躍するキャラクターに画面タッチと傾きで最低限の干渉操作を加えて上方に導いていくジャンプアクション『Doodle Jump』(Lima Sky 2009年)など、中小のデベロッパーが制作したカジュアルなゲームアプリがダウンロード販売され、大いに人気を博した。これらのタイトルの方向性は、タッチスクリーン入力を活かした触覚的な体験性を全面に打ち出し、幅広い層にプレイされたという意味で、DSのそれに近い。
ただしDSの場合は、あくまでも両手で把持して方向キーやボタンで間接操作する従来型ゲーム機としての操作系を維持した上でタッチスクリーン操作をプラスしていたのに対し、iPhoneの場合は手指でのアバウトなタッチスクリーン操作しかできない。したがって精密なシンボル操作は困難ながら、画面全体と本体そのものを動かすアバウトな直感的操作で楽しめる、アイディアを凝らしたゲームデザインの考案が促進されていったのである。

加えて、ゲーム機のようなパッケージメディアの場合はゲーム内容に一定以上のボリューム感をもった数千円の価格帯でないと流通網に乗せることが難しいが、アップルが胴元の「App Store」でなら、ワンアイディアを活かしたインディーズ的な小品を数百円以内で販売できる。そして人気ランキングが可視化されることによって、パブリッシャーの広告宣伝力によらずにゲームアプリが対等な競争条件で評価を集めることが可能になり、中小デベロッパーや個人制作者の作品がブレイクを果たすというサクセスストーリーが、次々と生まれえた。
こうしたエコシステムが、iPhoneに対抗してグーグルが汎用の携帯情報端末向けOSとして08年から投入した「Android」においても踏襲され、2大陣営による世界的なスマートフォン市場の拡大が、そのまま新たなゲーム・プラットフォームの台頭となって、ゆくゆくは日本ゲームの強みだった携帯ゲーム機の存在意義をも脅かしていくことになるのである。

 

■ 『ドラクエIX』がもたらした「多生の縁」
もっとも、00年代後半時点にあっては、国内の携帯電話キャリアとメーカーが築いたフィーチャーフォンの市場が強固だったため、スマートフォンに移行する層はまだアーリーアダプター層に限られており、ただちに携帯ゲーム機の市場に影響することはなかった。
この時期には、あくまで国内コンシューマーゲーム市場における据え置き機から携帯機への趨勢の移行として、象徴的なトピックが発生していた。国民的RPGシリーズのナンバリングタイトル『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』(スクウェア・エニックス 2009年)が、ニンテンドーDSでリリースされたことである。かつて『FFⅦ』や『ドラクエⅦ』が発売されたことで「国民機」の座がPSに移行したと見なされたように、この発売は再びその座が任天堂機に奪還されると同時に、マス向けの家庭用ゲームの主戦場が、もはや据置機ではないというメッセージを、業界内外に知らしめる事象となったのである。

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▲『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』(スクウェア・エニックス 2009年)

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