【特別収録】水口哲也 『Rez Infinite』が切り開く仮想現実の地平 | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2016.11.29
  • 水口哲也

【特別収録】水口哲也 『Rez Infinite』が切り開く仮想現実の地平

今朝のメルマガは、ゲームクリエイターの水口哲也さんによるVR論をお届けします。10月13日にリリースされた『Rez Infinite』は、発売間もないPSVRのポテンシャルを引き出した最初のタイトルとして話題を呼んでいます。初代『Rez』から15年、積年のヴィジョンを実現するテクノロジーがついに現れたと語る水口さんが見据えている、VRの本質とその巨大な可能性とは?


 
▼プロフィール
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水口哲也(みずぐち・てつや)

レゾネア代表 / 米国法人enhance games, CEO
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(Keio Media Design)特任教授
ヴィデオゲーム、音楽、映像、アプリケーション設計など、共感覚的アプローチで創作活動を続けている。2001年、「Rez」を発表。その後、音楽の演奏感をもったパズルゲーム「ルミネス」(2004)、キネクトを用い指揮者のように操作しながら共感覚体験を可能にした「Child of Eden」(2010)、RezのVR拡張版である「Rez Infinite」(2016)など、独創性の高いゲーム作品を制作し続けている。2002年文化庁メディア芸術祭特別賞、Ars Electoronicaインタラクティヴアート部門名誉賞などを受賞(以上Rez)。2006年には全米プロデューサー協会(PGA)とHollywood Reporter誌が合同で選ぶ「Digital 50」(世界のデジタル・イノヴェイター50人)の1人に選出される。2007年文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査主査、2009年日本賞審査員、2010年芸術選奨選考審査員などを歴任。

 
■「精神の旅」の体験をもたらす「Area X」
 
PlayStation VR(PSVR)用の『Rez Infinite』というタイトルが、10月13日に発売になりました。すでにプレイされた方もいるかもしれませんが、『Rez Infinite』の印象を映像で伝えるのは非常に難しくて、体験した人としていない人の間にはかつてない大きなギャップを生んでしまうような、そんな状況になっています。まずはこちらのトレーラーを御覧ください。

▲Rez Infinite – Launch Trailer | PS4, PS VR
 
このトレーラーを作るときに、皆さんに一体どういった映像を見せれば、『Rez Infinite』の体験が伝わるんだろうかと非常に悩みまして、一番いいのは、プレイしている人の反応を伝えることだと考えて、こういう映像になっています。
 
もともと『Rez』という作品は、2001年にPS2・ドリームキャスト向けにリリースしたシナスタジア(共感覚)ゲームです。トレーラーの冒頭に出てくるのは、昔の『Rez』のステージを、PS4用に高解像度リマスターしたもので、4Kまで対応しています。それだけだと面白くないので、いまの技術でできる最高の表現を使ったVRのステージを完全新作で追加しようと考えました。
 
『Rez Infinite』の構想は3年半くらい前からあって、最初の2年間は、ずっとアートと音楽を中心にプリプロダクションを続けていました。テーマとしてはパーティクル(粒子)がメインで、それが音楽に合わせて色めいて動く。音楽とパーティクルが混じっていくような3Dのヴィジョンを、共感覚的に体験する。いわば「音を立体的に見る」ことを試みたのが、今回追加した新作のステージ「Area X」です。過去作をリマスターした部分については、「『Rez』がVRになるとこうなるんだ」という感動はあると思いますが、「Area X」では、そこからまったく違う次元に飛び込むような体験ができると思います。
 
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▲Rez Infinite ©Enhance Games 2016
 
「Area X」では、プレイヤーが周囲をいろいろなものに囲まれています。サイバースペースのウイルスという設定なんですが、それを撃った瞬間に光のパーティクルが目の前でバーンと弾けて、効果音が鳴り、それが連続することで音楽が生成されていきます。パーティクルは効果音に反応して、音を立体視で見るような感覚に陥ります。おそらく、情報のインプットが人間の従来の経験値を超えているために、そこに身体を委ねる不思議な気持ちよさがあるかもしれません。その気持ちの良さに集中できると、音楽と世界が混ざりだし、終盤それが歌になっていきます。最後に女性のイメージ――これはシンギュラリティの象徴としての意味合いを与えているんですが、祝祭的な雰囲気が訪れて「祝福」や「誕生」といったテーマへと導かれる。そんなエンディングになっています。そこまで到達したプレイヤーの多くは「ハァー……なんだこれは……」という感じになって、直後はうまく言葉が出てきません。
「Area X」を遊び終えた人がよく言うのは、「旅から帰ってきたみたい」という感想で、それが何の旅なのかというのもいろいろあるんですが、祝福の旅とか、禅的な体験や、意識の旅から帰ってきたという感覚を抱く人もいます。ある人は、アイソレーションタンクの中にいる状態と似ていたと言っていました。
 
■『Rez Infinite』を触覚的に感じる「Synesthesia Suit」
 
『Rez』が目指してきたテーマを一言でいえば「Synesthesia(シナスタジア=共感覚)」です。これは僕自身が追いかけてきたテーマでもあり、これを実現するためにゲームを作っているといっても過言ではないです。それは、我々がバラバラに存在していると思い込んでいる「映像」や「音楽」や「触覚」といった体験――長い間、人間の知性の進化の過程で、時間をかけて分断されてきた「感覚」というものを、もう一度、統合しようとする試みなんです。

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