ライフスタイル化するランニングとスポーツの未来 『走るひと』編集長・上田唯人×宇野常寛・後編(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」) | PLANETS/第二次惑星開発委員会

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  • 2016.02.20
  • 上田唯人,宇野常寛,走るひと

ライフスタイル化するランニングとスポーツの未来 『走るひと』編集長・上田唯人×宇野常寛・後編(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」)

今朝は、雑誌『走るひと』編集長の上田唯人さんと宇野常寛の対談の後編をお届けします。ランニングが持つシンプルさと間口の広さ、「ライフスタイルスポーツ」人口の増加とその背景、そして新しいホワイトカラーの生活とテーマコミュニティ化するランニングの今後について、語りました。


 

▼雑誌紹介
雑誌『走るひと』
東京をはじめとする都市に広がるランニングシーンを、様々な魅力的な走るひとの姿を通して紹介する雑誌。いま、走るひととはどんなひとなのか。プロのアスリートでもないのになぜ走るのか。距離やタイム、ハウツーありきではなく、走るという行為をフラットに見つめ、数年前とはひとも景色もスタイルも明らかに異なるシーンを捉える。 アーティストやクリエイター、俳優など、各分野で活躍する走るひとたちの、普段とは少し違った表情や、内面から沸き上がる走る理由。もはや走ることとは切っても切れない音楽やファッションなど、僕らを走りたくてしようがなくさせるものたちを紹介。
待望の第3弾となる『走るひと3』(2016年1月16日発行)は、発売後まもなくAmazonカテゴリー新着「1位」、総合「19位」をつけるなど、大変な好評を博している。
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▼プロフィール
上田唯人(Yuito Ueda)
走るひと編集長 / 1milegroup株式会社 Founder CEO。早稲田大学在学中にアップルコンピューター(現Apple Japan)にてipodのプロモーション、上場前のDeNAで新規事業に携わる。卒業後、野村総合研究所に入社、企業再生・マーケティングの戦略コンサルタントとして、主にファッション・小売業界のコンサルティングを行う。その後、スポーツブランド役員としてファイナンス・事業戦略・海外ブランドとの事業提携などを手がける。
2011年7月、1milegroup株式会社を設立。『走るひと』の前身となるWEBメディア・クリエイティブ組織を立ち上げ、様々なブランドのクリエイティブ、ブランディングプロジェクトを実施。2014年5月、雑誌『走るひと」創刊。
現在、ひととカルチャーに関わる領域にて様々な制作・メディア事業を手掛ける。
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◎構成:望月美樹子

■「走ること」の持つシンプルさが間口を広げている

上田:2020年のスポーツ文化を考える時に、もっとこういう視点で読み解いたらいいのにと思うところや、他のカルチャーから学ぶことはありますか?

宇野:他のカルチャーから学べることで言うと、エンターテインメントジャンルのノウハウを取り入れることで、スポーツをアップデートできると思うんですね。まさにeスポーツ学会が実践していることです。近代スポーツや近代体育のロジックが画一的な身体観に基づいている一方で、エンターテインメントは個々のプレイヤーの個性や多様性を使って盛り上げていく特性を持っているので、それを取り入れることでスポーツというゲームの更新ができるはずです。
もう一つはライフスタイルでしょうね。現在のランニング文化の変化は、適度な運動が健康管理の上でポジティブな効果を持つという認識がようやく浸透して、運動がカジュアルなライフスタイルとしてしっかり根付いてきた結果ですよね。その中で、身体を動かすことを含んだ生活を、多様性を帯びつつどうポジティブに見せていくのかということです。運動することが特別ではなくなるのが大事だし、勝手に変わっていくとも思います。

上田:これまで取材をしてきた中で、面白いと思っているのが、ロックバンドのアーティストにめちゃめちゃ走る傾向があることなんです。特に、ボーカルとドラムの人がすごく走っているんですよ。

宇野:へえー。ギターやベースのひとはあんまり走らない(笑)

上田:走ってる人もいるんですけど、気付いたらボーカルとドラムが一緒に走っている。理由の一つはボーカルとドラムが特に体力を使うことです。アーティストにとって、今はCDを売ってどうこうよりも、ライブツアーをしていかに食っていくかが重要だから、それに耐える体力が必要になったということです。
でも、それ以外の背景があるような気もしているんです。ロックの表現が衝動的なことや、有り余ったエネルギーを表現のモチーフにしていることと、走ることの間に関係があるのかなという想像もしていて、『走るひと2』でロックの精神性のようなテーマを少し紐解いてみたんですよ。
例えば、AKB48のまりやぎちゃんが走ったというので、その理由を聞いたんですけど、喘息を患わっていたぱるるの快気を祈って走ったと言うんです。「祈って走る」というのは、論理的に因果関係がないですよね。でも、彼女にとっては、走るという方法で祈りを示すことが、ぱるるを勇気付ける手段になっている。これはどういうことなのかと疑問に思ったんです。

