スマホゲームの時代 「パズドラ革命」は何を変えたか〜『なめこ栽培』『LINE POP』『パズル&ドラゴンズ』〜(中川大地の現代ゲーム全史) | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2016.03.09
  • 中川大地

スマホゲームの時代 「パズドラ革命」は何を変えたか〜『なめこ栽培』『LINE POP』『パズル&ドラゴンズ』〜(中川大地の現代ゲーム全史)

今朝のメルマガは『中川大地の現代ゲーム全史』をお届けします。今回は、スマートフォンの普及とともに起こったソーシャルゲーム市場の転換期を分析します。各ヒットタイトルの成功要因に触れつつ、徐々に成熟を始めた「スマホゲーム」をゲーム史のなかに位置付けます。


 

第11章 デジタルゲームをめぐる地殻変動/汎遊戯的世界への芽吹き
2010年代前半:〈拡張現実の時代〉本格期(4)

■「脱ソシャゲ」の潮流をとらえたネタ系スマホアプリ〜『なめこ栽培』『ぐんまのやぼう』

先述したように、『ドラゴンコレクション』や『探検ドリランド』など、モバゲーとグリーが主導したカードバトル型ソーシャルゲームの隆盛は、ニンテンドーDSのブーム期を上回るカジュアルなゲームユーザー層の拡大をもたらしたが、その勢いも登場からわずか2年弱ほどで陰りを見せ始めていく。日本国内のガラパゴス市場に特化したフィーチャーフォン上での操作に最適化されたそのゲームデザインが、スマートフォンの普及という大きな波に十全に対応しきれなかったことが、その主たる要因であった。
加えて、この手のゲームの課金手法として、クジ引き式で販売される数種類のアイテムカード等を全種類集めることによって別のレアアイテムが入手できるという「コンプリートガチャ」の仕組みが発展していたが、若年層の射幸心を煽り意図せぬ高額課金を招くなどのケースが頻発し、社会問題化する。このことを重く見た消費者庁は2012年5月、ソーシャルゲームにおけるコンプガチャを景品表示法に抵触すると発表したため、各社とも即座に同サービスの中止に追い込まれるに至る。
これにより、ガラケーでのソーシャルゲーム事業の大きな収益源が絶たれるとともに、特に従来型のパッケージゲームのファンなどに顕著だった「こんなアコギな商法はゲームの名に値しない」といったタイプの批判に拍車がかかり、〝ソーシャル〟の呼称を持つこのジャンルの社会的信用もまた大きく損われる事態となった。

そして国内でのモバイル通信環境の主流が次第にスマホへと移行する中、移ろいやすいカジュアル層の嗜好を掴み、最初に大規模なアプリゲームのブームを巻き起こしたタイトルが、『おさわり探偵 なめこ栽培キット』(ビーワークス 2011年)であった。本作は元々、タッチペンによる操作を特色としたニンテンドーDS向けのミステリーAVG『おさわり探偵 小沢里奈』(サクセス 2006年)のiOS移植版の発売に先駆け、同作に登場するマスコットキャラクターである「なめこ」をモチーフに据えた、プロモーション目的のスピンオフ作としてリリースされた無料アプリとして登場した。

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▲『おさわり探偵 なめこ栽培キット』(ビーワークス 2011年)(出典)

