宇野常寛より、2020年新年のご挨拶(全文無料公開) | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2020.01.01

宇野常寛より、2020年新年のご挨拶(全文無料公開)

2020年、あけましておめでとうございます。今年も、よろしくお願いします。

昨年2019年は僕にとって、そしてPLANETSというユニットにとって、外側からはあまりそう見えなかったかもしれませんが挑戦の1年でした。

実はその前の2年でPLANETSというユニットは一回か二回り大きくなって、やれることがとても増えました。要するに、自分でいうのもなんだけれど、力がついた。そしてその上で、以前からやってみたかったことに一回り大きくなった身体で挑戦をはじめたのがこの1年でした。畑を耕して、種をまいて、そして芽吹きはじめたものにせっせと水と肥料を与える。はじめて育てる作物を方法論から試行錯誤していくのは、充実しているけれどとてもしんどいことで、はっきり言えば昨年(2019年)中にはあまり収穫できなかった。これが2019年の失敗です。しかしせっかく思い切ってはじめたあたらしいことを、中途半端なかたちで世に出すことはどうしても僕にはできませんでした。

そして、その結果報告がふたつあります。2019年には間に合わなかったけれど、というか、間に合わなかったために2020年はこの1年以上僕が手がけてきたふたつの仕事が(正確にいうと、同じ仕事のふたつのプロジェクトが)ほぼ同時に世に出ます。ひとつは、僕が再三予告してきた「遅いインターネット」計画の中核であるウェブマガジンが今年2020年の2月、いよいよオープンします。

1)「遅いインターネット」ウェブマガジンを2020年2月にオープンします

遅いインターネット_正方形ヨコ

「いま必要なのは、もっと〈遅い〉インターネットだ」と啖呵を切ったのが2018年のこの年始の挨拶なので、構想段階からは2年になります。いろいろな人たちと議論しながらコンセプトを煮詰めて、サイト制作のプロジェクトをスタートさせたのが昨年末の12月28日なので、1年かかってここまでこぎつけたかたちになります。

いまはオープン記念の記事を制作しながら、サイトの細かい文言やフォント、画像などを微調整しています。SNSの潮目を気にすることなく、5年、10年と読みつがれる記事をゆっくりと更新していくつもりでいます。日々の暮らしの中でだらだらと読めて、でも、しっかり身になるような記事にできたらと思います。そして、その語り口はちょっと楽しくなるようなものにできたらと考えています。眉間に皺を寄せてなにかを糾弾するような語り口(それが必要なときはためらうべきではないですが)に頼らないようにすることを心がけていくつもりです。(そのためにサイトには細かいしかけがたくさん施してあるので、お楽しみにお待ち下さい。)

2)新刊「遅いインターネット」(NewsPicksBooks)2020年2月発売

もうひとつは、このウェブマガジンのオープンに合わせて……というか、刊行が遅れて結果的にこのタイミングになり、どうせならと日程を合わせただけなのですが、僕の書き下ろしの新刊『遅いインターネット』が2月に発売になります。(たぶん、サイトオープンの少しあとになると思います。)
これは、僕にとっては実は単著でははじめてのサブカルチャー批評「ではない」本です。これはタイトルの通り、いまのインターネット社会について考えた本です。そして自分で言うのもなんだけれど、かなり気に入っている本です。第一章は民主主義の、第二章はメディアの、そして第三章は……と、一章ごとにまったく異なることについて論じています。けれど、読んでいるとその必然性がしっかりと伝わると思います。この展開しかあり得ないことが分かると思います。
これは僕のこの数年間の仕事のまとめであり、そしてこれからの仕事のマニフェストになっています。箕輪厚介の編集したNewsPicksBooksというだけで、中身を吟味もせず(もしくは最初から否定することを目的に脚色できそうな部分を探して読み)批判する人もたぶん多い本だと思います。いろいろな方面からのネガティブキャンペーンが発売前から予測される本でもありますが、こういう不毛なコミュニケーションだけが反復されるインターネットの言論空間をどう乗り越えるかということを徹底的に考え抜いた本です。そして「それでも」インターネットが代表する情報技術を用いて、世の中にポジティブなアクションを起こしていこうと考えている人のための本です。