宇野:まりやぎ結構いい奴ですね(笑)。

上田:良い奴なんですよ。クールに見せて、割とそういう人間ぽいところがある。話を聞いているとすごく家族思いだったり、近しい人間への愛情がある人だなというのをすごく感じました。そういうふうに、『走るひと』では人が走ることをいろいろな捉え方でやっているんです。

宇野:面白いですね。変な例えですけど、僕の中で長距離ランナーといえば村上春樹なんです。趣味でずっと走っていて、マラソンまで出ちゃう。ああいう人って、イメージとしては草食動物で穀物を食べている感じなんですよ。一方で、ロックバンドとか短距離ランナーの人たちは、朝まで飲んで喧嘩するような、肉食のイメージがある。だから今のアーティストの話を聞いて思ったのは、もともと草食な人たちのものだったランニングが、肉食の人たちまで巻き込もうとしてるということです。ランニングが多様になってメジャー化していく中で、本来ならコツコツ走ることが性に合わないタイプの人も巻き込みつつある。この比喩で言うと、僕自身はお酒を飲まなくて甘いものが好きなので、お菓子の人間なんですよね。

上田:お菓子の人間かわいいですね(笑)。

宇野:だから僕は歩いて適当にカフェに入って、本読んだりお菓子つまんだりする。僕みたいに、酒飲まなくて甘いモノが好きでオタクで、というようなお菓子型の人間も、ロッカーのような肉食型の人間も、ランニングは同時に包摂しようとしている。僕はランニング史には詳しくないのですが、ガジェットが充実してきたことや、ランニングが都市部のライフスタイルとして定着してきているといった背景があって、間口がどんどん広くなっている。それで、本来なら対象外にあるタイプの人間まで巻き込もうとしている感触があるんですよね。

上田:視点を変えると、ランニングは潜在的にはそんな風に間口が広くあるべきで、いろいろなタガが外れたことにより、本来の形になってきたということでもあるんですかね。

宇野:やっぱりシンプルさがあるからでしょうね。僕自身ダイエッターなので消費カロリーにうるさい人間なんですよ。特別なトレーニングを除けば、1秒あたりに消費されるカロリーが高いのは走ることなんですよね。すごく敷居が低くて運動量が高い。しかも、サッカーや野球と違って、特別なスキルは不要で運動としても最もシンプル。シューズ買ってきたら明日から走れるし、何なら1000円のスニーカーでも走れる。最も基本的な運動として射程の長さがある気がしています。

■競技人口が伸びている「ライフスタイルスポーツ」

上田:今ロックバンドのミュージシャンが走り始めているという話をしましたが、次に走る可能性を感じているのが、20代前半の女子なんですよ。あとはいわゆるオタクと言われる人たち。家にいながら自分の好きなことを突き詰めるタイプの人たちが走り始める可能性もすごくありますよね。

宇野:まさに僕がそうですよね。僕にランニングを勧めた友達というのは社会学者の濱野智史なんですが、彼もすごくオタク気質の人間で、走ることがゲームとして面白いという。自分の身体状況とかランニング状態をデータ化して、折れ線グラフでタイムが縮まるのを見ることができるとか、RPGみたいに良い靴を履くことでタイムが縮まるとか、防寒装備としてアンダーアーマーをつけると快適に走れるとか、そういうことを発見していった。ガジェットという部分でオタク的な感性がくすぐられたことが、入り口になったんですよね。僕は彼ほどガジェットに興味がないから、あまり物集めの方には行かなかったけど、NIKE+はすごく楽しかったんです。

上田:そうやっていろいろな人が参加すると、ランニングは今までになく、様々な年代やタイプの人が融合したスポーツになりますよね。

宇野:むしろ、ランニングくらいシンプルなスポーツでも、これまでは若い成人男性が中心だったんですよね。近代スポーツって本当にそうで、若くて健康な成人男性が基準になりすぎてるんですよ。ほとんどの近代スポーツのルールが、10代後半から30代前半くらいまでの健康な成人男性を基準に作られている。その狭さはずっと気になっているんです。それでもランニングは高齢者の人も数多くやっているし、間口が広い方だと思いますけどね。

上田:この前、為末大さんがおっしゃっていたんですが、ランニングとヨガの2つは日本体育協会に入っていない種目らしくて、でもその2つだけが競技人口が伸びているんだそうです。

宇野:ランニングとヨガを外したら、人はいったい何から運動を始めて良いかわからないですよね。だって今、普通にサラリーマン同士がデフレ居酒屋で飯食ってて、「そろそろお腹気になるし運動しようと思うんだよね」って言ったら、10分後に95%くらいの確率でランニングかヨガの話に移ってますよ。

上田:競技人口の推移で言うと、いわゆるスクールスポーツやチャンピオンスポーツは横ばいから下降気味になっていて、ランニングやヨガのようなライフスタイルスポーツは伸びている。だからスポーツの中において、この2つは本当の骨太なカウンターカルチャーだと思っているんです。

宇野:まさにそうですよね。というか、僕もその流れが来て初めて乗っかれると思った人間の一人です。

上田:宇野さんは今はウォーキングに移行しているわけですが、ランニングとウォーキングの違いって、何かあるんですか?

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