宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

Serial

  • 2019.10.15
  • 成馬零一

【特別寄稿】成馬零一 2019年の「現実 対 虚構」ーー史実の暴力に、どう向き合うべきか?(中編)

今朝のメルマガは、成馬零一さんによる寄稿の中編です。溶解する現実と虚構を素材とした映像作品は、海外からも次々と登場していますが、そこには歴史改変につながる危うい欲望が見え隠れしています。タランティーノ、スパイク・リー、フィンチャーの最新作から、虚構と作家性の関係について掘り下げます。
※本記事の前編はこちら

クエンティン・タランティーノの最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(以下、『ワンス』)は1969年のハリウッドを舞台にした映画だ。
テレビの西部劇スターだった落ち目の俳優リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と、リックの親友で専属スタントマンのクリフ・ブース(ブラッド・ピット)、リックの家の隣に引っ越してきた、映画監督・ロマン・ポランスキー(ラファル・ザビエルチャ)の妻で若手女優のシャロン・テート(マーゴット・ロビー)。カメラはこの三人の姿を交互に追っていく。
俳優として行き詰まり、酒に溺れながらも西部劇ドラマの撮影に挑むリック。リックが撮影している合間にフラフラしていると、ヒッピーの少女に連れられてマンソン・ファミリーのコミュニーンに足を踏み入れてしまうクリフ。そして、自分が出演した映画『サイレンサー第4弾/破壊部隊』を鑑賞するシャロン。
三人の姿を描いた後、物語は半年後の1969年8月9日へと飛ぶ。イタリアの西部劇(マカロニ・ウエスタン)に出演したリックはイタリアで成功を収めた後、イタリアで結婚した妻を連れて帰国。契約を解消するクリフと最後の晩餐を過ごしていた。一方、シャロン・テートはポランスキーの子を妊娠していた……。

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▲『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

本作は1969年のハリウッドを、落ち目の西部劇俳優の視点から描いたノスタルジックな映画だ。劇中では当時の風景やファッションや車が忠実に再現されており、ブルース・リー(マイク・モー)、シャロン・テート、ロマン・ポランスキーといった実在する映画監督や俳優が登場する。主人公の二人、リックとクリフは架空の人物だが、モデルとなった人物は複数いるようで、タランティーノの映画に出演したある老俳優が専属スタントマンと共に行動する姿を見て、二人の関係に魅力を感じたことがきっかけだったという。
劇中でかかるラジオ番組も実際に流れていたものらしく、本作の魅力は1969年のハリウッドを忠実に再現した箱庭的な楽しさだと言える。その意味で『全裸監督』にも通じる実話をもとにした偉人伝系の作品だが、そこはタランティーノらしい虚実の入り混じった巧妙な仕掛けが施されている。

引用と編集と暴力

90年代に『レザボア・ドックス』や『パルプ・フィクション』といった作品で注目されたタランティーノの作風は「引用(サンプリング)と編集(リミックス)と暴力(バイオレンス)」だ。
ビデオショップの店員だったという出自が伝説化しているタランティーノは、過去の映画や音楽、あるいはジョン・トラボルタのような過去に活躍した俳優を自由自在に引用して、物語の時系列を巧みに組み替えることで、どこにでもありそうで、どこにもなかった物語を作り上げた。

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