脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第40回「男と食 12」【毎月末配信】 | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2018.09.28
  • 井上敏樹

脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第40回「男と食 12」【毎月末配信】

平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。友人たちと京都を訪れた敏樹先生。夏の京都の名物である鱧(ハモ)料理にまつわる薀蓄から、20代の頃、初めての京都旅行で、尿道結石を患いながら芸者遊びをした思い出が蘇ります。

男 と 食  12      井上敏樹

先日、十円玉が立った。部屋で落とした十円が床に跳ね返って立ったのである。これは、茶柱が立つより稀れな現象ではあるまいか。きっと縁起がいいに違いない。さて、今年の夏も友人たちと京都に行った。京都は盆地なので、以前は東京よりずっと暑かったが、最近では様子が変わった。東京より涼しいくらいだ。これも異常気象のせいだろうか。今夏の京都で印象に残ったのは鱧料理が少なかった事だ。夏の京都と言えば鮎と並んで鱧、いや、鮎以上に鱧であり、どの店に行っても必ずと言っていいほど鱧が出る。それも、椀種にするか、湯引きにするか、大体どこも同じ料理。そしてまずい。お碗のひとつぐらいなら、『うむ、夏だな、京都だな』と新鮮に食えるがすぐに飽きる。それが、今回の京都では、二泊で四軒の割烹を回って一度だけ、鱧の湯引きだけであった。これは一体どういうわけか。たまたまいい鱧が入らなかったのか。料理人たちが鱧に倦んだのか。客たちが実はそれほど鱧を喜ばない事に気づいたのか。それはないだろ、と思われるかもしれないが、実際、私の友人たちにも鱧好きは皆無である。ただ、鱧にも魅力がないわけではない。料理人がどんっと鱧の身をまな板に広げ、専用の包丁でシャッシャッと骨を切っていく様子はなかなかのパフォーマンスだ。

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