橘宏樹 現代日本を「3つのトレンド」から読み解く(『現役官僚の滞英日記』刊行記念エッセイ第二部・前編) | PLANETS/第二次惑星開発委員会

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  • 2018.02.07

橘宏樹 現代日本を「3つのトレンド」から読み解く(『現役官僚の滞英日記』刊行記念エッセイ第二部・前編)

 

現役官僚の滞英日記』の発売を記念した、著者・橘宏樹さんエッセイ、今回から第二部が始まります。第一部で立てた「コンサバ内の権力者たちはどこにいるのか」、そして「彼等の力が弱まっているように見えるのはなぜなのか」という問いに、現代日本にある「3つのトレンド」を読み解きながら答えを探っていきます。今回も全編無料公開でお届けです!
※『現役官僚の滞英日記』刊行記念エッセイ、配信記事一覧はこちら。(全編無料)

【書籍情報】
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橘宏樹『現役官僚の滞英日記』好評発売発売中!

この『現役官僚の滞英日記』刊行記念書き下しエッセイ三部作では、僕が何を考えてPLANETSと色々やってるかを説明する、長い自己紹介みたいなことを書いております。自分の生き様そのものを、具体的な提案としてみなさんに提出しているような趣もあります。本編からはその第二部に入ります。三部とも、本来はもっと論拠を示しながら書きたいような内容なのですが、僕の力では締切に間に合わせることができなかったため、エッセイ風で失礼します。

エッセイ第一部では「コンサバをハックするということ」と題して、閉塞感をなんとかしたいならば、コンサバ組織群の奥底とか雲の上とかにいる「真の族長たち」と繋がりましょう。そして彼等から、「コネ・カネ・チエ」を受け継ぎましょう。というようなことを書きました。末尾では、

・「では、コンサバ内の真の族長たち、内部改革者はどこに存在するのか。」
・「最近は、彼等の力が弱まっているように見えることがあるのはなぜか。」

と書きました。そこで第二部では、これらの問いに向かって書いていきたいと思います。

そして、これらを解き明かす過程では、PLANETS読者のみなさんと特に一緒に考えたい日本社会の「3つのトレンド」についても触れていきたいと思います。これら「3つのトレンド」は、今いずれも大きな転換期を迎えています。そして、これをチャンスにして閉塞感のなかに希望を創り出していきたいと思っています。その一環として、PLANETSとともに、Government Curationという連載を始めたわけなのですが、その詳細な動機や狙いも合わせて述べていきたいと思います。

本稿は、第二部をさらに3つに分けた最初の部分(前編)です。第一部で残した問いの1つ目に応えて「コンサバをハックする」という発想のより具体的な方法論を記すと同時に、「3つのトレンド」のうちの1つ目について述べます。

コンサバ内の真の族長たち、内部改革者たちはどこに存在するのか。

「コンサバ内の真の族長たち」「内部改革者」たちは今、どこにいるのでしょうか。ずばり、世代で考えるのが良いと考えています。彼等を探すならば、

原始太陽たち:自ら戦後を築いた、戦中派の「元老」たち。
星を継ぐ者たち:戦中世代に影響を受け、エートスを引き継いでいる人々。
新生太陽たち:新しい戦中派のエートスとは切断されていても、バブル崩壊等を生き抜いて実績を残している人々。

を狙い目にすると良い、と僕は思っています。人生100年時代に入り、お元気な「 (1)原始太陽たち」もおられます。「(2)星を継ぐ者たち」は、ちょうど今、組織の頂上か引退直後あたりです。僕がエッセイ第一部で「コンサバの真の族長たち」と呼んだのは、基本的にはこの2類型を指します。ただ、20代がノウハウやサポートを受けるには、彼等は少し遠すぎるでしょうから(彼等からもらえるものをもらっても、活かし切れる実力や身分がまだ伴っていない人が多いので)、もう少し若い、平成不況生存者「(3)新生太陽たち」から学べたらよいなと思います。

