宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2016.06.08
  • 中川大地

位置情報ゲームの展開と『Ingress』(中川大地の現代ゲーム全史)【毎月第2水曜配信】

今朝のメルマガは『中川大地の現代ゲーム全史』をお届けします。今回は『コロニーな生活』『Foursquare』『セカイカメラ』といった位置情報ゲームの勃興と展開、そして『Ingress』が持つ批評的意義を論じます。


 
▼執筆者プロフィール
中川大地(なかがわ・だいち)
1974年生。文筆家、編集者。PLANETS副編集長。アニメ・ゲーム関連のコンセプチュアルムックの制作を中心に、各種評論・ルポ・雑誌記事等を執筆。著書に『東京スカイツリー論』(光文社)。本メルマガにて『中川大地の現代ゲーム全史』を連載中。
 
第11章 デジタルゲームをめぐる地殻変動/汎遊戯的世界への芽吹き
2010年代前半:〈拡張現実の時代〉本格期(7)
 
前回:PCオンラインゲームが行き着いた「脱・戦争」競技のかたち 〜『League of Legends』『World of Tanks』『艦隊これくしょん』〜
 
■位置情報ゲームの勃興と展開
 
 各種のモバイルゲームにあって、〈拡張現実の時代〉が理念の表現から端的な実態へと近づいていくプロセスを実感させたのが、携帯型デバイスの位置情報を活用するコンテンツであろう。具体的には、GPSなどで取得した現実の地理空間の写像となる情報をベースに、デジタル合成したテキストや画像などの情報を重畳させていく、いわゆるロケーションベース型のAR技術を応用するタイプのゲームである。AR関連の研究者コミュニティにもインパクトを与えた2007年のジュヴナイルSFアニメ『電脳コイル』で描かれたような、「電脳メガネ」をかけると現実空間に重なる電脳上の〝もうひとつの世界〟が見えるようになるという描像は、この種の技術の延長線上に外挿されていると言える。
 
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▲『電脳コイル』(出典
 
 『電脳コイル』の世界では、劇中の設定年代よりも10数年遡る古い方式で現実空間とリンクされた電脳空間での怪異が物語の軸線を形成していたが、位置情報を用いた国産ゲームの実際の試みも、すでにガラケー全盛期の2000年には始まっていた。この先駆となっていたのが、基地局からの位置情報を利用したJ-PHONEのエリア別情報配信サービス「J−スカイ ステーション」の提供コンテンツ『クリックトリップ』および『誰でもスパイ気分』だ。
 前者は、ユーザーの移動距離に応じて双六式に日本各地を旅するというもので、都市生活者の通勤・通学時の移動を仮想的な旅行に見立てることで、退屈な日常活動の意味をささやかに異化せんとするシンプルな発想のゲーミフィケーションである。
 後者は、プレイヤーがスパイとなって対立する諜報組織の2陣営に分かれ、エリア内を指示通りに移動することによってボスから与えられる任務を果たし、他陣営と競うというもの。言うなれば、携帯電話を仮想の組織からの通信手段に見立ててプレイヤーに虚構の立場を与えることで、現実空間のエリアで普段とは異なる能動的な行動を促すという、ちょっとしたARG(Alternate Reality Game:代替現実ゲーム)的な性格を帯びたゲームである。
 利用できる位置情報の精度やアプリとしての視聴覚演出、ユーザーコミュニティの規模や認知度など、ごく萌芽的なものではあったものの、以後の位置情報ゲームの基本的な方向性は、すでにこの2タイトルに備わっていたとも言えるだろう。
 
 位置情報ゲームを黎明期から発展普及期へと導いたのが、03年に馬場功淳が個人での提供を開始した『コロニーな生活』(05年に『コロニーな生活☆PLUS』とリニューアルし、08年よりコロプラ社の運営に移管)や、地図検索サービスMapionが05年に開始した『ケータイ国盗り合戦』といったフィーチャーフォン向けモバイルゲームであった。
 
