宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2016.01.14
  • 中川大地

新世代ハードはいかに現実空間を拡張したか 〜「Kinect」「ニンテンドー3DS」「PlayStation Vita」〜(中川大地の現代ゲーム全史)

今朝のメルマガでは、『中川大地の現代ゲーム全史』をお届けします。2010年代前半の「Kinect」「ニンテンドー3DS」「PlayStation Vita」といった新世代ハードの登場は、ゲーム市場にどのようなインパクトをもたらしたのか? ハードに実装されたAR(拡張現実)性に着目し考察します。


第11章 デジタルゲームをめぐる地殻変動/汎遊戯的世界への芽吹き
2010年代前半:〈拡張現実の時代〉本格期(2)

■ “未来”へのショートカットをもたらした「Kinect」の衝撃

ソーシャルゲームという思わぬ隣接産業の登場で、日本国内の据え置き・携帯型ゲーム専用機の市場は脅かされ、右肩上がりの成長を続けている海外市場との乖離はますます拡がっていく。
とりわけ大きな格差が生じていたのが、セガに替わって業界三国志の一角を担う立場にあったマイクロソフトのハードが占めるシェアである。前章でも述べたように、Xboxおよび後継機Xbox360の投入を通じて、同社のハードはWindows系の開発環境との相性の良さから、ベンチャー的なPCゲームのディベロッパー群を裾野として、海外市場ではプレイステーションシリーズに匹敵するシェア規模を獲得していたのに対し、国内ではセガ以上にニッチな「洋ゲーファン向けハード」としての位置に留まっていた。
この状況は、2000年代を通じて日本のゲーム市場が急激に「ガラパゴス化」していた事態の最も端的な指標でもあったが、2010年に登場した360用のある周辺機器への応答においても、きわめて鮮明に顕れている。モーション式の統合入力デバイス「Kinect」の登場である。

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▲Kinect(出典)

本機は、プレイヤー動作をキャプチャリングするためのカメラや深度センサー、音声認識用のマイクなどの機能を組み合わせることで、Wiiリモコンが切り拓いた身体動作によるゲーム体験を、さらに高度な水準で実現するための機器であった。Wiiリモコンの場合は、物理的なコントローラーを握って振り回すという操作系によって、間接的に腕や上体の運動を促すものであったが、Kinectはデバイスをモニター画面の前に設置し、ユーザーの全身運動を直接取り込む点が決定的に異なる。前者の発想は、あくまで任天堂が横井軍平の薫陶のもとに築き上げてきた玩具屋としての触覚的な手遊びギミックの工夫の延長線上に生まれたものであったが、後者はデバイスをモニター画面の前に据え置き、映像として人間の運動を解析するという、徹底して視覚的なアプローチによって生まれた機器であった。言うなれば、従来は一方的に画面上に生成される仮想世界をまなざすだけだったプレイヤー自身が、ゲーム機の側からまなざし返されるという視座が生まれたわけである。
これにより、四肢を動かしたりジャンプしたりといったプレイヤー自身の全身運動がデータ化され画面上のアバターにリアルタイムで反映されるという、現実空間と仮想空間の垣根を大きく超えるインタラクティブ体験が可能になり、同梱ゲームソフトの『Kinectアドベンチャー!』では、ボートに乗っての激流下りや自然の中の障害物コース探険、宇宙空間での無重力体験といった5種類のアスレチックゲームを楽しむことができた。
当面、最先端の研究機関や映像制作業務の現場でもなければ実現できないだろうと思われていた水準の体験を、誰もが手軽に享受できるものとしたKinectのテクノロジカルなインパクトは非常に大きく、発売4ヵ月ほどで1000万台の売上げを突破。ギネスレコードが「最も速く売れた家庭用電子機器」に認定するほどの勢いをもって、世界市場での成功を果たしたのである。

Kinect対応のヒット作としては、『Kinectアドベンチャー!』の他にもローンチタイトルの『Kinectスポーツ』(マイクロソフト)や『Dance Evolution』(コナミ)といったソフトが、家庭の屋内空間をスタジアムやダンス場に変えてしまうような体験性をもたらし、新時代のスポーツレクリエーションの先取りとして、驚きをもって迎えられた。
ただし、Kinectの真価をより深く受け止めたのは、ゲームを楽しむコンシューマー層というよりも、むしろ様々な分野の研究者やハッカーたちのコミュニティであったと言うべきだろう。汎用規格のUSB2.0で接続可能なKinectは、発売当初から360以外の機器で利用する画期的な汎用モーションセンサリングツールとして解析され、各種のメディアアートや映像制作、教育、人流計測、医療・障害者支援の現場など、デジタルゲーム以外の分野でも活用された。この自然発生的なムーブメントをマイクロソフト自体も追認し、12年にはWindows版のリリースや開発ツールの公開が行われ、やがて「The Kinect Effect」と名づけて奨励するに至る。

