日本の大学ランキングはなぜ上がらないか? ――第2部 オクスフォード編スタート | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2015.11.19
  • 橘宏樹

日本の大学ランキングはなぜ上がらないか? ――第2部 オクスフォード編スタート

今朝のメルマガはイギリス留学中の橘宏樹さんによる『現役官僚の滞英日記 』最新回です。
渡英2年目となるこの秋、橘さんはロンドンからオクスフォードへとその居を移しました。今回より「オクスフォード編」ということで、この世界一有名な大学街からのレポートをお届けしていきます。

 

こんにちは。橘です。みなさまいかがお過ごしでしょうか。日本は陽もだいぶ短くなって、秋めいて来たと聞いております。こちらは日光が当たっている場所だけは多少暖かいものの、朝夕の冷え込みは段々と厳しくなってきまして、夜中に自転車を漕ぐ時はちょっと手袋が欲しくなってきました。

 

さて、僕の方は、この9月にロンドンからオクスフォードに引っ越してきました。というのも、2年目はオクスフォード大学に通うからです。ロンドンでは学んでいた大学名を伏せながらもお伝えできることがたくさんあったのですが、オクスフォードは大変個性的な大学街ですから、ここが何処かを隠しながら何かをお伝えするのはさすがに苦しいものがあり、また、世界に冠たるオクスフォードでの教育、教授陣や学生、街や人々の様子はどのようなものか、ロンドンや日本の大学とも比較しつつ僕なりの視点から体験談をご報告することには意味がありそうとも考えました。

 

というわけで、第1部ロンドン編は前号で閉じ、今号より第2部オクスフォード編の開幕ということで引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

 

また、今後は、本稿の内容(過去記事も含む)に関して、皆様からのご質問や、今後取材して欲しいことを受け付けたいと思います。こちらのフォームまたはTwitter(@ZESDA_NPO)にお寄せいただければ、できるかぎりお応えしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 

■ オクスフォードの街の様子

 

オクスフォードはとてもコンパクトで静かな街です。まず、緑が非常に豊かです。大学所有の庭園では手入れの行き届いた植え込みに多種多様の花々が咲き、リスが走り回っています。象牙色とも蜂蜜色とも呼べる分厚い石造りの壁面のところどころを蔦の蔓がびっしりと覆い、古めかしさを際立たせています。秋が深まるに連れて端から赤く染まっていく蔦の葉は大変美しいです。学内の庭園やラグビーのグラウンドでは植え込みのブラックベリーやリンゴ、栗の実が成り、木々の間をリスや飼い猫達が走り回っています。また、テムズ川の上流域でもあるので、街の裏手を小川が流れておりパンティング(ボート遊び)が楽しめます。
パンティングというと、華麗な建物群を岸辺に眺めることができてイケメン学生バイトが船頭しながらガイドもしてくれるケンブリッジのものが有名だと思いますが、オクスフォードの方は、オフィーリアでも流れてきそうなほど静まりかえる林の中を客が自分で漕ぐ形式です。
岸辺のベンチでは老学者が本を読み、多くの水鳥が人を怖がらず泳ぎまわっています。木立の向こうには牧場の牛も見えます。

 

オクスフォードの街中は、土日になれば往来する人々は少し多くはなるものの、ロンドンに比すれば圧倒的に少なく、歩くスピードもそんなに早くありません。そして多人種がひしめきあうロンドンに比べると、白人が多い印象です。学生はもちろんですが、お年寄りも多いです。ほんの300メートル程度の歩行者天国の目抜き通り周辺が、いわゆる銀座というか、「シティセンター」と呼ばれる中心となっています。最も伝統あるカレッジ群や図書館や博物館、役所などもこの辺りに集中しています。歴史上の著名人らが集ったと言い伝えられる古いレストランやカフェも、おそらく往時と変わらない佇まいで散在しています。
中心部から北に進むと、道沿いに、赤や茶色の煉瓦造の洋館群が並びます。色調や建築様式に統一感を感じさせつつも、一軒一軒が豪華で個性的なデザインです。大半が学部やカレッジの所有物であり、数人の学生がシェアして住んでいたり、教職員が家族と住んでいたり、学内のクラブや組合が活動拠点として活用していたりしています。

 

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▲オクスフォード大学の建物は「象牙色系」と「赤煉瓦系」の2つものに大きく分かれます。こちらは象牙色系。左は大学の最も象徴的な建物、「ラドクリフ・カメラ」。

 

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▲赤煉瓦系。オクスフォード大学所有の建物のひとつ。このような建物群から街と大学が構成されています。

 

また、オクスフォード駅の東と西では、大きく雰囲気が異なります。オクスフォード大学の建物群が立ち並び住民や観光客が往来する上述の地域は全て東側です。対して西側は、まっすぐに伸びる車幅の広い道路の両脇に、比較的新しい一戸建てや農園、巨大な駐車場を備えたホームセンターが立ち並んでいます。何となく、日本の地方の国道沿いの風景を思い起こさせます。

