オリジナリティは「テーマ×仕組み×書き手」がコツ――企画コンセプトに「エッジ」を立てる(粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第3回) | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2016.02.16
  • 粟飯原理咲

オリジナリティは「テーマ×仕組み×書き手」がコツ――企画コンセプトに「エッジ」を立てる(粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第3回)

本日は、アイランド株式会社代表の粟飯原理咲さんによる連載『ライフスタイルメディアのつくりかた』の第3回をお届けします。
前回までが粟飯原さんの経験にもとづくライフスタイルメディア立ち上げの心構えなら、今回はもっと構造的に、立ち上げ時の企画や戦略について語られた回となります。いま話題のウェブメディアの運営論を、すでに10年以上も前に先取りして実践し続けてきた粟飯原さんに、そのエッセンスを書いていただきました。


 

前回までは、私のレシピブログでの経験を語ることで、ライフスタイルメディアとは何か、そしてその立ち上げに必要なものは何か、について考えてきました。今回は、そうした立ち上げの中で私が自分なりに見つけてきた企画の作り方について話してみたいと思います。
皆さんも会社で企画などの立ち上げに関わることがあるのではないでしょうか?
私も、プロデューサーとしてサービスを立ち上げるときにとどまらず、キャンペーン企画やブログの書籍化などの様々な場面で企画を立てることが必要になります。

このとき、私がとても大事にしていること――それはコンセプトに「エッジを立てる」ということです。
コンセプトにエッジを立てることによって、その企画にはオリジナリティが生まれて、多くの人を惹きつけるものになります。例えば、単純に日本酒のキャンペーンや、チョコレートのキャンペーンをやっても、同じようなキャンペーンが多ければさほど目立つことはありません。しかし、少しエッジを立てて「日本酒を使ったチョコレート」のキャンペーンであれば、どうでしょうか。意外な取り合わせに、急に興味が湧いてくるのではないでしょうか。

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▲アイランドスタジオで、募集後すぐに満席になった”日本酒×チーズのマリアージュ”イベント

とはいえ、このコンセプトに「エッジを立てる」というのは、なかなか難しいものです。
意外な取り合わせでエッジを立てるにしても、あまりに奇をてらっても層は狭まってしまいますし、逆に当たり前すぎても目立つことはなくなります。どこにちょうど良いバランスがあるかを見きわめるのは、とても難しいところがあるのです。
この辺は、まさに「企画」における永遠のテーマと言えるかもしれません。

ただ、この「企画」を考える際にとても大事なことが一つあります。
それは、「個性」を一つだけにする必要はないということです。どんどん二つ、三つと掛けあわせていくことで、エッジが立つことがあるのです。
もちろん、それはサービスを考える企画の際にも同じことがいえます。今回は、ライフスタイルメディアに限らず、新しいメディアを立ち上げる際にとても重要になってくる三つのエッジのかけ方をお話しします。

私たちのような小さな会社が新しいサービスをつくるときには「オリジナリティ」が求められます。後追いの企画で成功するのは、すでに多くのユーザーを抱える大手のサイトでなければ、なかなか難しいのです。これは私が自分でサービスを作る中で見つけた、オリジナリティを高めるための一種の「方程式」ですが、自分でメディアを作りたいと考えている読者の方に、なにかしらお役に立つのではないかと思います。

■ オリジナリティは「テーマ×仕組み×書き手」で生まれる

オリジナリティを高めるための方程式の一つ目は「テーマ」です。

たとえば、私が手掛けた企画の一つに、「朝時間.jp」というサービスがあり、2006年からウェブサイトを運営しています。

これは一日のはじまりである「朝の時間」を楽しく過ごすアイデアを提案するサービスで、まだ「朝活」という言葉が生まれる前に始まったものです。
このサービスは、リリースを発表しただけでメディアが取り上げてくださいました。初期のユーザーさんも、コンセプトの面白さに惹かれて、サイトが正式にオープンする前のプレオープンサイトの時点から、サイトを覗いてくれていました。私としても、当初からこのテーマにワクワクしていたのを覚えています。しかも発表前に調べた時点で、女性向けのメディアとして「ファッション」や「料理」を扱うものはあれど、「時間」を切り口にしたものは一つもないとわかっていたので、テーマそのものに強いオリジナリティを感じていました。

でも、このようにテーマ一本だけで、引きがあるようなものはなかなかありません。それは探すのも難しく、また前回までに書いたような「自分が本心から情熱を傾けられるもの」であるとも限りません。
ですから、多くの場合には、さらにオリジナリティを掛けあわせていく必要が出てくるのです。

そんなとき、メディアサービスにおいて二つ目のエッジの掛けどころとなるのが「仕組み」です。

レシピブログの場合には「レシピ」をまずテーマに定めましたが、やはりこれ自体は決してオリジナリティがあるものではなかったです。その時点ですでにクックパッドなどの先行サービスが存在していて、また各ブログに「料理」のカテゴリーが存在していたからです。
しかし、私たちはそこに、さらに当時はまだ最新の技術だったRSSフィードを用いて、「プラットフォーム横断でブログ記事を集約したポータルサイト」というシステム上の特徴を付け加えました。このとき、レシピブログには明らかに「これは今までにない“仕組み”の料理サービスだ!」というオリジナリティのエッジが立ったように思います。

