宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2015.08.25
  • すべての道はV系に通ず,市川哲史,藤谷千明

“YOSHIKI 2.0″としてのEXILE・HIRO――ヤンキー文化とV系(市川哲史×藤谷千明『すべての道はV系に通ず』第3回)

今朝のメルマガは市川哲史さん・藤谷千明さんによる好評連載『すべての道はV系に通ず』第3回をお届けします。今回のテーマは「ヤンキー文化とV系の関係」。V系はヤンキー文化だとよく言われますが、それはどれぐらい正しいのか? そして、ヤンキーをビジネスにした先駆者・YOSHIKIの正統なる後継者とは? 今回もヴィジュアル系の文化的側面に焦点を当てて語ります。


 

『すべての道はV系に通ず』これまでの記事はこちらから。

■ そもそもV系=ヤンキーなのか?

藤谷:今回のテーマは「ヴィジュアル系とヤンキー文化」です。前回の対談のときに市川さんが「文化的なことばかり書いて音楽的な部分を語ってこなかった」とおっしゃっていましたが、これまでに市川さんが中心となって語ってきた「ヴィジュアル系≒ヤンキー論」を今一度おさらいしつつ、2015年現在の視点も入れて新たに語りなおす必要があるんじゃないかと思います。たとえば20歳前後のファンたちに話を聞くと「V系とヤンキーって言われてもあまりピンと来ない」と言うんですよ。

市川:90年代においては<V系≒ヤンキー>が共通認識として誰もが見なしてたんだけども、いまや<V系=オタク文化>って感じだもんねぇ(←しみじみ)。

藤谷:そうなんです。この20年でゆるやかに変化してきたものだと思うんですが、そこを検証してみたいと思います。例えばですね、斎藤環の『ヤンキー化する世界』に、ヤンキー文化の重要な項目というものがあって、そこに「バッドセンス」「キャラとコミュニケーション」「アゲアゲのノリと気合い」「リアリズムとロマンティシズム」「角栄的リアリズム」「ポエム的な美意識と女性性」とあります。これってもう、完全にヴィジュアル系、というかYOSHIKIのことじゃないですか(笑)。

ヤンキー化する日本
▲斎藤環『ヤンキー化する日本』KADOKAWA/角川書店、2014年

市川:その通り(爆嬉笑)。でもね、かつてのV系バンドマンが皆ヤンキー出身ではなかったわけ。ほら、ヤンキー的なヴィジュアルとライフスタイルに憧れる、地方の少年みたいなのが大半だったと思うよ。YOSHIKIはボンボンならではのヤンキーだけど、hideは美容院のぼっちゃんだし。まあTAIJIに至ってはヤンキーではなく単なる暴れ者(苦笑)。
社会の状況にしても、90年代の段階で暴走族は廃れていたし、当時のヤンキーがV系のメイクしてたかっていうとそういうわけではない。V系は、ヤンキー文化の中心ではなく亜流だったんだよね。YOSHIKIを含め、そもそもV系バンドが自らヤンキーと名乗ったことは一度もないはず。のちの氣志團じゃないわけよ。
ただ僕がV系にヤンキー的なマインドを初めて感じたのは、もしかしたらファンからかもしれない。だって90年代初頭のXのライヴ会場ってなぜか皆、バンド名やメンバー名、歌詞を背中一面に金糸で刺繍した特攻服や長ランを着てくるという。

藤谷:ヤンキーが地元の祭で派手な格好をしてくるノリに近いですよね。90年代に暴走族は廃れたと言っても、なぜか祭りの日にはすごい派手な頭の人が沢山集まってくるような……。

市川:でもV系の会場においてはそれが全員女子で、開演の何時間も前から「気合いだー!!」って円陣組んで叫んでるという(懐笑)。

藤谷:外部からみたヴィジュアル系のイメージってそこだと思うんです。で、それがだんだんオタク的になっていったわけですよね。ゴールデンボンバーなんてその極北ともいえる。
そもそもブレイクのきっかけがニコニコ動画に上げた『女々しくて』のセルフパロディ動画「パクられる前に自らパクってみた」で、これは2010年当時のネットユーザーの気分に合致してバカ受けしたんです。ここから『女々しくて』のブレイクにつながっていくわけなのですが、他にもGLAYやtheGazettEなど様々なバンドをネタにしたり――それまでにもネタっぽいバンド、メタっぽいバンドはいたれど、徹底的にメタ視点でネタをやるというスタンスはこれまでにないオタク的な視点だったと思います。

パクられる前に自らパクってみた
▲ゴールデンボンバー/パクられる前に自らパクってみた

市川:もしゴールデンボンバーが1992年にデビューしてたら、間違いなく東京湾に沈んでたな。Xが直接手を下さずとも、周りの舎弟たちが自主的に処分してたと思う(愉笑)。

