宇野常寛 NewsX vol.6 ゲスト:上田唯人 「僕たちは走ることで、世界に(あたらしく)触れることができる」【毎週金曜配信】 | PLANETS/第二次惑星開発委員会

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  • 2018.11.09
  • 上田唯人,宇野常寛

宇野常寛 NewsX vol.6 ゲスト:上田唯人 「僕たちは走ることで、世界に(あたらしく)触れることができる」【毎週金曜配信】

宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。10月9日に放送されたvol.6のテーマは「僕たちは走ることで、世界に(あたらしく)触れることができる」。「走るひと」編集長の上田唯人さんをゲストに迎えて、ライフスタイルスポーツとしてのランニングのあり方について語り合いました。


NewsX vol.6
「僕たちは走ることで、世界に(あたらしく)触れることができる」

2018年10月9日放送
ゲスト:上田唯人(「走るひと」編集長)
アシスタント:加藤るみ(タレント)
アーカイブ動画はこちら

宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネル、ひかりTVチャンネル+で生放送中です。アーカイブ動画は、「PLANETSチャンネル」「PLANETS CLUB」でも視聴できます。ご入会方法についての詳細は、以下のページをご覧ください。
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上田唯人さんと宇野常寛の過去の対談記事はこちら
ライフスタイル化するランニングとスポーツの未来 『走るひと』編集長・上田唯人×宇野常寛 前編後編


「自分の物語」としてのスポーツ

加藤 NewsX火曜日、今日のゲストは「走るひと」編集長の上田唯人さんです。まずは「走るひと」というランニング雑誌について教えていただけますか?

宇野 「走るひと」はランニング雑誌なんだけれど、いつか私は高橋尚子になるとか、有森裕子になる、みたいな人が読む雑誌ではないと思うんですよ。

上田 アスリートのトップ選手を取り扱っている雑誌がいままでの雑誌だとすると、「走るひと」でやっていることは、クリエイターだったり、アーティストだったり、いろんな仕事をやっている人が走っている様を取り上げて、紹介している雑誌ですね。

加藤 私たちでも馴染みやすいように、一般目線で書かれている雑誌なんですね。

宇野 みんなで長距離ランナーになろうということではなくて、ランニングというライフスタイルを推奨している、走ると人生や生活が楽しくなるということを提案している雑誌という印象かな。

上田 いろんなアーティストが、創作活動の中で走ることを必要なものとして位置づけていたりする。それはなぜか、今までは違ったのか、みたいなことを雑誌の編集活動を通じて伝えているという感じですかね。

加藤 宇野さんと上田さんはどういうきっかけで知り合ったんですか?

宇野 以前、僕は「走るひと」に取材されたんだよ。どうやら走っているらしい一般人のうちの一人として出てくるみたいな感じでね。

上田 「走るひと3」が出たときに、宇野さんのことを記事にさせてもらったんです。これを作っているときに、ちょうど宇野さんも「PLANETS vol.9」を作られていて、そのメインテーマが「オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト」だったんですよね。僕らは走ることを中心として雑誌をつくっていますけど、ただ走ることだけじゃなくて、もうちょっと広い意味でのライフスタイルとしてのスポーツの今後を考える上で、宇野さんみたいな方が走り出していることだったり、オリンピックの未来を考えていくことが重要だなと思っていたときに、宇野さんを取材をさせていただいたのが最初のきっかけですね。

宇野 2015年に出した「PLANETS vol.9」は僕にとって達成感と挫折が両方あった雑誌なんですね。まず、一言で言うと、僕は2020年のオリンピックに反対だったわけなんですよ。グダグダになるのはわかっていたので、こんなオリンピックはやるべきではないとね。
ただ、そこに対して文句ばかり言っているのはカッコ悪いから、自分たちだったらどうするか、ということで、いろんなことを考えたんですよ。競技中継の方法だったり、オープンニングはこうしたいとか、あとは都市開発のプランだったりとか、自分たちの2020年を提案することで、今進んでいるグダグダのオリンピックをポジティブに批判しようとしたんですね。それで、雑誌を完成させて、すごい達成感があったんですよ。でも、同時に挫折感もあった。それはなんでかというと、一言で言うと売れなかったんだよね。今の「PLANETS vol.10」のほうが全然売れている。そこで、なんで売れなかったのかを僕は考えたんですよ。そのときに僕は何をやろうかとしていたのかというと、オリンピックという観るスポーツのアップデートだったんですね。

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宇野 これはチームラボの猪子寿之さんと組んで考えた市民を巻き込んだオープニング。単に派手な開会式を見て、「これが日本だ!最高!」というふうに感情移入するには限界がある。そうじゃなくて、市民が参加できる開会式にしようということで、こういったインタラクティブなインスタレーションを街中で開催しようというプランとかを出したわけなんだよね。