そして、それは当時の私たちの強い「想い」をあらわした仕組みでもありました。
各々のサービスで活躍しているブログユーザーの皆さんを、自分たちの中に囲い込むのではなくて、彼女たちがそのままで繋がり合える方法を提供したかったのでした。料理ブログのファンとして、個性的で素敵なライフスタイルを送るユーザーさんたちが、そのままに多様な個性を発揮して活躍し続けてもらいたいという思いがあったからです。

そういう想いから生まれたレシピブログは、やがて様々なブログのハブとなって機能していきました。現在では例えば、クリスマスをテーマにした記事のキャンペーンを行うと、それに呼応した16000個の様々なサービスのブログからどんどん口コミで情報が伝わっていき、そのテーマに共感したブロガーの方たちが素敵な記事を書いてくださるようになっています。
それは、まさに「ハブ」となることを大事にしたレシピブログだからこそ可能な、料理ブロガーさんとの関わり方なのだと思っています。

ちなみに、こういう仕組みでの工夫の仕方は、「おとりよせネット」でも機能しています。おとりよせネットでは、当時では珍しかった「おとりよせ」のテーマに加えて、一般ユーザーがモニター審査員として実際に試食をする「審査員制度」というものを設けたのでした。今では、全国に約4万名ものモニター審査員の方々にサービスを登録していただいています。
テーマを思いついたときに、どういう仕組みでオリジナリティを出すかというのは、サービスを考える際の一つ重要なポイントなのです。実際、「Retty」と「食べログ」の違いなどは、やはり大きくはシステムの部分にあると思います。

次に、三つ目のエッジである「書き手」について続いてお話します。

■ “書き手”選びでメディアの個性が決まる

さて、この二つ目の「仕組み」に加えて、メディアにはさらに三つ目のエッジの掛けどころがあります。それが、「書き手」の選定です。まったく同じテーマ、まったく同じ仕組みであっても、極論「書き手」が違えばメディアの個性も違ってくるのが、企画者としては面白いところです。

ウェブサービスの運営として見ると、この「書き手」の部分はとても泥くさいものです。前回も書いたように、私たちはレシピブログを始めるときに、ひとり一人の書き手の方に“ラブレター”のメールを送りました。一つのメールを書くために何時間もの時間を掛けて、一緒に立ち上げた川杉と文章を互いに確認しては表現一つ一つを丁寧に話し合って、著者の方にご連絡したのです。

この作業はとても大事なものです。
というのも、テーマやシステムだけでそのサービスの「色」や「質」が自動的に決まることはないからです。むしろそういう部分は、「最初にどんな人がやってきたか」が強く影響を与えるのです。
広告やなんらかの報酬などでユーザーを集めることは可能ですが、そのときのコミュニティは、そういうものに惹かれて集まったユーザーを見て、自分も登録してみようと思うような人たちの集まりになってしまいます。レシピブログの場合は、何よりもまず私たちの考える「素敵な料理ブログ」がたくさん集まってくる場所にしたかったので、まずは私たちが「素敵!」と思えるブログに声をかけていきました。その際、「料理写真がビジュアル的に素敵であること」のような要素を、確かにメディアとして意識していたりもしたのですが、やはり何よりもまず私たちの「素敵!」という感覚を大事にしました。
このように懸賞や広告を用いずに、自分たちが理想であると考える著者を一本釣りすることから始めたのは、レシピブログの成功のとても大きな要因だったと、振り返って考えています。

ちなみに、この書き手集めの際に、一つ考えどころになるのが「多様性のバランスをどこまで取るか」だと思います。
レシピブログの場合には、変に「高級路線で行こう」などの尖らせ方は考えずに、あくまでも、広く料理ブログを眺めてきた自分たちの視点で、素敵なブログを集めたことが最初から広くバランスを取ることに繋がりました。そのことは、編集部の側で「こういう料理ブログが良いものだ」という価値判断をしないという方針とも相まって、とてもよく機能したように思います。

ただし、最初のユーザーを徹底的に絞り込むことでエッジを立てて、かえって上手くいく事例もあるはずです。そこはケースバイケースで、一概に言えることではありません。
例えば、「おとりよせネット」のときには、最初のユーザーとして著名人の方を強くフィーチャーさせていただきました。数々のテレビ番組に出演している、「おいしゅうございます!」のセリフで有名な食生活ジャーナリスト岸朝子さんや、料理研究家の飛田和緒さんに「おとりよせ」を取材したコーナーは、当時の大人気コンテンツでした。まだ「おとりよせ」が広まっておらず、多くの人が足踏みしていたその時代には、何よりもまず「おとりよせ」のある「ワンランク上の生活」への憧れを抱いてもらい、そのロールモデルを見せることが必要だったのでした。

