勇者シリーズ(4)「太陽の勇者ファイバード」(後編)
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■「武装」するロボットと脱税
さて、それではモチーフについても論じていこう。今作において、ファイバードたち宇宙警備隊が身を寄せるのは「天野平和科学研究所」である。これは天野博士(ひろし、という人名であるが、おそらく学術博士でもあるだろう)によって設立された民間の研究所である。宇宙のマイナスエネルギーを観測した天野博士が、その災いから人類を守ることを目的として設立されたものだ。ファイアージェットも元はレスキュー用の航空機として開発されたものと設定されており、戦う際は武装を搭載した別の支援戦闘機フレイムブレスターと合体する。これは玩具にも反映されており、頭部と胸部のデザインが大きく変わることでパワーアップした印象を与えるギミックとなっている。航空機という「鳥」が「炎」をまとうことで、戦う存在へと変わるわけだ。ファイバードとチームを組むサンダーバロンは特殊作業ビークル群の合体ロボットであるし、同様にガーディオンはパトカー・救急車・消防車という緊急救助車両の合体ロボットである。ファイバードは一応「武装」前にもいくつかの武器を搭載しているものの、そのすべてを折りたたんだり格納することを徹底している。こうしたギミックは、「本来は非戦闘用のマシン」が、危機に際して「やむを得ず武装する」という構図を強調する表現であると見ることもできるだろう。
こうした手続きの意味は、敵対勢力と突き合わせるとよりその色彩を明確にする。敵は宇宙皇帝を名乗り地球を支配しようとするマイナスエネルギー生命体ドライアスと、Dr.ジャンゴという悪の科学者のタッグである。つまり一種の帝国主義と、それを支援する科学技術の組み合わせ――政治と科学の短絡が争いを呼ぶ悪しき存在として設定されているわけだ。一方で、天野平和科学研究所は民間の研究施設であり、ファイバードたち宇宙警備隊もあくまで侵略という「犯罪」に抵抗するために戦う警察組織ということになっている。
そしてこの政治からの分離という価値観は徹底されている。天野平和科学研究所の財源は先祖の山々を売却した資産であるのだが、驚くべきことに天野博士は巨額の脱税を行うことでその資産を研究に費やしたことが語られる。もちろんDr.ジャンゴのように破壊と侵略に加担するのは悪だろうが、脱税も犯罪である。しかしファイバードの美学においては、税金を収めることはある政府に肩入れすることであり、それは科学の純粋性を損ね、政治との短絡というドライアス側の価値観に接近することなのである。
また『勇者エクスカイザー』が主に日本を舞台にしていたのに対して、『太陽の勇者ファイバード』では世界を舞台にした国際色豊かなエピソードが見られることも重要だ。ドライアスは、ときに地震兵器や気象兵器を使って、「地球」を単位に侵略を行う。Dr.ジャンゴは自分がノーベル賞を得られないことに憤慨するし、ケンタ少年が想いを寄せるクラスメイトはニューヨークに引っ越す。さらにはアメリカがドライアスに支配され、それを宇宙警備隊が開放、大統領に感謝されるエピソードさえ描かれる。
こうした設定は「お宝を奪う」という目的を持った「海賊」と戦う『勇者エクスカイザー』を継承しつつも、かなり踏み込んだものである。20世紀に対する反省からグローバリズムの文脈で平和を求める方向性が、世紀末の同時代的なトレンドであったことはすでに何度か述べた。グローバリズムにおける警察的な役割とは、戦後の世界秩序においてアメリカが果たそうとしたものであり、それはむしろ政治的な力を持った科学――強大な軍事力によって実現され、そしてそれゆえにさまざまな軋轢を生んだ。そして日本もまた、戦争の放棄という日本国憲法の理念と、日米安保という現実の間で揺れ動くことになった。その立場に対して脱税を描いてまで「政治的でないこと」を貫く美学、そして科学や技術に対する礼賛は、日本の戦後民主主義的な色合いを強く感じさせるものだ。天野平和科学研究所の掲げる「平和」とは、政治からの分離を意味する。そしてその美学が、玩具のデザインとも手を取り合っているのである。
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