藤谷:だから今回は鬼龍院さんが海の藻屑にならなかった理由を考えたいわけです。

市川:むかしむかしライヴハウスは「不良の溜まり場」だと思われていました。ヤンキーじゃないよ不良だよ。

藤谷:その時代は体験していないのですが、「パンクとメタルが仲が悪くて暴力沙汰になった」というような都市伝説はよく聞きますね……。

市川:都市伝説じゃないんだよこれが。パンクスがメタラーを<メタル狩り>、メタラーがパンクスを<パンク狩り>――アンダーグラウンドなシーンの片隅で、バンド同士が不毛な暴力的抗争を繰り拡げてたの。にもかかわらず、そのどっちサイドからも「同じ村の住人」視された稀有な立ち位置の男がYOSHIKIだったわけ。hideが「ヨっちゃんハードコアパンクもジャパメタもOKだったから」と感心しきりで。

藤谷:そうなんですか。そういうコミュ力あるところもヤンキー的ですよね。

市川:コミュ力というか、単にメタルもパンクも好きでどっちか選べなかっただけというか(失笑)。するとYOSHIKIの中で両者の境界線が曖昧になっていく。たとえば当時のメタルは絶対上半身裸なんかにならなくて、すぐ裸になっちゃうのはパンクスだった。さてYOSHIKIはすぐ肌を露出するじゃん。髪の毛をダイエースプレーで角状に立ててたのも、メタルよりはパンクス。

藤谷:頭の半分がツノで半分ウェーブのYOSHIKIの「ウニ頭」ヘアスタイルはそういう意味も込められているかもしれないんですね。

市川:藤谷さんの解釈は優しいなぁ。初期のXの音は、構造的にはハロウィン(ドイツのヘヴィメタルバンド、84年結成)みたいなメロスピ(メロディックスピードメタルのこと。ヘヴィメタルのサブジャンルの一つ)だから、メタル色が濃かったわけよ。なのにヴィジュアルは裸でウニ頭だから、<自分勝手なハイブリッド>だったんだと思う。だけど同時にTVのバラエティ番組に出て運動会なんかやったりするもんだから、結局最終的には両方からバッシングされちゃったという。わははは。

藤谷:『天才・たけし元気が出るTV!!(日本テレビ)』ですね……。当時はミュージシャンのTV出演は音楽番組ですらどうなの? という空気があった中、バラエティ番組に出演して食堂でライブをしたり運動会に出たりして、物議を醸していました。『ロッキンf』(リットーミュージック)にYOSHIKIが「自分たちがTV番組に出ることについて」というテーマで手記を寄稿したこともあったそうですね。

市川:彼はどんなことにおいてもイノベーターであることに、価値を見い出してたと思う。言い換えればそれはまさに「飛び道具」的価値観なんだけども、メタルにもパンクにもなかったその独特な痛快さがV系という独立した社会を生んじゃった。単純明快でわかりやすい美意識って、ヤンキー的だもんね?

■ ヤンキーV系の衰退とオタクV系の台頭はなぜ起こったのか?

市川:とはいうものの、V系がヤンキー的な「オラオラ」ロックだった時代は実は短くて、95年くらいには早くもヤンキー性が希薄になってた気がする。既にその頃にはV系がお金を沢山稼いでくれる音楽ビジネスとして確立したもんだから、良い意味でも悪い意味でもスマートに高級に巨大になってしまった。そうなってくると、がむしゃらな創造衝動もヤンキー色も薄れてきてしまう。そしてヤンキー性が希薄になった最大の「裏」理由は――YOSHIKIが本拠地をLAに移して日本からいなくなったこと。だははは。

藤谷:そんな地理的な問題で済ませてしまっていいんですか!

市川:うん(←あっさり)。結局そういうことなんだよ。皆勘違いしてるようだけども、Xって四半世紀以上存在しているにもかかわらず、オリジナルアルバムがインディーズ時代のを含めても4枚しかないのよ? 百歩譲ってミニアルバムの『ART OF LIFE』加えてもたったの5枚。後輩のLUNA SEAやGLAYの方がよほどちゃんとリリースしてるし、CDだってはるかに売れてるんだから。実は。

藤谷:それでも、ジャンル全体の話になるとYOSHIKIの話になってしまうというのがなんとも――。

市川:アルバム単位で見ても、LUNA SEAが平均100万枚超。ラルクアンシエルが最高300万枚でGLAYのベスト盤に至っては500万枚と、Xの3倍4倍も売れてたわけさ。すると当然、雨後の筍のように出てきた若手もかなりの確率で売れていく。そうなってくると「V系」というブーム自体は活気があって盛況だけども、初期にあったような緊張感は急速に薄まっていったんじゃないかな。
94〜95年頃からか、それまでV系を扱ったことのないレコード会社や芸能事務所の連中が、私をがんがん訪ねてくるわけ。で「V系バンドを始めようと思うんですが……」って相談されるの。知らんがな(激失笑)。まあ、日本全国にアマチュアV系バンドが溢れてたのは事実なんだけども。

