宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2018.11.27
  • 橘宏樹

橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第8回 説明責任 狡猾な正義は、曖昧な恥の文化をハックできるか~平成29年度決算検査報告~

現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。今回は「会計検査報告」について取り上げます。行政が正しく機能しているか、国民に代わって説明責任を問う会計検査院。公務員が恐れる機関でもありますが、一方で、その強大な権限を利用して組織内部の改革を進めようとする、志ある公務員もいるようです。

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▲会計検査院長(代行)が総理に会計検査報告を手渡す様子。(2018年11月9日 首相官邸HPより)

こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。

【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて

2018年10月も色々な出来事がありました。本庶佑京都大学特別教授のノーベル医学生理学賞受賞はおめでたいニュースでした。シリアで拘束されていたフリージャーナリスト安田純平氏の解放に際しては「自己責任論」で世論が割れたりしました。国際社会では、ブラジル大統領選では極右のボルソナロ氏が当選、トランプ大統領は中距離核兵器撤廃条約から離脱と、大国の右傾化傾向は引き続き世界に不安感を与えているように報道されています。
永田町では、第4次安倍内閣が発足。2019年10月からの消費税増税が明言されました。これに歩調を合わせるように、日銀総裁も消費税増税が景気に与える影響について条件付きながら楽観論を表明しました。10月24日に召集された第197回臨時国会の、総理所信表明演説では、社会保障の「全世代型化」などについて語られました。そして、審議される法案の一本目には、外国人労働者の受け入れ拡大に関する法案が上がってきています。

ちなみに、僕は、年に一度在邦外国人と日本人が100名以上集まって外国人と日本人の「共生」について議論する「トーキョー会議」というイベントの運営にかかわっています。これには昨年、我らが宇野常寛PLANETS編集長にも基調講演やパネルディスカッションに登壇していただきました。外国人向け住宅市場、コミュニティの場の創生、日本の人材採用の慣習、都市の国際化などについて議論しました。

「トーキョー会議2017」開催のご報告

次回トーキョー会議は2019年1月14日(祝)に開かれるようですが、この外国人受け入れ拡大法案をめぐる審議と相まって非常にホットな会になりそうです。日本語でも英語でもOKなので、皆様もぜひご参加ください。

一方、霞が関では、毎年この時期、各省にとっては正直あまり楽しくはないニュースが、毎日のように発信されます。何でしょうか。そう、会計検査報告です。最近「税金の無駄遣い〇〇億円、会計検査院の指摘」といった見出しのニュースを目にした方も多いのではないでしょうか。

税金の無駄遣い1156億円 指摘件数は過去10年で最少 会計検査院の決算報告(産経新聞2018年11月9日)

国立病院機構運営65病院が経営悪化、改善計画達成できず…会計検査院指摘(読売新聞 2018年11月11日)

鳥インフルのワクチン代、3千万円過大 検査院試算(日経新聞2018年10月29日)

会計検査院調査高校奨学金代理受領12府県制度化せず(毎日新聞2018年10月23日)

2億円超かけたデータベース、中身すかすか 検査院指摘(朝日新聞2018年10月15日)

などなど、ずらり。

会計検査報告とは、会計検査院という役所が、行政のパフォーマンスを独立中立の立場からチェックした結果をまとめたものです。内閣はこれを決算に添えて国会に提出します。換言すると「平成29年度予算が適切に用いられているか調べたところ、こういうマズい点がありましたよ」ということを国会と国民に直接報告するシステムなのです。

決算検査報告とは(会計検査院ウェブサイト)

毎年10月頃になると、ぽつりぽつりと発表され、11月初旬には、それらをとりまとめた分厚い書類を会計検査院長が総理に手渡しする様子が報道されます。冒頭の写真がそれです。
また、今年は特に、森友問題の関連でメディアに出てきたことも多かったように思います。「なぜあんなに値引きされたのか調べろ」と国会に要請され、一度調べて、「わからないことが多い」と報告したのですが「なら、もう一度よく調べろ」ということになり、今も調査しています。この問題は、財務省や総理夫人のスキャンダルとして報道されることが多いわけなのですが、会計検査院の検査報告の原文を直接読まれたことがある方はどのくらいおられるでしょうか。僕も今号を機に少し読みかじってみたところ、大部ではありますが、断片を読むだけでも、現地の具体的な状況のイメージが湧いてきました。

学校法人森友学園に対する国有地の売却等に関する会計検査の結果について(会計検査院ウェブサイト2017年11月22日)

森友、改ざん文書提出「法違反」検査院、国会に中間報告(共同通信2018年6月19日)

実は、この会計検査院、僕たち公務員にとってとは非常に「恐ろしい」存在です。なぜ恐ろしいのか。それは、以下で述べるように、会計検査院とその調査官が非常に強い権限を有しているからです。何をどのように検査するか(アジェンダ・セッティング)がほぼ完全に自由ですし、質問は予測し切れません。会計検査対応が「当たる」と、調査官の質問に答えきれるよう、資料の整理や準備、業務のそもそも論の理解など、非常に大量の準備をしないといけません。日ごろからちゃんとしていれば、急に準備する必要はないじゃないかとお叱りを受けるかもしれませんが、日常業務に追われていたり、新任だったりすると、なかなかそうもいかないのがリアルです。なので、おそらく、すべての公務員は、会計検査対応に関しては、正直、非常にめんどくさいという本音を抱いていると思います。他方で、調査官に激詰めされるなかで、日ごろおざなりになりがちな、あるべき姿を直視させられる良い機会にもなっているというのも確かなようです。

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