もちろん、IT系などに多い、優れた新進起業家・投資家の方々にも僕は希望を感じています。社会全体としては、むしろ彼等こそ「(3)新生太陽たち」の主力として目されるでしょう。しかし、ここでは、物は言わぬ、色々あって言えぬが、現状は絶対おかしいと思ってる、大組織内の眠れる良識的穏健派に「コンサバのハック」を呼びかける文脈にありますし、彼等新興勢力の言説はWEB論壇等においてたくさん読めるので、ここでの言及はとりあえず割愛します。

トレンド①:世代交代

では、「(1)原始太陽たち」、「(2)星を継ぐ者たち」の世代は、より具体的にはどの世代を指すのでしょうか。いわゆる、「〇〇世代」という類型を使って考えてみたいと思います。(ちなみに、僕は現在30代で、いわゆる就職氷河期世代です。僕の同級生はだいたい「団塊の世代」か「しらけ世代」の家庭で育っているのですが、僕の親はたまたま「焼け跡世代」です。)

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▲日本の世代と2016年時点での年齢(出典リンク
NAVERまとめ あなたはどこ?○○世代だけで特徴はわかる!?世代間格差も浮き彫りに!

もちろん、このような「~世代」と一ステレオタイプをつかって議論するのは大変危険です。しかし、様々な活動を通じて様々な方々とお付き合いしてきたなかで、どうしても感じてしまうのは、お元気な「焼け跡世代」「昭和一桁世代」の圧倒的な迫力です。戦中戦後の混沌を若いころに経験しているかしていないか、の差は大きいと感じます。特に、発想の自由闊達さやゼロからイチを生む気質(創造性)、徹底的にやり抜く厳しさ(美意識)や自分事として全力で取り組む(主体性)、は、団塊以下とは、およそ人間として次元が違う迫力を感じる方々が多いです。

やはり、戦後の貧しい生活のなかで幼い弟妹を養うべく身を粉にして働いた世代の創意工夫力というか、戦争で多くの親しい人を失う中で自分は命拾いしたという感覚に支えられた達観というか、人生へのみずみずしく潔い執着というか、人間として異次元の突破力を感じます。「原始太陽」という言葉を用いましたが、彼等世代もまた、リアル「坂の上の雲」世代などから「星を継い」でいる面もあるでしょう。

しかし、当然ですが、彼等も高齢になり、影響力は日に日に弱まっていきます。この「世代交代」、すなわちコンサバ内における戦中派(のエートス)の後退こそが、僕が重視したい3つのトレンドのひとつめです。彼等と将来世代との接点も、どんどん少なくなっていくなかで、僕たちはいかにして彼等を見つければいいのでしょうか。

僕の原体験

僕自身は、学生の頃など、「言論NPO」という、市民が政治をきちんと評価しよう、という運動を行っているNPOのお手伝いをしていたことがあり、その時に「戦中派のエートス」に触れることができたと思います。こちらの参加メンバーは、ご覧いただければお分かりになるように、政・官・財・学・メディア等各界の錚々たる重鎮たちでした。特に当時は、どコンサバのど真ん中という感じの方々が、本業が極めてお忙しいにもかかわらず、パレスホテルなどでの朝食会を兼ねた内部ミーティングで喧々諤々の議論をしていました。巷では色々と賛否両論のあるような方々も多くおられましたが、なんというか、僕が見た限り、思考は柔軟だし、(信頼関係のある人々同士の議論においては!)自由闊達に議論するし、物腰は柔らかいし、明確的確ながらも人は傷つけない言語表現を用いるし、問題解決のためにはリスクもとって「なんとかする」人々でした。そうして(実は政治史的にも)大きな決断を行っていた姿を間近で見ました。

こうした「真のコンサバ族長たち」の言動を目の当たりにして、素直に、カッコいいなと、感銘を受けたことが、僕の原体験になっています。同時に人間としての目標水準というか美意識も構築された気がします。あんまり若い頃に刷り込まれてしまったからか、彼等のようになりたいという憧れや、彼等の背中を見てしまった者として恥ずかしくないオトコにならねば、という緊張が今でもずっと心底に残ったままです。第一部で「コンサバを侮るなかれ」、と僕に言わせる根拠となる経験でもあり、ある意味、薫陶を受け継いだということでもあると思います。

