ノンアルコールから考えるあたらしい都市生活のかたち|播磨直希×鯉渕正行 | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2021.07.16

ノンアルコールから考えるあたらしい都市生活のかたち|播磨直希×鯉渕正行

ノンアルコール飲料が流行し始めている昨今。「ノンアル」が文化として根づき、お酒を前提とした既存の食生活やコミュニケーションのあり方をアップデートするためには何が必要なのでしょうか。
今回はノンアル文化の普及を進めるため実際に現場の最前線で活動されている、ノンアル飲料ブランド「YOILABO」代表の播磨直希さん、クラフトコーラマイスターの鯉淵正行さんに、これからのノンアルコール業界と人々のライフスタイルについてお話ししていただきました。
(※現在PLANETSでは「飲まない東京」プロジェクトと称してノンアルコール業界を特集する企画を進めていますが、これは酒類の提供を行う飲食店への営業自粛を強いる政策を支持するものではありません。また、本誌編集長・宇野常寛は一連の政策に対して極めて批判的です)

※本記事のタイトルに誤記があったため、修正して再配信いたしました。著者・読者の皆様にご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。【7月15日10時 30分追記】

ノンアルコールから考えるあたらしい都市生活のかたち

ノンアルコール業界でのこれまでとこれから

──現在PLANETSでは「飲まない東京プロジェクト」と題して、これからのノンアルコール文化を考えていく企画をさまざまな切り口から進めています。もちろん僕たちは飲食業についてはまったくの素人なので、いろいろと試行錯誤しながら考えているのですが、今日は実際にノンアルコール文化の普及の現場に携わる最前線の方々のお話を伺いたく、ノンアル飲料ブランド「YOILABO」を運営されている播磨直希さん、クラフトコーラマイスターの鯉淵正行さんのお二人をお招きして、この対談を企画させていただきました。

まずはお二人のこれまでの取り組みについてお伺いしてもよろしいでしょうか。

播磨 はい。僕らのYOILABO株式会社では、「世界からお酒の不公平をなくす」というミッションのもと、ノンアルコールドリンクのことを「ミドルドリンク」と銘打ってブランドを展開しています。もともと僕はお酒がすごく好きで、たまに飲むとかいった程度ではなく、365日毎日飲むくらいのレベルで好きなんですよ。「じゃあなんでこの事業やっているのか」というと、やはりお酒が飲めない人とも気兼ねなく食事に行きたいというのが一番大きいです。たとえば僕の友人は飲めない人がほとんどなので「久々に会おうよ」とか「飲みに行こうよ」とか言っても「いやーちょっとお酒飲めないからいいや」と断られる機会がしばしばあります。誘い方や僕の人望が原因のときもあるかもしれないですが(笑)。

また行ったら行ったで、飲んでいいよ、飲まなくていいよ、と遠慮のし合いに。僕としてはやはり飲めない人たちとも一緒に美味しいものを食べ、気兼ねなく会話が生まれる場を楽しみたいんです。せっかく楽しいことをしているのに、そこに少しも負い目を感じてほしくないですし、負い目を感じたくない。

ではなぜそのような状況になってしまうのかというと、お酒を飲めない人が楽しめるもののバリエーションが少ないというのが現状です。「じゃあなんで少ないのか」という点を深堀りしていまの事業が始まったのですが、僕らの活動を一言でいうと「食中専用設計」のノンアルコール飲料を開発しています。食中、つまり食事の間に楽しめるように設計されたクラフトノンアルコールの飲料を、中価格から高価格帯くらいのレストランやホテルに販売していて、最近では誰もが知っているような、多くの著名な店舗様にご利用いただいています。なぜそういったお店から始めたかというと、僕たちはビジネスにペインベース、マーケットインの発想で取り組む意識が強く、お酒を飲めない人たちが一番ペインを抱えているところから解決していきたいという思いがあったからです。やはりお酒を飲めない人が最も不満を抱えているのは、そういったお店に行ったとき、お酒を飲む人は数十種類のワインリストの中から安いワインもあれば高いワインもある中から選んでいるのに、「飲めない私にはスパークリングウォーターやウーロン茶しかない」といったようなケースに直面することです。最初の商品開発をするときにヒアリングした限りではそういった不満が一番多かったので、少し高めのレストランから取り組んだというわけです。

