紙飛行機を、明後日の方向へ飛ばせ――AKB48 10周年に寄せて(竹中優介×宇野常寛)
今朝は先月12月8日に10周年を迎えたAKB48をめぐる、竹中優介さんと宇野常寛の対談をお届けします。「国民的アイドル」の座を手にした48グループが、21世紀型のコンテンツとして持続的に発展していくための条件とは? 元あん誰Pの竹中さんと、メディア論的な観点も交えつつ語り合いました。(初出:「サイゾー」2016年1月号(サイゾー))
■ AKB48はなぜ、ブレイク後も持続的に成長できたのか
竹中 テレビ業界では、4~5年くらい前から「AKBも今年がピークで、もうブームは終わる」と言われ続けてきました。そう言われながらも結果この12月で10周年を迎えたわけで、それはやっぱりすごかったね、という見方が今は主流になっている感じがあります。
宇野 もちろん一時期のような右肩上がりの空気があるとはお世辞にも言えないし、かつてのように社会にインパクトを与えることも少なくなっていると思うけど、これは停滞であると同時に、逆に安定しているともいえると思う。「来年一気に凋落する」なんて、誰ももう思ってないでしょう。
竹中 AKBが生み出した「アイドル」というものの新しい生き方のシステム自体が発明で、そこでつかんだ地盤がしっかりあるから、メディア露出の量が多少増減しても、そう簡単にブレない力を持った。それが10年間で培ったアイドルビジネスモデルの強さですよね。
宇野 それによって、いろんなものが変わりましたよね。まず、ライブアイドルという文化を完全に定着させたこと。それからいわゆるAKB商法以降、映像や音声というコンテンツ自体にはお金がついてこなくて、究極的にはコミュニケーションにしかお金はつかないというのがはっきりしたこと。アイドルでいえば握手会がそうだし、フェスなんかもそう。情報社会下のエンターテインメントはコミュニケーション消費以外にないんだということを、AKBが最も大きく可視化させて、そして最も大規模に展開していることは間違いない。いまだに映像や音声にお金払っている人もどんどん「この人の人生を応援したいから買おう」という意識になってきている。
竹中 「参加型」という点ですよね。昔はアイドル=メディアを通して見る遠い世界の芸能人だったのに、AKB以降、今宇野さんが言ったように「その人の人生を応援する」、つまりサポーターとして、人の人生に自分も参加しているという気持ちにさせるものになった。
宇野 昔でいうと「タニマチ」という存在があって、地位も名誉もお金も得て満たされた人間が最後にハマるエンターテインメントって、赤の他人の人生を無責任に応援することだったわけじゃないですか。アイドルも、そういうある種の人間の本質に根差したモデルだけど、AKBほどそれをシステム化したものはほかにない。「アイドル」という他人の人生をエンターテインメント化するものに対して参加できてしまう、つまり他人の人生を左右できるシステムを、ゲームの中に組み込んでしまった。それは決定的なことだったと思う。
AKBの存在のあり方というのは、今のライブアイドルブームの中心に10年間いるという以上の意味をおそらく持っていて、エンターテインメントや文化に関して日本人が持っていた前提のようなものをガラッと覆してしまったと思うんですよ。実際に僕がAKBについて語り始めた頃は「総選挙というのはこういうシステムで」とか「AKBとおニャン子クラブはどう違うのか」とか説明することから始める必要があった。でも今ではほとんどそういうこともなくなっていて、当たり前のことになっていった。それくらいこの10年間、特に後半の5年間で、AKBがエンタメの世界やカルチャーの世界を変えてしまった部分がある。
ただその一方で僕が危惧しているのは、2011〜12年頃はAKB現象について語ることがものすごく需要があったのが、今はそうではなくなってきていることなんですよね。当時のAKB現象はいろんなものを象徴していて、それを語ることによって世の中で起こっているいろんなことを説明できた。例えば、インターネットが普及すると逆にライブや“現場”が大事になってくるというのはその後あらゆるジャンルで起こってくることで、AKBは先駆けだった。
あるいは、ネットができると人々は自分が直接参加できるものじゃないと面白いと思わなくなってくるということや、作家が作り込んだ虚構よりも、実際に起こっている面白いことを検索するほうが早いというのもそう。今でこそそうした考え方は常識になっているけれど、日本においてはAKBがどんどん可視化させていったものであることは間違いない。今までの10年間は、AKBというものが成立しているだけで世の中にインパクトがあった。
竹中 でも今やそういうことをやってきたAKBがスタンダードだと認識されてしまっているから、同じことをAKBがやっていても、攻めの姿勢があるようには見えなくなってしまっている。
宇野 それは“勝った”がゆえの悩みなんですよね。いろんな障害をはねのけて彼女たちは勝った。それゆえに今批判力を失っている。でも僕は、自分で言っておいて変な話だけど、この10年はそれでよかった気もするんですよ。ただこの10年は勢いに任せて領土を拡大し続けてきたわけで、その後占領した場所の運営の仕方なんて考えてこなかった。それをサステナブルな仕組みに変えていくことが、次の10年では必要になってくる。
僕はそこで一番大事なのは、優れたOGを安定して出していくことだと思う。AKBはよく宝塚と比較されるけど、宝塚のブランドイメージを強化しているのは天海祐希や黒木瞳とか、古くは八千草薫のような卒業生の存在でしょう。
『サイレントマジョリティー』ーーポンコツ少女たちが演じきった硬派な世界観と、秋元康詞の巧みさ(藤川大祐×宇野常寛)(PLANETSアーカイブス)
【春の特別再配信】 『この世界の片隅に』――『シン・ゴジラ』と対にして語るべき”日本の戦後”のプロローグ(中川大地×宇野常寛)
【春の特別再配信】『君の名は。』興収130億円でポストジブリ作家競争一歩リード――その過程で失われてしまった“新海作品”の力(石岡良治×宇野常寛)
【最終回】『騎士団長殺し』――「論外」と評した『多崎つくる』から4年、コピペ小説家と化した村上春樹を批評する言葉は最早ない!(福嶋亮大×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4木曜配信】
『逃げるは恥だが役に立つ』――なぜ『逃げ恥』は視聴者にあれほど刺さったのか?そのクレバーさを読み解く(成馬零一×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4木曜配信】
『真田丸』――『新選組!』から12年、三谷幸喜の円熟を感じさせるただただ楽しい大河の誕生(木俣冬×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4木曜配信】
『この世界の片隅に』――『シン・ゴジラ』と対にして語るべき”日本の戦後”のプロローグ(中川大地×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4木曜配信】
『聲の形』――『君の名は。』の陰で善戦する京アニ最新作が、やれたこととやれなかったこと(稲田豊史×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4木曜配信】