ブリティッシュ・ドリームの叶え方――英国版「わらしべ長者」と3つのキャピタリズム(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第10回)【毎月第2水曜配信】 | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2016.08.10
  • 橘宏樹

ブリティッシュ・ドリームの叶え方――英国版「わらしべ長者」と3つのキャピタリズム(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第10回)【毎月第2水曜配信】

今朝は『現役官僚の滞英日記』をお届けします。しばしば「階級社会である」と言われるイギリスですが、現代におけるその構造はどうなっているのでしょうか。シティが持つ「カネ」、ジェントルメンズ・クラブの「コネ」、大学やシンクタンクの持つ「知識」の3要素と、ヒトの流動性の担保を両立する独特の仕組みを解説します。


 
▼プロフィール
橘宏樹(たちばな・ひろき)
官庁勤務。2014年夏より2年間、政府派遣により英国留学中。官庁勤務のかたわら、NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。
 
本メルマガで連載中の橘宏樹『現役官僚の滞英日記』これまでの配信記事一覧はこちらのリンクから。
 
※本稿の内容(過去記事も含む)に関して、皆様からのご質問や、今後取材して欲しいことを受け付けたいと思います。こちらのフォームまたはTwitter(@ZESDA_NPO)にお寄せいただければ、できるかぎりお応えしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 
前回:エリートの自滅――問われるコミュニティブ・リーダーシップの真価(橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第9回)
 
こんにちは。橘です。7月末に無事に最終帰国をしました。さすが東京は蒸し暑いですね。出発直前の1週間は別送便の梱包や部屋の掃除、送別会でバタバタと余裕なく過ごしました。感慨に耽る暇はなかったのですが、オクスフォードのクラスメイトやロンドンで知り合った方々とは、また近いうちに会いましょうと言って少し長めのハグをしてきました。これは別れじゃない、これからが友情のスタートなのさ、などと自分に言い聞かせながら、寂しさはなるべく振り切って、今は家族や同僚との二年ぶりの再会の喜びに目を向けています。また、例によって疲労と時差ボケにも苦しんでいます。朝早く目が覚め、昼下がりには強烈な睡魔に襲われ、夜は眠れません。身体が日本の気候や生活習慣に馴染むのには、思うより時間がかかりそうです。
 
さて、日本に降り立ってまず感じたのは、街を走る自転車への恐怖です。イギリスでは自転車は歩道の走行が禁止されており車道を車線通りに走ります。しかし、日本では狭い歩道を自転車が対向して走ってきます。その上イヤホンをして片手でスマフォをいじりながら自転車を漕ぐ人もいますよね。イギリスの自転車ルールに慣れた神経では、この危なっかしさに少し気疲れします。
それから、やっぱり街全体に高齢者が多いなと感じました。ロンドンでは乳母車が溢れかえっていたことに比べると非常に対照的です。社会の活力維持という点ではやや心配な点もありますけれど、東京はロンドンよりも、かなりバリアフリーが進んでいると思いますし、アクティブな高齢者が楽にあちこち出かけられることはよいことだと思います。
 
このほかにも帰国して気がつく僕の内面の変化、日本の良さをあらためて感じた点、違和感を抱いたポイントなどは多々ありますが、それらについては、次回最終号にまとめてみたいと思います。今回は、ロンドンでの1年、オクスフォードでの1年を通じて得た学びを総括したいと思います。
 
僕は、イギリスに来たばかりの連載第1回において、

《僕は、「この人たちは、少しずるい気もするけど、戦略家、リアリストとして『センス』がいいのではないか」という印象を受けました。しかも、100年くらい全世界の制海権を握っていたということは、一時期に突出したリーダーがいたというだけではなくて、伝統的、集団的、組織的な形でそうしたセンスを共有していたのではないか》

 
と書いたように、イギリスの指導層の強さやうまさの秘密を学ぶことが大きなテーマでした。このうち「リアリストとしてのセンス」に関しては、ロンドンでの1年を終えた昨年の7月頃に「無戦略を可能にする5つの戦術」にまとめたとおりの結論を得ました。
 
「無戦略」を可能にする5つの「戦術」~イギリスの強さの正体~(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第11回) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.381 ☆
 
今回は、もうひとつの問題関心であった「伝統的、集団的、組織的」な「センスの共有方法」について、僕の観察結果を書いてみたいと思います。
 
前号に掲載した写真でおわかりのように、イギリスにはロイヤル・アスコットのような社交の場でシルクハットに燕尾服で特別席に居並ぶ人々に象徴される、「上流階級」が明確に存在しています。
 
エリートの自滅――問われるコミュニティブ・リーダーシップの真価(橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第9回)【毎月第1木曜日配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.637 ☆
 
彼等のような人々は日本社会ではなかなか目の当たりにしにくい存在なのですが、イギリスの上流階層は、ただ金持ちであるということ以上に、「特権」を持っています。特権とは、誰々しかどこそこに入れない、といった話が多く、結局のところ、「カネ・コネ・知識」を莫大に持っている人々との交流権を意味します。そして、巧妙にフィルターをかけて、既存メンバーにメリットを出せそうな人にはこの交流権を与えて取り込んでいくことで、閉鎖性を保ちながらもコミュニティの魅力をアップデートしているのです。
 

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