藤谷:そこで『BREAK OUT!』(※テレビ朝日系列の音楽番組。全国のインディーズバンドをランキング形式で紹介し、V系ブームの隆盛に一役買った)のような、インディーズバンドを取り上げるといいつつも実質は「ヴィジュアル系のための番組」が成立したということでしょうか。

市川:アレは志の低ーい番組だったよなぁ。青田刈りしたアマチュアV系バンドたちを番組で推してやる代わりに、系列の音楽出版社であるテレ朝ミュージックが「その原盤権を掌握して儲けるぜ!」みたいな大人の欲望丸出しだもの。キリト(PIERROT/Angelo)のような<V系テロリスト>がキレたのはもちろん、あの温厚なyasu(JanneDaArc/Acid Black Cherry)ですら「アレは最低です」と全否定してたくらいだから。
90年代後半のV系バンドはそれほど金儲けの論理にまみれていたわけだけど、でも言い換えるとそれだけV系が有望なマーケット=ポップ・カルチャーとして成立してた側面もあるんだろうね。

藤谷:市川さんの『BREAK OUT!』に対する評価は厳しいですけど、少なくとも今35歳以下のヴィジュアル系ファンはあの番組を見て育ったと言っても過言ではないですからね。

市川:そうなんだよなー。あの番組がV系を日本全国に広めちゃったのは事実だからなー、節操なく。でまあ私は当時、「もうV系はほっといてもいいや」と思っちゃって見限ったのは事実です。だってバンドマンも背広組も、人として加速度的につまんない奴ばかりになっちゃったんだもん。ほら、徳川将軍家と同じでさ、初代の家康から代を重ねてって最後の方になればなるほど小者感が激しく漂うじゃない。やっぱり。

藤谷:そんな状況を象徴するかのように現れたのが、96年デビューのSHAZNAですよ。徹底的にポップ、徹底的にキャラクターを立てていったことでブレイクしたじゃないですか。私はヤンキー→オタクへのある種の転換点ってSHAZNAだと思っていて。ああいうふうに自分をキャラクター的に表現するというのは、現代の2.5次元的なヴィジュアル系に通じているというか。

市川:うん、「必要悪」SHAZNAを契機にオタク的な奴らが増殖していくわけですよ。恐竜の時代が終わって哺乳類の時代が始まるようなもんです。いや、ヤンキー漫画がアニメに駆逐されたというべきか? というか、そもそもオリジナルV系が廃れたのはいつからになるんだろう。

藤谷:私は99年から下降線をたどっていったのかなと思います。98年から99年にかけて何十バンドもデビューしてますから。DIR EN GREYやPIERROTを筆頭にD-SHADEやLastierといった『BREAK OUT!』バンドや、もう名前も思い出せないようなバンドもたくさんいます。
とはいえ20万人も動員した、今から考えるとワンマンライブとしてはありえない規模で行われた《GLAY Expo》も、99年です(幕張メッセに併設されている巨大駐車場で行われた。会場の総面積は東京ドーム約4個分に相当)。それにラルクが起こした通称「ポップジャム事件(ラルクがNHKの音楽番組『ポップジャム』に出演したさい「ヴィジュアル系」と呼ばれて激怒したとスポーツ新聞やワイドショーで報道された事件)」や、IZAMと吉川ひなのが結婚してすぐに離婚したのもこの年でした。
だから「終わりの始まり」といいますか、ピークを迎えたのも99年ですし、芸能ニュース的にオワコン扱いされだしたのも99年なんじゃないでしょうか。

市川:そして最後に残ってたのが、実は作品的にまったくV系じゃないGLAYと、誰がどう観ても聴いてもV系のくせにV系であることを頑なに拒否し続けたラルク――よりにもよってこの2バンドだったことが何かを象徴しているというか、<ブームの終焉>感をより醸しだした気がする。

藤谷:そしてですね、ブームも終わって「ヴィジュアル系・冬の時代」と呼ばれていた00年代前半に早稲田にヴィジュアル系研究会ができ、一方で慶応のインカレサークルのメンバーが中心になって結成されたのが後の「彩冷える」です。個人的にこれがすごく興味深くて。もちろん高学歴のヴィジュアル系ミュージシャンは昔からいましたけど、それを公表していた最初の世代なんじゃないかと。


 

▼対談者プロフィール
市川哲史(いちかわ・てつし)

1961年岡山生まれ。大学在学中より現在まで「ロッキング・オン」「ロッキング・オンJAPAN」「音楽と人」「オリコンスタイル」「日経エンタテインメント!」などで歯に衣着せぬ個性的な文筆活動を展開。最新刊は『誰も教えてくれなかった本当のポップ・ミュージック論』(シンコーミュージック刊)。
 

藤谷千明(ふじたに・ちあき)
1981年山口生まれ。思春期にヴィジュアル系の洗礼を浴びて現在は若手ヴィジュアル系バンドを中心にインタビューを手がけるフリーライター。執筆媒体は「サイゾー」「Real sound」「ウレぴあ総研」ほか。

◎構成:藤谷千明

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