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▲コロニーな生活(出典
 
 『コロニーな生活』は、ユーザーの移動距離に応じて仮想通貨「プラ」が蓄えられていき、これを消費することで画面上に描画されるスペースコロニー内に農場や貯水池などの施設を築き、人口を増やして発展させていくことを目指すという簡易な都市造成SLGである。ユーザーの現実空間での移動に仮想の意味や価値を付与していくという発想は『クリックトリップ』同様だが、日常的な移動から非日常的な旅行へという距離から距離への単純な置き換えだった先行作に比して、本作ではこれを通貨化することで、移動とは直接関係のない別のゲームデザインの原資へと変換した点が白眉となっている。これはちょうど、のちに一般化する「スタミナ制」のソーシャルゲームが〝時間〟によってプレイ権を回復していく仕組みであるのに対し、これが〝距離〟に紐づけられているという図式だ。
 一方の『ケータイ国盗り合戦』は、日本全国を旧国名単位で300〜600のエリアに分割し、訪れたエリアで現在地測定することで「国盗り」できるという趣向の陣取りを骨格にしたゲームである。位置情報の活用法が線的な距離で示させる一次元の数値ではなく実際の地理平面とリンクしているという意味では『誰でもスパイ気分』の延長線上にあり、さらに日本全国の制覇を目標にしている点で、日常移動の読み換えというよりは実際の国内旅行に付加価値を与えるスタンプラリーに近い。
 この両作が牽引役となり、携帯電話キャリア固有のサービスという枠組みではなく、マルチキャリア対応の汎用タイトルとして提供されたことで、位置情報ゲームの裾野は徐々に広がってゆく。同時代的に普及していたSNS型のコミュニティサービスやソーシャルゲーム的なゲームモード等を拡充させつつ、地域観光や町おこしに関連する企業や店舗等とのタイアップにも発展。リアルな移動の敷居の高さゆえにソシャゲほどの規模感には遠く及ばないものの、サラリーマン層などに熱心なファンを獲得し、2010年代にはそれぞれ100万人を超えるユーザー数を獲得するに至っている。
 
 一方で、GPSとGoogle Mapのような高精度の地図アプリを標準搭載したスマートフォンが普及するのに対応して、海外では2009年、位置情報と連動するコミュニケーションサービス「Foursquare」が登場。これは公共施設や飲食店など、他のユーザーが「ベニュー」として登録した特定のスポットに足を運んで「チェックイン」することで、得点や「バッジ」と呼ばれる報償が与えられ、さらにTwitterやFacebookなどの汎用SNSのアカウントと連動して現在地の情報を友人たちとリアルタイム共有することができるという概要のソーシャルサービスである。
 言うなればFoursquareは、『ケータイ国盗り合戦』的な陣取り対象となるエリアの解像度をスポット単位まで高精細化し、かつユーザー自身が作成できるようソーシャル化しつつ、実生活に密着するライフログ記録システムとして位置ゲー的な方法論を導入したゲーミフィケーションの応用事例として、位置づけることができるだろう。
 同じく09年には、日本の頓智ドット社が、スマートフォンのカメラを通じて画面上に映し出される風景に様々なテキストや画像、音声といった「エアタグ」を付加して共有することのできる、本格的なロケーションベース型のARアプリ「セカイカメラ」の提供を開始。〈拡張現実の時代〉を文字通りに体現する無償サービスの登場は、ITデバイス好きのアーリーアダプター層などを中心に大きな衝撃を与えた。
 このベースシステムを利用した「セカイアプリ」シリーズとして、同社は2010年、現実風景に重ね合わされる爆弾を解除するという趣向のマルチプレイゲーム『ばくはつカブーン!』や、モンスターを探しだして倒していくオンラインRPG『セカイユウシャ』といったARゲームタイトルをリリース。フリーミアムのアイテム課金型ソーシャルゲームに倣ってのビジネス化を図ってもいる。
 
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▲セカイカメラ(出典
 

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