一方で、「朝時間.jp」の立ち上げ期には、当時「朝活」(この言葉はまだありませんでしたが)をしていた、三つの層のメインユーザーをバランスよく獲得することをとても大事にしていました。
この三つのユーザー層というのは、一つは「ロハス系」のユーザーの方々です。朝早く起きて湘南でサーフィンをしてから出社したり、寝起きにメディテーションをするような人たちです。もうひとつは、「バリキャリ系」で、朝早くランニングをしたあとに丸の内に出社していくようなOLの人たちです。そして、最後は子供や夫のために朝早く起きる必要のある「ママの朝時間系」でした。
正直なところ、この三つのどれかにフォーカスしたほうが伸びが早かった可能性もあるとは思います。ただ、バランスをしっかりと最初から取ったことのメリットはあると思います。というのも、女性の場合はライフステージによって、生活の仕方がガラリと変わるのです。バリキャリをしていた人が、あるとき旦那さんを見つけて家庭に入り、ママになるのは珍しいことではありません。でも、そういう場合でも、「ママの朝時間」についてのコンテンツを用意しておくことで、彼女たちがサイトを卒業せずに残ってくださるのでは、と考えています。

ちなみに、「朝時間.jp」はその後も、「朝活」が話題になるにつれて、どんどんコーナーが増えて、コンセプトも変わり続けています。最初は「一人で過ごす」朝時間だったのが、徐々に早朝ヨガのスタジオが登場したり、朝から勉強会が開かれたりというように、「みんなで過ごす」朝時間に変化し始めています。当初の書き手から時間が経つにつれて方針をどう変化させていくのかというのも、今後この連載で扱ってみたいテーマです。また、オープン当時こそ「朝」という時間軸をテーマにしただけで目新しかったものの、「朝活」が普及してきた今後は、テーマの目新しさだけではなくて、さらにエッジが立つ「仕組み」の導入も必要になってくるとも感じています。

■ 優れたアイディアの種は「地に足の着いたミーハー」から生まれる

さて、こんなふうに企画の「エッジの立て方」を考えてきましたが、そもそもこういう企画はどんなふうにして見つければいいのでしょうか。最後に、そのことを考えてみたいと思います。

私はよく、優れたアイディアの種は「地に足の着いたミーハー」から生まれる、という言い方をします。まずはミーハーに自分の生活の中で起きていることを体験して、「こんなのが欲しい!」と思う。それが最初の視点としても、そしてすべてを動かす「熱狂」の始まりとしても大事です。

レシピブログについて言えば、まずは私が料理ブログの読者であったことは書きましたが、ひとりのインターネット好きとして、その頃に話題になっていた「Web2.0」の考え方にワクワクしていたのも大きいと思います。当時は、双方向性の高いサービスや、ブログのパーマリンクのように記事単位でコンテンツが流通していく仕組みが次々に現れて、それらが「Web2.0」と総称されていたのです。
このWeb2.0の考え方は、私自身の嗜好性にも合っていました。一人ひとりが個性的なサイト同士がリンクで繋がり合って、それが普通のポータルのように一つの色に染められず多様なままにありながら、でも一つの切り取り方が提示できる――そういう発想が私はとても好きでしたし、システムでエッジを立てるときにRSSでハブポータルを作ろうと思えたのも、そういう部分での興味があったのだと思います。

また、自分でミーハーに新しい場所に飛び込んでいると、自分以外のユーザーたちの姿が見えてきます。すると、あるときに最初はポツポツと「点」で存在していた人々が、その熱意のままに繋がり合いだして「面」としてコミュニティを作り出す瞬間が訪れることがあるのです。
サービスを始めるビジネス・チャンスは、まさにこの「点」が「面」になっていきそうなタイミング、いわば流行の半歩先を行くようなあたりにあります。特に、私たちのように大手企業のような経営体力のない小さな会社では、このくらいの「時代の流れ」「時代の空気」というタイミングをしっかりと逃さずに始めるのが大事になります。

こういうことは自分自身が好奇心を持って接していなければ、なかなかわからないのではないかと思います。
ちなみに、私は自分で少しでも興味を持った事柄は、まずはドメインを取得する習慣がありました。これは現在のように会社を経営する前からやっていたことで、古くからのネットユーザーには多い習慣だと思います。昔は、なぜか阪神ファンでもないのに「tigarsfan.jp」みたいなドメインを取得していたりして、結果的に「これは伸びそう」というものを予測する訓練ができていたのかもしれません。

自分の周囲を見ても、企画が得意な“ミーハーな”人は普段から自分以外のユーザーの動きも観察していて、流行について予測するような習慣がある人が多いように思います。

一方で、こういう色々なことに興味を持つ「ミーハーさ」だけでは、長く続くサービスを作るのは難しいと思います。
そういう「自分志向型」の視点だけでなく、より客観的にその現象を見た「マーケット志向型」という「地に足の着いた」視点も必要になるのです。客観的に市場規模を見積もったり、その行動がどの程度続く類のものなのか、などをしっかりと見抜く視点も同時に持つ必要があるのです。

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