繰り返しになりますが、彼等のような「真のコンサバ族長たち」は、公人として、組織のトップとして、どうであったかについては、方々で様々な評価があります。また、外向けの演説や記者会見などでの言動では、どこにも突っ込みどころのない穏当なことしか言わない人も多かったです。つまらない人だろうと一般には思われているかもしれません。しかし、信頼関係のある空間での真剣な議論においては、一見覚束ないような試論も存分に議場に提出し、率直で果断な意思決定をしていた個人の姿を僕は目の当たりにし、大変影響を受けました。(この言論NPOの活動で目の当たりにしたコンサバ・エリートたちの真剣な社交の姿は、僕がイギリスのジェントルメンズクラブで垣間見てきたものと極めて相似していたんだなと、後から気が付きました。「ジェントルメンズ・クラブ」とは何かについては、拙著『現役官僚の滞英日記』に詳述しています。)

団塊世代とバブル世代

では、元老たちの薫陶は途切れることなく受け継がれているか。この点「団塊世代」が、よく「先輩世代が敷いてくれたレールをガンガン走ればよかったので創造性が低い」「人数が多すぎるため、ネガティブチェックで人事評価がされがち」「ゆえに、リスクをとった決断ができない人材が育った」というような批判を受けたり、バブル世代が「仕事の覚え盛りである20代から30代の頃、たいして努力しなくても給料がどんどん上がっていった」「ゆえに、中間管理職になった今、適切な判断能力がない。結果、ことなかれ主義に陥る」などと描写されたりするのをビジネス誌などで僕はよく目にします。そうではない人々もたくさんいるでしょうから、とてもさびしくなる話です。

でも、もし、これらの描写がある程度的を射ているとしたら、こういう後輩を見守っていた「昭和一桁世代」「焼け跡世代」もまた、さぞかしイライラしていたことでしょう。実際、聞くところでは、「時代の変わり目なんだから、機転利かせろよ」とか思っても、「ああ、でもこいつらは平和で伸びてる時代に育ったから、若いころ苦労したオレたちの基準を押し付けても気の毒だよな」とか「自分たちの人材育成が良くなかったのだろうか…」とか、悶々としていたみたいです。それでも、そうした葛藤を抱えつつ、「老害はよくない」「任せねば育たない」と考えて後進に道を譲っていったようです。しかし、やはり、社会に対する強い責任感からか、忸怩たる思いが残った方もおられたようでした。言論NPOには、そうした、志の燃え残った元老たちが特に多く集まって、活発にご活動されているというような感じがします。

世代をジャンプした結託のためには、「熱意と水準とピュアさ」がテコになる

では、これから、このような、コンサバの真の族長達またはその系譜を継いだ人たちと、どうやって出会うか。そして、認めてもらうか。さらには、自分のやりたいことを支援してもらうか。普通に新卒社会人になってしまったら、社長室等にでも配属されない限り、彼等から近くで学ぶこと難しいでしょうから、努力をする必要があります。そこが勝負だと思います。閉塞感の真の突破口はそこにあります。

例えば、大企業であればOB会は最初の糸口になるでしょう。後輩が悩んでいる、チャレンジしている、と聞いたら、元常務、元社長といった、大組織の操舵に携わった真の族長たちならば、きっと一度はこちらを向いてくれるでしょう。ただし、向いてもらってからは、こちら側の「熱意と水準とピュアさ」が厳しく問わる段に入ります。自分の生き様について腹が決まっていなかったり、ビジネスマンとして一定の能力(礼儀作法含む)がなかったり、組織や社会全体を良くしたいという公的目線が欠けていたりすると(族長は「治めてきた」人なので、この「世のため人のため」的観点はかなり重要)、二度は会ってくれないかもしれません。「面白い」「楽しい」という価値は重要ですが、(エンタメ業界でなければ)コンサバ族長たちの腰を上げるという点では少し弱いかもしれません。

(ちなみに、「面白い」「楽しい」「ワクワクする」が中心に来るのが、IT系などの新興ビジネスの成功者たちの価値観であろう一方、コンサバはこの点、どちらかというと「世のため人のため」などと、使命感や周りの人の幸せを優先しがちかもしれません。でも、そんなコンサバでも、あんまり生産性が低すぎたり閉塞感が増してくれば、組織への忠誠心よりもワクワクを求める傾向が強まると思います。今はちょうどその狭間に来ているような肌感覚を僕は個人的には感じています。)