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宇野 あと、これは井上明人さんというゲーム研究者を中心に進めていた、オリンピックのスポーツをもうちょっと拡張していこうという記事なんだよ。結局オリンピックとパラリンピックで分かれていて、ノーマルな身体を持った人間とノーマルじゃない身体を持った人間の競技に分かれちゃっているじゃない。やはり、そのことに壁を感じるわけね。その壁をなくして、誰でもスポーツに参加できる、もっと自由で平等なものにしようと思っていて、新しいスポーツを発明するということを僕らはやったんですよ。
どっちもすごく手応えがあった。これは同時にオリンピックを通して、社会にどう多様性を実装するかとか、社会に対しての参加感を人々にどのようにして植えつけていくのかという思考実験でもあったんですね。
ところが、「PLANETS vol.9」はあまり売れなかったし、僕自身も達成感と同時に限界も感じた。その限界は何かというと、オリンピックは結局「他人の物語」なんだよ。オリンピックはどこまでいってもテレビ産業だし、基本的には画面の中のアスリートの活躍を観て、そこに感情移入をして、自分も勝手に感動するという装置なんだよね。もちろん僕はそれをくだらないことであるとまったく思わないんだけれど、今の時代はインターネットの時代で、もうモニターの中の他人の物語に感動して満足する人間はどんどん少数派になっていっている。やはり自分が参加して、自分が主役の物語を自分でドヤ顔で発信することのほうが、みんな気持ちよくなっている。そこが足りなかったんじゃないかなと思ったわけ。
そんな中で、上田さんと出会って、ランニングというテーマで対談をさせてもらった(参照)ときに、観るスポーツをアップデートするんじゃなくて、「する」スポーツのことを考えたほうがいいんだ、と僕は気づいたんだよね。だから、僕はもう一回走り始めたんですね。なので、「PLANETS vol.10」を作っているときに、上田さんに真っ先に連絡をして「今回一緒にやってくれませんか」ということになったんです。それで、上田さんに、60ページにわたる「走るひと」×「PLANETS」という異なる雑誌のコラボレーションで記事を作ってもらったんですよね。

「ライフスタイルスポーツ」と「自己修練」―ランニングを巡る二つの考え―

加藤 今日のトークのテーマは「僕たちは走ることで、世界に(あたらしく)触れることができる」です。宇野さん、このテーマを設定した理由は何ですか?

宇野 僕自身が上田さんと出会って、どうしてもう一回ランニングを始めて、今でもずっと続けているかというと、楽しくて、気持ちいいからなんですよね。みんな、実はこのことを意外とわかっていない。ランニングやヨガをライフスタイルスポーツと呼ぶことを、僕は上田さんから教わったんですよ。最初はライフスタイルスポーツを健康管理のためにやる人が多いと思うんだけど、長く続けている人はランニングやヨガが生活の中に組み込まれていることが気持ちよくて楽しいからやっている。街を走ることを通じて、世界の見え方がどう変わるのかということを、今回上田さんとあらためて話して、視聴者に伝えたいなと思って、このテーマを選びました。

加藤 今日も三つのテーマでトークをしていきたいと思います。最初のテーマは「なぜいま、ランニングなのか」です。

宇野 ランニングと言っているけれど、体育の授業や運動部の走り込みと、今の世界中の都市で現役世代が走っているライフスタイルスポーツとしてのランニングでは、別物だと思うんですね。そのあたりの概念整理から始めたいなと思って、このテーマを設定しました。

上田 僕らも雑誌を作っているなかで、いろいろ過去を振り返ったときに、2008年のリーマン・ショックとか、あるいは、その後の東日本大震災の影響ってすごく大きいなというのはあった。それは、さきほど宇野さんがおっしゃった、「観るスポーツ」から「するスポーツ」に変わっていった変遷と実は符合するんです。なぜかというと、大きな変化が起こったときに、働いている人や生活している人が自分の生活を見直す契機になったのがすごくあったなと。そのときに、自分の時間をどう使うか、それを豊かにするためにどうするか、と考えたときに、走ることを選ぶ人だったり、ヨガをすることを選ぶ人、あるいは食を見直す人がいたりして、お金の使い方、時間の使い方に対する変化がすごくあったなと思ったんですよ。そういう意味でも、宇野さんご自身が走り出されたこともおもしろいですし、世の中全体もそういう機運を共有しているような感じがすごくあった。それがなぜ今ランニングなのか、ということのひとつの切り口なのかなと思います。

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