具体的にはいま2ブランドを展開させていて、ひとつは「PairingTea」といって、ペアリング専用に設計された飲料です。ペアリングというのはひとつの料理に対してひとつのお酒をあてる行為のことですが、そこでお酒の代わりにお茶を使い、ハーブやスパイスでアレンジを加えて食材の特徴に合わせて楽しめるドリンクを作るというものです。もうひとつの「THE MID」というブランドは、果汁をベースにしたものです。果汁といっても、食中に普通のジュースを飲むと甘すぎるという声が多いので、甘さを控え、かつスパイスやハーブを加えることで嗜好性を高めた商品になっています。

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PairingTea

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THE MID

こうした活動を通して、お酒を飲む人が当たり前に享受できている体験を、お酒が飲めない人にも受け取ってほしいなと思っています。お酒を飲むとしたら、たとえばバーや居酒屋、あるいはレストランなどいろいろな場所があり、場所によってウィスキーや日本酒、ビールや酎ハイなどいくつも種類があります。その中には価格の高低や、熟成の有無、味の強弱など、いろいろなお酒があるはずです。ところがノンアルコールになった途端、極端に選択肢が減ってしまいます。たとえばソフトドリンクの中に「オレンジジュース」があったとしたら、オレンジジュースはそれしかない。単一ブランドしか扱っていないことがほとんどです。そういった選択肢が極端に少ないことがそもそもよくないと思っていて、お酒と同じくらいの選択肢をノンアルコールの中でも増やすことで、いろいろな嗜好性が反映されて楽しんでいける状況にしたいと思っています。

そもそも「お酒」と「ノンアルコール」に優劣がない状況になっていくのが望ましいと思っていて、現状ではどうしても価格差や扱いの差があらゆるお店で目立つ状況にあります。もちろん一部のトップクラスのお店、たとえば一食でお客さんが3万円や4万円も使うようなお店では、自分たちでノンアルコールメニューを作ることでそうした優劣を解決しているお店もありますが、やはり全体としては相当優劣がついてしまっている状況なので、少なくともそれらがイーブンになる状況まで持っていくべきだと思っています。

鯉淵 僕がクラフトコーラマイスターとしての活動を始めるに至った背景には、僕もお酒を飲まない、飲めないに等しい体質で、お酒を前提とした価値観やコミュニケーションが苦手だったという事情があります。働き始めてからも数年間は飲み会に顔を出していましたが、それ以降はやめてしまいました。僕にとって飲み物といえばずっと「コカコーラ」だったので「飲み会になじめなくてもコカコーラさえあれば楽しいからいいや」とコカコーラに救われつつ、どこか一抹のさみしさも抱えて過ごしていました。

そんななか、2018年の末くらいに、「クラフトコーラ」が都内のマーケットイベント(ファーマーズマーケット)に出店していると聞きつけ、すぐに訪れたんです。それが「伊良コーラ」との出会いだったのですが、実際に飲んでみて大好きになり、その直後に今でも有名な「ともコーラ」のことも知りそれらを愛飲していました。

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伊良コーラ

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ともコーラ

それからいろいろなクラフトコーラを飲み比べてSNSでも発信していくうちに、徐々に評判が集まるようになってきて「全国厳選クラフトコーラ飲み比べ」というイベントを開催したんです。そこでの反響を目の当たりにしたことで「もっと活動の幅を広げ、クラフトコーラの存在感を高めていきたい」と強く思うようになり、この半年で本格的に活動し始めました。