これは、僕のこれまでの仕事で一番苦戦した本でした。分量では4倍近い『母性のディストピア』よりも、辛く、苦しい作業でした。理由はふたつあって、ひとつは平易な文体で書いた入門的な内容でありながら、議論の濃度と精度を落とさないように繊細なコントロールを施したことです。この本はいままで僕の言葉が届かなかった人々にある程度届かないといけない。そのために、最後の最後まで、1行も妥協するべきではない。実はこうしているいまも、第3校のゲラのやり取りを年越しで行っています。しかし後悔したくないのでここまで来たらやりきります。
そしてもうひとつの理由は、これが現実に進行する「遅いインターネット」計画の手探りの試行錯誤の内容をダイレクトに反映していることです。つまり、計画の内容が変更になるたびに、本の内容もそのたびに変更にならざるを得なかった。それも、単に計画の概要を紹介した箇所を書き換えて済むのではなく、理論的な部分を修正しなければいけなくなりました。この本はいままでの僕のどの仕事よりも、考えながら、走りながら書いた本です。その試行錯誤の過程も合わせて読んでもらえるととても、嬉しいです。

3)宇野の「発信」ノウハウを共有するPLANETS Schoolを2020年1月から本開講します

そして、この1年「遅いインターネット計画」を仲間たちと議論しながら進行していく中で発生した、もっとも大きな変更点は「もはや読者によい記事を読んでもらうだけでは足りないのではないか」と考え始めたことでした。この「遅いインターネット計画」は、いまの「速い」インターネットは読者をあまりにも安易に発信者に変えてしまうことへの抵抗としてはじまりました。ウェブ2.0という言葉が流行り始めた頃から、僕たちはずっと人間は情報を受信するだけではなく発信することで、「読む」だけではなく「書く」ことでより当事者となり、情報をより慎重に、多角的に検討するようになるはずだ……そんな前提で思考してきました。しかしこの考えが誤りであったことはもはや誰の目にも明らかです。
人々はいま、発信することでより愚かになっている。発信すること、世の中に一石を投じることの快楽に、誰かを批判し自分は賢い、まともだと安心することに酔いしれて、より安易に、拙速に情報に対してリアクションするようになっている。そしてその結果検索して見つかる情報の質がどんどん低下している。

だからこそ僕たちはSNSの潮目を完全に無視して、PV数に比例した広告収入に依存しないメディアの必要性を痛感して、この「遅いインターネット」計画をはじめました。安易に「書く」まえにしっかり「読む」ことの面白さを、読者に伝えることが大事だと思ったからです。
しかし計画を進めるうちに、それだけでは足りないと考えるようになっていきました。今日の社会において、「書く」ことは「読む」ことよりも身近にある行為です。20世紀に生まれ、人格形成をした僕たちは「読む」という日常から脱出する行為として「書く」ことを必要としていたけれど、今日の若い人たちは「書く」という日常を相対化するために「読む」という行為を必要としている。この逆転現象を踏まえたものにしなければこの計画は失敗してしまうのではないか。そう考えるようになりました。「書く」ことからはじめて「読む」ことにたどり着く回路をつくる必要性を痛感した僕は、とりあえず自分の発信のノウハウを共有することにしました。物書きとしての、編集者としての僕がいままで培ってきたノウハウを読者に共有してもらうことで、安易にタイムラインの潮目を読んでコメントするのではなく、しっかりと価値のある発信ができるようになってもらうことが、よい記事をつくることと同じくらい必要なのだと考えて11月からプレ講座を開講したのですが、これがちょっとびっくりするような大反響で少し戸惑っています。
考えてみれば、いまインターネットを通じて発信するというスキルはどのような仕事をしている人にも、いや仕事以前の社会生活の基礎的なスキルになっています。僕は、有名な書き手や編集者を集めて、名刺交換すればデビューできますというコンプレックス商法的な講座は好きじゃありません。なので、講師は僕一人にして、あくまで僕が身につけてきたものを共有するというかたちを取りました。1月から本講座がはじまるのですが、これもしっかり試行錯誤しながら形にしていこうと思っています。

4)2020年3月からひみつの大型プロジェクト始動

そして、これはまだ詳細は言えないのですが、昨年から仕込んでいた大きなプロジェクトが2020年3月からスタートします。ほんとうにまだ言えないのですが、「場所」にかんするプロジェクトだとだけ言っておきます。とりあえずその場にいない誰かの悪口を言って盛り上がるような飲み会とTwitterを足して2で割ったような言論空間はいくらあっても、意味がない。むしろそういったものから遠く離れて、ゆっくりとものを考えるための拠点を、それもいろいろなアイデアを出しながら少しずつ構築していきたい。そう考えています。2月半ばには発表できると思うので、もう少しだけお待ち下さい。

そのほかにも2020年は『PLANETS vol.11』の発行や、インターネット配信の新番組などを予定しています。
2020年の春に向けて、PLANETSは大きく変わることになります。まだまだ試行錯誤の段階なので、オープンと同時に一気呵成に何かが変わるとは思っていません。しかし投げ出さずに粘り強くやるので、暖かく見守ってください。なんせ、「遅いインターネット」なので。

2020年1月1日 宇野常寛

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