90年代的な「燃え」を巧みに更新した『ガンダムSEED』『スクライド』『ガン×ソード』(『石岡良治の現代アニメ史講義』第5章 今世紀のロボットアニメ(4))【不定期配信】 | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2017.02.16
  • 石岡良治

90年代的な「燃え」を巧みに更新した『ガンダムSEED』『スクライド』『ガン×ソード』(『石岡良治の現代アニメ史講義』第5章 今世紀のロボットアニメ(4))【不定期配信】

「日本最強の自宅警備員」の二つ名を持つ批評家・石岡良治さんによる連載『現代アニメ史講義』。今回は、ゼロ年代前半〜半ばに人気を博し、今世紀のロボットアニメ的イマジネーションの基調を作り出した『ガンダムSEED』『スクライド』『ガン×ソード』を考察します。
(※来週2/23(木)20:00より、石岡さんの月1ニコ生「最強☆自宅警備塾」が放送予定! 続編制作も発表され話題の『コードギアス』を取り上げます。視聴ページはこちら

『無限のリヴァイアス』と『伝説巨神イデオン』のミッシング・リンク

 今世紀のロボットアニメの位置付けを理解する上では、90年代末のポストエヴァ作品群の要素がどのようにして21世紀に流れ込んでいったかを整理することが重要です。そこで今回は『機動戦士ガンダムSEED』のキャラクターデザイナーで知られる平井久司が関わったアニメの系譜と、谷口悟朗監督作品との関係を検討していきたいと思います。
 
 『無限のリヴァイアス』については前回も触れましたが、そのとき考察したのは、ティーンズの人間関係では当然生じる「性と暴力」をめぐるテーマ系についてでした。『ガンダムSEED』や『蒼穹のファフナー』にもこのテーマ系は受け継がれており、平井久司絵のアニメについて、「ドロドロした人間関係が繰り広げられる」という漠然とした印象を持つ人もそれなりにいるのではないでしょうか。
 
 ただ、そこに入る前に前回語り残したこととして、『リヴァイアス』の別の側面、すなわちロボットアニメとして興味深い点についてまず考えてみたいと思います。先日『リヴァイアス』を見返してみたところ、思いのほか『伝説巨神イデオン』テレビシリーズ(1980-1981年)の後半と近い、という感触を持ちました。一般に『リヴァイアス』は『イデオン』と関連付けられることはあまりありませんが、たとえば本船リヴァイアスとロボットのヴァイタル・ガーダー、そのどちらにクルーが乗り込むのかによって、分かれたクルーのそれぞれが疑心暗鬼に駆られ、権謀術数がうごめくという作劇は、『イデオン』のギスギス感と似た性質があります。『イデオン』では地球人とバッフ・クランのいずれもが、閉鎖された環境でなかなか結束できず相互不信に陥っていく描写がしばしばみられました。
 
 また、『リヴァイアス』も『イデオン』もともに、ロボのパワーが実質的に無敵に近そうでありつつも、だからといって相手の攻撃をひたすら無双状態で倒すというわけにはいかず、弱点を的確に突かれることで苦戦を強いられる展開が目立ちます。その結果バトルにつねに悲壮感が漂う点でも、『リヴァイアス』と『イデオン』は共通しています。『イデオン』の場合は登場人物が全滅する結末がよく語られますが、『リヴァイアス』の最終話付近のバトルを見ていると、「外側に大人社会があるがゆえにかろうじて全滅を免れた」という印象を拭えないのですね。
 
 もちろん、大人社会から隔絶されたティーンズ集団内での抗争と協力のドラマには、ゴールディング『蝿の王』というダーク版『十五少年漂流記』の傑作や、楳図かずお『漂流教室』といった先行作品があります。ロボットアニメにおいても、当初の『機動戦士ガンダム』のプランをよりジュブナイルものとして展開した『銀河漂流バイファム』(1983-1984年)という佳作がありますが、無茶を承知で『リヴァイアス』を過去のロボットアニメと関係付けるならば、「ダーク版バイファム」に「マイルド版イデオン」の味付けをほどこしたもの、という見立てが成り立つと考えています。
 
 こうした要素が、『リヴァイアス』をポストエヴァ期ロボットアニメの中でも興味深いものにしているのではないかと思います。私見では、『リヴァイアス』では敵サイドの戯画化が過剰なところが惜しまれるのですが、敵が送り込んでくるユニット群には、若干『エヴァ』の使徒のような「様々な可能性を一つずつ試し、潰していく」感覚があります。
 
 以上の見立てを踏まえた上で、『リヴァイアス』における谷口悟朗監督の達成を次のようにまとめることができると思います。高橋良輔監督『ガサラキ』の副監督を努めた後、初監督作となった『リヴァイアス』において、まさにエヴァンゲリオン風の演出や作劇がロボットアニメを席巻していた時期に、『エヴァ』の原点の一つである『イデオン』の構成要素にまで遡り、かつ「少年少女が戦うことの意味」を、戦闘行為のみならず「サヴァイヴァル」すなわち「生き抜くこと」として捉え直し、そこで生じる諸問題を繰り広げたたのではないか? ということです。『リヴァイアス』および『ガサラキ』に含まれる様々なモチーフが、後の『コードギアス』で展開されていることを考えると、非常に興味深いのではないかと思っています。

『ガンダムSEED』と平井久司のキャラクターデザイン

 すでに指摘してきたように、今世紀のロボットアニメの基調を生み出した二人の重要人物として、キャラクターデザイナーの平井久司と、演出・監督の谷口悟朗を挙げることができるでしょう。この二人は『無限のリヴァイアス』、『スクライド』(2001年)で共に仕事をしており、まさに世紀転換期のこの二作こそが、その後二人が活躍する基礎になったのではないかと考えています。そこで、厳密にはロボットアニメとは言えない『スクライド』も併せて考察することにしましょう。
 
 谷口悟朗の監督作品は『リヴァイアス』、『スクライド』、『プラネテス』(2003-2004年)、『ガン×ソード』(2005年)という順番で続き、この流れで得た経験値がすべて『コードギアス 反逆のルルーシュ』(2006-2007年)に投入され、今世紀のオリジナルロボットアニメ最大のヒットとなりました。

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