僕が主に伝えていることは、クラフトコーラでは作り手の方々それぞれの生い立ちやルーツ、あるいは地域性などが素材や作り方に反映されているということです。たとえば今は全国各地でさまざまなクラフトコーラが出てきていますが、地域の素材を使っているだけでなく、地域に根付いている文化までがクラフトコーラ作りに落とし込まれています。そういった作り手さんの話を聞いて自分がそれまで知らなかった世界に出会えることは、僕がたくさんのクラフトコーラを飲み比べ、調べていくなかで体感してきたことなので、ある意味では飲み物として楽しむだけではなく、その先にあるいろいろなメッセージに好奇心を持って触れられるメディアとしての魅力があると思っています。

また、スパイス(シナモンやカルダモン、クローブ等)と、甘味素材(砂糖や蜂蜜等)、柑橘といった基礎的な組み合わせと製法をおさえれば、さらに+αの素材を入れても、コーラとして成り立つんですよね。なので素材の幅が広く、作り手さんの表現の余地が大きいのかな、と。だからこそ、いくつかの銘柄を飲み比べても一つひとつの個性が分かりやすく、日によって味わうものを変えたりして長く楽しみ続けられるところも魅力のひとつだと思っています。

さらに言うと、クラフトコーラではそうしたメッセージが味わいや香りにわかりやすく表れて、コーラならではの清涼感と刺激とともにダイレクトに伝わってくる。「こんな良い天然素材を使っています」「こんな想いで作っています」という丁寧な文脈をパンチを持って受け止められる、丁寧さとジャンクさが両立された価値があると思います。「クラフト製品」というと、少し小難しい印象もあると思うんですよね。「知識がないと楽しめないんじゃないか」とか「こういうことを守ってないといけないんじゃないか」とか。僕としてはそういったメッセージ性も存分に味わってほしいですが、クラフトコーラなら、ただ飲むだけでもすぐにそのおいしさや刺激をわかりやすく享受できる。そういった敷居の低さはコーラという飲み物がもともと持っているポップな雰囲気や、ノンアルコールであることならではの魅力ではないでしょうか。

もちろん体感してもらわないと伝わらないこともあるかなと思っているので、実際に僕がクラフトコーラをふるまう機会も作っています。たとえば、月一でふたつ営業の場を作っていまして、ひとつはKiKi北千住にて、営業後にクラフトコーラバーのようなものを開いています。もうひとつはPORTO品川というお店をお借りして「角打ちクラフトコーラ」と題し、さまざまなクラフトコーラを飲み比べられる場を作っています。クラフトコーラは種類によって本当にいろいろな味わい・香りがあるし、原液で入手できるからこそ、炭酸以外の飲み物で割ったりとさまざまな飲み方を楽しめるようメニューを工夫しています。そういったクラフトコーラの多角的な魅力を体験してもらえる場を提供しています。

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クラフトコーラバーKiKi北千住

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角打ちクラフトコーラ」(PORTO品川

ゴールデンウイークには高円寺の小杉湯とコラボし、日替わりでいろいろなクラフトコーラを湯あがりに飲めるような場を作っていました。そのときは「湯あがり」というシチュエーションでしたが、ほかにも日常の中のいろいろなシチュエーションでクラフトコーラを体験してもらうことができれば、その人にとってクラフトコーラに親近感が沸くかなと思うので、今後もいろいろなシチュエーションと絡めたイベントを開いていきたいと思っています。

ノンアルコール飲料が消費者に与える体験

鯉淵 ここで播磨さんにお伺いしたいのですが、「ノンアル」を業界として俯瞰して見ている立場からだと、クラフトコーラはどういうふうに見えているのでしょうか?

