宇野常寛 チームラボと未来の社会像――3つの境界線を消失させるために(前編)
今朝のメルマガは、宇野常寛によるチームラボ論をお届けします。2016年のトランプ大統領の誕生が明らかにした世界の分断。グローバリゼーションと、それに対する抵抗の間にある「境界」は、いかにして乗り越えられるのか。前編では、チームラボが「Borderless」のコンセプトを掲げて取り組む、作品間の「境界」を融解させる試みについて読み解きます。
※本記事は『teamLab 永遠の今の中で』(青幻舎・2019年)に寄稿した論考を転載したものです
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1 2016年の敗北ともう一つの「壁」
2016年11月8日一それは世界を駆動していた一つの理想が決定的に蹟き、そして敗北した日だった。
その日行われたアメリカ大統領選挙によって第45代大統領に選ばれたのは、大方の予想(あるいは希望的な観測)を覆しドナルド・トランプだった。「壁を作れ」という象徴的な言葉が示すようにトランプの当選は、20世紀の惨禍から人類が学び得た理想(多文化主義)と、21世紀の人類を前に進める新しい「経済」的な理想(カリフォルニアン・イデオロギー)の二つに共にNoを突きつけるものだ。
多文化主義(政治的なアプローチ)とカリフォルニアン・イデオロギー(経済的なアプローチ)はともに、グローバル化と情報化によってこの世界を一つにつなげる力の背景にある思想だ。20世紀的な国民国家の集合(インターナショナル)から、世界単一の市場経済(グローバル)ヘ世界地図を描くべき図法は変化し、この新しい「境界のない世界」は冷戦終結から約四半世紀の間に急速に拡大していった。革命で時の政権を倒しても、ローカルな国民国家の法制度を変えることが関の山だが、情報産業にイノベイティブな商品やサービスを投入することができれば一瞬で世界中の人間の社会生活そのものを変えることができる。21世紀はグローバルな市場というゲームボードによって世界が一つの平面に統一され、その主役は国境を越えて活躍するグローバルな情報産業のプレイヤーたちだ。
しかし、この新しい「境界のない世界」へのアレルギー反応が噴出したのが、2016年だった。アメリカ大統領ドナルド・トランプの誕生、そして同じ2016年に行われたイギリスのEU離脱を支持する結果となった国民投票(ブレグジット)。去る2016年は冷戦終結後から一貫して進行してきたグローバリゼーションに、そしてそれと並走して進行してきた人類社会の情報化に対するアレルギー反応の時代に世界が突入したことを宣言する1年になったのだ。