一方、欧米圏でのビビッドな反応に比して、360自体の普及度が低く、手狭な住宅事情の上でもKinectを活用したゲーム等を楽しむのが困難な日本では、そのインパクトが限定的な領域に限られている感は否めない。
ただし、特筆すべき事例としては、山口市でのアートイベント企画として、犬飼博士らが地元有志とともに13年に市内の商店街に設置した『スポーツタイムマシン』のようなケースが挙げられる。これは12台のKinectを並列・同期させて25m分のセンサリングを行い、この距離を折り返して50m走を行うプレイヤーのシルエット映像を記録、プロジェクション再生することで、過去の自分や他人との時空を超えた徒競走が可能になるという試みである。

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▲スポーツタイムマシン [Sports Time Machine] 紹介ビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=TYAA-6wE5VI

この前身として、犬飼らはモーションセンサーで読み取ったプレイヤーの動きと地上に投影された等身大のCG映像とのインタラクションにより、デジタルゲームのような競技を現実空間上でプレイすることのできる『eスポーツグラウンド』(エウレカコンピューター 2010年)を開発し、各種レジャー施設やフィットネス施設等で事業展開されていたが、Kinectの登場により、こうしたシステムが地域コミュニティレベルでも実装可能になったのである。
そして、ここでの成功をステップに、犬飼らは2020年の東京オリンピックを視野に、情報技術やデジタルゲームからのフィードバックによる近代スポーツそのものの柔軟な再設計や拡張を目指す「未来の運動会」のムーブメントを始動させている。

いわばKinectは、現実空間とデジタル空間の垣根を超えていく〈拡張現実の時代〉のさらに先を発想するためのインフラとして、進歩の速度を少なくとも数年は早める役割を果たしたと言えるだろう。

■「ニンテンドー3DS」の引き裂かれたコンセプト

マイクロソフトのKinectが室内空間における先進的な現実性拡張の可能性を大きく切り拓く一方で、とりわけ屋外空間に持ち出せる〈拡張現実〉デバイスの進化を積み重ねてきた日本の任天堂とSCEは、前世代機と同様に携帯型ゲーム機の代替わりを、据え置き機に先行して行っている。2011年登場の「ニンテンドー3DS」、および「PlayStation Vita」である。
いずれも前世代機のニンテンドーDSとPlayStation Portableが確立した国民的普及機とグラフィカルなハイクオリティ機としてのニッチを継承しつつも、スマートフォンの脅威を意識し、ゲーム専用機ならではのギミックの先進性を演出するための差別化に腐心している点が特徴的だ。

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▲ニンテンドー3DS(出典)

3DS最大の特徴は、その名の通り裸眼立体視可能な視差バリア方式の3D液晶ディスプレイである。
これはちょうど、地上アナログ放送停波前後の時期のテレビの買い替え需要を狙って、国産テレビメーカーがこぞって高付加価値な3Dテレビの新製品を売り出していたことが、機能搭載の背景となっていた。2009年の映画『アバター』などを皮切りに劇場映画ソフトの3D化が進んでいたことや、いくつかの衛星放送局がスポーツ中継などの立体テレビ放送を開始しており、2000年代末から2010年代初頭にかけては家電業界を挙げての3Dブームが引き起こされ、新たな標準機能としての定着が期待されていた時宜があったわけだ。
そして、多くの3Dテレビと違って専用眼鏡を必要とせず、アナログスライダーで立体視の深度を好きな程度に調節できる3DSの仕様は、手軽に立体映像を楽しめる機器としては群を抜いた完成度とポピュラリティを持っていた。それゆえ、消費者の需要ではなく供給側の事情によって作られた時代錯誤なブームでしかなかった3Dテレビのブームがわずか2〜3年で霧散する中で、結果的に3DSだけが唯一「標準」と呼びうる規模での普及を果たすことに成功した家庭用立体映像表示機器としての地位を獲得することに成功したと言えるだろう。

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