 

オクスフォードには地下鉄や路面電車などはありません。バスが便利ですが、ロンドンに比べると多少割高です。学生の大半は自転車を使っており、そこら中に駐輪されています。ロンドンからのアクセスは当日券だと電車で片道約1時間・往復約25ポンド(約5000円)、バスでは片道100分で約20ポンド(約4000円)です。回数券を買えばさらに安く済みます。ロンドンからの終電は0時半頃、最終バスは深夜2時発のものまであり、両方とも車内で無料wifiが使えるのが便利です。ロンドン〜オクスフォード間の距離は約60マイル(95km)で東京駅から静岡県の熱海駅までとほぼ同じですが、体感距離はもう少し近いと言ってよいでしょう。

 

住まいに関しては、僕はカレッジの寮に入りました。ロンドンで住んでいた寮より少し安い家賃で、広さは2倍くらいあります。街の中心部から自転車で15分くらいの場所にあって、一際静かです。窓の外は植え込みに囲まれていて、蜘蛛が毎朝新しい巣をつくっています。多少陰気臭いかも知れませんが、非常に気に入っています。
というのも、この1年間は、大学の授業や課題がかなり盛り沢山だった上、オクスフォードの受験準備もあり、さらにロンドンにいるうちに得られるものを得なければという急いた気持ちから様々な課外活動に取り組んでいましたから、正直言って、疲弊しました。前頭葉がいつも微熱を帯びているような感覚がいつも拭い切れませんでした。ノイローゼというほどではありませんが、街の喧騒に苛立ちながら過ごしていましたから、今ここにきて、本当に癒されています。とはいえ、今週からこちらでもまた厳しい学業の日々が始まるわけなのですが。

 

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▲学生のほとんどは街の足に自転車を使っています。

 

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▲セント・マリー教会の展望台からの眺望。高い建物はほとんどありません。

 

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▲中庭のリス

 

■ カレッジは「村」そのもの

 

オクスフォード大学のカレッジ制度については、第2回でも少し触れましたが、すべての学生は学部やコースと同時に、38個ある「カレッジ」(または6つのキリスト教系の「ホール」)という組織のどれかに所属します。これは二重に学校に所属するイメージで、コースの指導教官とカレッジの指導教官から、それぞれ指導を受けることになります。
オクスフォードとケンブリッジの、特に学部生の教育においてはこのカレッジが中心的な役割を果たしていて、全寮制の下で全人格的な教育が行われます。
ちなみに、ケンブリッジ大学では、カレッジ間の経済力や施設の善し悪しなどに格差が激しいと聞いていますが、オクスフォード大学は多少差はあるようですがそれほどではないように聞いています。とはいえ、なんとなくですが、過去数百年に首相を何人も輩出したような最も伝統ある類のカレッジはイギリス人でエリート高校を出ていないと入れなさそうですし、一方、設立年も新しく、建物もコンクリートで、少し郊外に立地するカレッジは、多国籍文化でオープンな雰囲気がある、といったカラーの違いはかなりあるように思います。

 

橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第2回 : 君臨するか、受け止めるか、教え方のスタイル ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.195 ☆

 

僕もカレッジはどういうものか、一応事前にある程度聞いていて想像もしていましたが、実際、カレッジの寮に入って約1ヶ月が過ぎた今、あらためて体感しているのは、ここだけでひとつの「村」だと感じられることです。生活とコミュニティがこのカレッジの建物のなかだけほとんど完結してしまえるのです。全体で何人が住んでいるのかまだよくわかりませんが、数百人の老若男女が生活していると思います。学生のみならず、大学の教職員や様々な持ち場で働く大学の従業員が家族と一緒に暮らしています。

 

カレッジには多種多様な施設が揃っています。誰もがくつろげるコモンルームやランドリー、自販機などはロンドンの寮にもありましたが、こちらは教育機関ですから、講演などが行われる大ホールのほか大小のゼミ室があり、カレッジの幹部の教授らのオフィスも並んでいます。
コモンルームでは無料でコーヒーが飲めますし、置いてあるテレビはスカイTVに加入しているので欧州サッカーを見ることができます。ピアノが置いてある音楽室、大小さまざまな工具が備え付けられた工作室、非常に整備されたサッカーグラウンドやテニスコートのほかBBQ場、さらには春夏は非常に美しかろう花園があります。多目的室ではヨガの講習があったり、色々な宗教の儀式が行われています。かなり大きな図書室もあって事実上24時間勉強に使えるのがとても便利です。書架のラインナップは専門書というより伝記や歴史、アート、文学小説など人文学系が大半です。
大きな食堂は値段は高くも安くもないですが、毎日朝・昼・晩と食事ができますし、バーも併設されていて毎晩賑わっています。さらには全員が徒歩5分内の病院と歯医者に登録して医療サービスも受けることができます。特に保育園まであることには少し驚きました。

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