播磨 「ノンアル市場の中でのクラフトコーラ」という見方はしたことがありませんでした。なぜかというと、大手飲料メーカーなどもブーム的に参入するノンアル飲料の一カテゴリーというよりも、クラフトコーラはもっと独立系の動きというか、独自のブランド性を打ち立てて市場ができあがっている途中だという気がするからです。たとえて言えば、「アルコール市場」というよりは「ビール市場」のような形で市場ができているイメージでしょうか。競合としてみていないわけではないですが、クラフトコーラはクラフトコーラ独特の文化や嗜好性があり、先ほど触れられていたようにスパイスを使ったり香りを変えたり、少しほかの飲料とは一線を画するような、独特な進化を遂げているのかなと思います。

その延長で僕からの質問を被せてもいいですか? 僕らの事業はどちらかというと「マイナス100」を「ゼロ」にする取組みで、とりあえず「ノンアル」を「お酒」の地位に持っていこう、というやり方をしているわけですけれど、クラフトコーラに関しては10を100にしたり、200にしたりという事業展開だと思うんです。そうしたなかで、たとえばクラフトコーラの飲料市場での地位をどこまで大きくしたいのかというような目標があるのかお聞きしたいなと思いました。

鯉淵 僕自身は作り手ではなく、第三者目線からクラフトコーラのよさを発信する伝え手という立場なので、まずはただ自分の活動をどんどん拡大していきたいなとは思っています。

その先に実現したいクラフトコーラの形としては、街のインフラのようなものにしたいということでしょうか。たとえば自分が住んでいる街に実店舗を構えたいと思っているのですが、そこでただカフェと同じようにドリンクを楽しむということだけではなく、クラフトコーラの可能性を最大限に反映した店舗にしたいんですよ。どういうことかというと、たとえばクラフトコーラは原液で入手できることも大事な魅力なので、シロップ瓶の販売もしたい。そのうえでたとえば毎月テーマを決めて豊富な銘柄の中から品揃えを変え、それをオンラインでサブスクのように展開して銘柄紹介のZINEを添えてみるのもおもしろいかなと思っています。また、さまざまな割り方やデザート・料理への使い方を、実践的に楽しめるイベントもお店で開催したいですね。

こういったことを通じて、その街の住人から少し離れたところに住む人まで、ふらっと立ち寄ってその場で美味しいドリンクを飲めるだけではなく、クラフトコーラの幅広さやいろいろな楽しみ方を体感してもらい、自身の生活に持ち帰ることで日常での選択肢が増えるというようなことが実現できればと思っています。

播磨 クラフトコーラの中には、たとえば多いものではスパイスや原料が10種類も20種類も使われているものもあって、その中で特定のスパイスを多く使って尖らせるとか、柑橘類を多くするとか唐辛子を多くするとかさまざまなバリエーションがありうるように、それぞれのメーカーやブランドの個性を出しやすいのかなと思います。たぶんそこで好き嫌いが分かれてファンになるかどうかが決まると思うんです。僕はともコーラがすごく好きなのですが、友達にそれを話したら「いや俺は伊良コーラだ」というようなこともありました。たとえばこういったケース以外で好みが分かれるパターンはあるのでしょうか。

鯉淵 本当におっしゃる通りで、クラフトコーラではスパイスや柑橘などどの素材を使うのか、それらをどう配合させるかによっていろいろな味や香りの違いを生み出すことができます。かつ、クラフトコーラにおいてはその違いが伝わりやすい。

おもしろい例で言うと「TETOTARO COLA」という商品があるのですが、ここでは自家製のカラメルが使われています。ただの砂糖ではなく、モラセスシュガーという、簡単にいうと焦がした状態の砂糖を使っているらしく、このコクと苦味たまらなくて。こういったように、甘味素材の使い方を追求して、個性を出しているケースもあります。

あるいは柑橘を使うにしても、無農薬のライムを皮ごと使って苦みをしっかり主張させる「NARA COLA」というものもあったり、本当に銘柄によってあらゆる選択肢を楽しめるので好みもすごく分かれますし、違いを享受しやすいのかなと思っています。

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TETOTARO COLA

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NARA COLA

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