山本寛監督インタビュー「いまだからこそ語るべきアニメのこと」第6回 アニメ監督はアイドル化するなかれ【不定期連載】 | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2017.03.01
  • 山本寛

山本寛監督インタビュー「いまだからこそ語るべきアニメのこと」第6回 アニメ監督はアイドル化するなかれ【不定期連載】

『らき☆すた』や『かんなぎ』で知られるアニメ監督・山本寛さんの、これまでの活動を総括するロングインタビュー「いまだからこそ語るべきアニメのこと」。最終回となる第6回では、『Wake Up, Girls!』制作を振り返りつつ、アニメ業界が向かうべき未来像についてお話を伺いました。(取材・構成:高瀬司)

『Wake Up, Girls!』の二層構造

――次がいよいよ最新作の『Wake Up, Girls!』になります。いまはお立場上あまり語ることができないとのことでしたが、コンセプトや演出面についてだけでも簡単に触れさせてください。『blossom』の前にはすでに『Wake Up, Girls!』のもとになる企画があったというお話がありましたが、そのときはアイドルものとして思いつかれていたのでしょうか。それともまず震災の衝撃があったうえで、それに対して復興にはアイドルの力が必要だ、という順番だったのでしょうか。
 
山本 セットになって降りてきたというのが実情ですね。きっかけの一つになったのは、A-1 picturesでアニメ版を制作していた『THE IDOLM@STER』(2011年)です。オリジナルアニメの企画について、『らき☆すた』の待田(堂子)さんを誘って相談するところから動き出した作品なのですが、そのころ待田さんがやられていたのが『THE IDOLM@STER』のシリーズ構成で。それもあってか、打ち合わせの最中に突然、「復興×アイドル」というコンセプトが降りてきたんですよ。『blossom』では、アニメが復興の力になれる手立てとして聖地巡礼を組みこみましたが、アイドルものであればさらにライブもできるじゃないですか。それならもっと被災地に人を呼べるだろうと。
 
――つねにこの世界の現実との関わりが念頭にあるわけですね。
 
山本 それは僕の永遠のテーマです。フィクションがただの現実逃避であっては意味がない。一旦はフィクションの世界に逃げこんでもいいけれども、最後には現実に戻らなければいけない。そうでなければ、アニメは麻薬と同じになってしまう。だから現実世界に戻す橋、現実を意識する瞬間というのは必ず組みこむようにしています。
 
――メインキャラクターの7人に、担当キャストと同じ名前をつけ、外見も似せてデザインするなど、現実と地つづきな世界観にすることも山本監督の発案なわけですよね。
 
山本 そうですね。ただ、TVシリーズを劇場版のつづきからスタートするというアイディアは当時のタツノコプロの社長が考えたものです。またタツノコプロははじめから第1期のみ制作するという契約だったので、第2期からはミルパンセと組むことになりました。
 
――演出面でのコンセプトは?
 
山本 FIXメインで余計なPANはしないという、僕の基本的なスタイルで演出しています。ドキュメンタリーチックにしたかったので、トリッキーな画やテンポで見せるのではなく、セットのなかで3カメで撮影しているかのようなカット割りにしていて。だから同ポもこれまでの作品より増やしています。
 
またそうした演出プランはコンテ打ちの際にあらかじめしっかり伝えるようにしていて、特に重要なカットについては、はじめからこういうカット割りでこういう切り返しにしてくださいと具体的にお願いしていました。コンテ直しの作業を軽減する目的もありますし、一般的にコンテマンも直されるのは嫌なものなので、それならはじめから細かく伝えておこうと。
 
――また物語をめぐっては、社長が逃亡したり、アイドルたちが健康ランドで水着営業させられたりと、生々しい展開が注目を集めましたが、どのような狙いがあったのでしょうか。
 
山本 一つには、ヒロインたちが不快なキャラクターでは視聴者の反感を買ってしまいますが、明るいだけの作品にはしたくなかったので、周りの大人たちをゲスな連中にすることで補おうとしたんです。ただ、実はそれ以上に、『Wake Up, Girls!』にはアニメ業界をカリカチュアライズした側面も強くあって(笑)。人気ドラマで言えば、『踊る大捜査線』シリーズ(1997-2012年)がそうですよね。刑事ドラマであると同時に警察業界そのものの話にもなっていて、それによってサラリーマンにも広く共感されていた。表面上は純粋なエンターテインメントとして楽しんでもらえるように作ってはいますが、同時にアニメ業界の物語にもなるような二層構造を意識していました。
 
もっと言ってしまえば、自分たちの「ドキュメンタリー」のつもりだったんですよ。つまり『Wake Up, Girls!』は7人の少女たちの物語であると同時に、僕らの物語でもあるんです。傾きかけの芸能事務所「グリーンリーヴス・エンタテインメント」は「Ordet」のカリカチュアですし、酒ばかり飲んでいる乱暴な社長なんて僕自身のことですから(笑)。

これからのアニメスタジオ

――フィルモグラフィを現在まで辿らせていただいたところで、最後のパートとして、いくつか山本監督が見るアニメ業界のあり方についてもうかがわせてください。
まずはじめに、山本監督は京都アニメーション、A-1 pictures、そしてご自身のOrdetと、さまざまな制作会社を経験されてきましたが、その体験も踏まえて、これからのアニメスタジオはどうあるべきだと思われますか?

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