世代をジャンプした結託というのは、有力OBに、現幹部に圧力をかけて欲しい、と頼むということではありません。後輩の役に立ちたいという気持ちを頼りに、職場では出会えないすごい人々との繋がりを仲介してもらったり、経験を教わったりすることがメインです。

(ちなみに欧米のホワイトカラーにおいては、「コネ」は情実というより、「コネ」を得ていくこと自体が実力であり次のステップに進む試験であるということも、書籍で書かせていただきました。)

また、もちろん、糸口は社外にもあるでしょう。論考を呼んで共感した方の講演会に出かけて行ったり、「熱意と水準とピュアさ」で認めてもらって、個別にアポをもらったり、そこから何とか誰かを紹介してもらったりして、「コネ」を手繰りながら、色々と吸収させてもらえばよいと思います。

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霞が関で「コンサバをハック」させる幹部たち

ちなみに、霞が関でも、最近、若手官僚○○人が勉強会を重ねたり、政策提案ペーパーを出したり、事務次官らとグループ勉強会を立ち上げたり、という動きが各省で見られます。

国交省/若手・中堅職員の2030年政策立案プロジェクト発足/34人参加 [日刊建設工業新聞 2017年10月27日2面]

経産省 次官・若手プロジェクト(facebookページ)

総務省、若手官僚の「未来デザインチーム」立ち上げ[月刊事業構想 編集部(2017/12/13)]

こうした動きの背景には、まず「霞が関は世の中に貢献できていないんじゃないか」という不安や「もっと滋養の高い仕事も伸び盛りの今からやらせてもらいたい」という若手の悲鳴という側面があるでしょう。ただ、他方で、こうした若手の動きについては、若手を「(他省の先例を見ながら)後押し」した幹部たちの意思決定にも目を向けることも重要だと思います。コンサバの自浄システムの鳴動が聞こえてくるからです。僕自身は他省庁の幹部とも付き合いがありますが、現幹部のなかには、上記の「(2)星を継ぐ者たち」も多く見受けます。「自分が仰ぎ見てきた先輩たちのような底力のある人材を、自分の省でも育てていかなくてはならない」という誠実な責任感というか、危機感のようなものを、彼等から感じることが間々あります。そういう意味で、僕は、一連の動きについては、若手の熱意やペーパーの中身もさることながら、「世代をジャンプした結託」という構図、特に、若手に「コンサバをハック」させている幹部たちに着眼したいです。自分たちの裁量化にある「コネ・カネ・チエ」を若手らに与えて、プロデュースしているのです。(僕の言う「プロデュース」の定義は、下記のとおりです。拙著『現役官僚の滞英日記』中には、よりまとまった形で書いております。)

「英国型プラットフォーム」と2つのキャピタリズム――「プロデュース理論」で比較する日英のイノベーション環境(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第6回)【毎月第1木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.558 ☆

世代は交代していきます。若い人々も中堅世代も、若き日々に戦後混乱期や大不況などの混沌を目一杯吸い込み、創意工夫力で修羅場を生き抜いたタイプの中高年と繋がる機会を貪欲に求めていって欲しいと思います。目前の上司がイケてないのなら、そのまた上司もイケてないのなら、その2世代ごと、ごっそりジャンプしちゃいなよ☆、というわけです。ただし、真にイケてる(元)権力者らと出会えた暁には、その眼鏡にかなう「熱意と水準とピュアさ」を存分に示せなくては、彼等のサポートは得られません。ぜひ、よく普段から準備しつつ、あちこちに足を運んで出会いを掴み、彼等の「コネ・チエ・カネ」を受け継ぎ、社会を前進させることに活かしていただきたいな、とコンサバの中堅世代に呼びかけたいと思います。

(続く)

▼プロフィール

橘宏樹(たちばな・ひろき)
官庁勤務。2014年夏より2年間、英国の名門校LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス)及びオックスフォード大学に留学。NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。twitterアカウント:@H__Tachibana