『なめこ栽培』のゲームとしての概要は、画面上に描かれた原木の上で、一定時間経つと自動的に増殖していく様々ななめこのキャラクターをひたすら収獲していくというだけの体験性に特化したものである。ここでスピンオフ元が持っていた触覚的なインターフェースがスマホのタッチスクリーンに置き換わり、収穫時に指でなめこを掻き取るように画面を撫でる動作の快楽演出に力点が置かれていたことで、本作は奇妙な中毒性を獲得する。脱力系のセンスで構築されたなめこ達の造形とも相まって口コミでの支持をじわじわと広げ、リリース後半年で500万ダウンロードを突破。定番アプリゲームとしての地位を確立し、ぬいぐるみなどのグッズも発売される人気キャラクターコンテンツとしても成功を果たすことになる。
それまでのモバイルゲームの脈絡を踏まえた場合の本作のヒットのポイントは、ゲームデザイン上は『サンシャイン牧場』などのファーム系ソシャゲの延長線上にありながら、プレイヤー同士が互いの農場に手入れをするような一切の〝ソーシャル〟な要素を持たなかったことであろう。加えて、他作のプロモーションアプリである関係上アイテム課金もなかったため、SNSプラットフォームで他者との競争や協調を押しつけがましく強いながら、どぎついエフェクトで商魂たくましく課金を煽ってくるカードバトル型ソシャゲの隆盛に辟易する人々が増えていた中で、『なめこ栽培』のユルさは格好のハマり方をしたわけである。

こうした非ソシャゲ的な脱力センスをさらに自覚的に押し進めることでコアな話題作となったのが、『ぐんまのやぼう』(RuckyGAMES 2012年)であった。元々はiPhoneアプリの愛好者であったブロガー・なちこが、テレビ番組で「知名度47位の群馬県」と自らの出身を答えた修学旅行生がいたことをTwitter上でつぶやいたのを契機に、同じく群馬出身であったアプリ開発者のRuckyGAMESが応答したことから、47都道府県のPRをするご当地アプリを自主制作しようという企画が立ち上がり、その筆頭作として開発されたのが本作である。
ゲームとしての概要は、『なめこ栽培』と同様、まず群馬県の白地図上に一定時間経過すると生えてくる特産品のネギ、コンニャク、キャベツをタッチすることで「しゅうかく」することを中心に、いくつかの手段で「G(GUNMA)」と呼ばれるポイントを貯めていく。そして貯まったGを消費することで、日本地図上で近接する県を群馬が「せいあつ」するというモードを進め、群馬県による全国支配を目指すというものだ。そうしたファーム系と国盗りSLGを合わせたようなゲームデザインを、子供の落書きのような手描き風のグラフィックやUI、「しゅうかく」時の「グンマグンマー」という気の抜けるようなSE等、群馬県民が感じている垢抜けなさの自認を逆手に取った意匠で演出することで、『ぐんまのやぼう』は基本的に自虐的な脱力センスで構成されている。
ただし、アプリのバージョンアップが進み、制圧の対象が日本全国のみならず世界や宇宙へと拡大していく中で、一箇所だけ他のゲームモードとは一線を画す妙に〝キリッとした〟UIデザインで追加導入された趣向に、「がちゃ」モードがある。その名の通りこれは、平成の大合併以前の群馬県内の市町村が象られたカードがクジ引き方式で入手できるというもので、合併対象となった市町村をすべて集めると合併後の新市町村名カードがもらえるという、典型的なカードコレクション系ソシャゲのコンプガチャの仕組みと演出を模したものであった。これを、先述した消費者庁による規制の表明を受けてソシャゲのプラットフォーマーたちが一斉にコンプガチャから撤退した直後、「話題のコンプリートガチャは5月末で大体終わりましたが、ぐんまのやぼうは6月1日よりコンプリートガチャを採用しました」といった人を食ったプレスリリースとともに、ぬけぬけと実装してみせたのである。もっとも、本作における「がちゃ」でクジ引き時に消費されるのはゲーム内ポイントのGだけなので一切の課金要素はないため、元より景表法適用の埒外にある中での諧謔であった。

■LINEゲームと『パズドラ』がもたらした〝ゲーム回帰〟

このように、スマホでの国内アプリゲームの勃興は、ガラケーSNSで培われたゲームデザインやノウハウを継承しながら、そのビジネスモデルに対する、ユーザーと開発者双方が共有するどこか批判的な意識を反映するかたちで、ゲリラ的に始まっていたと言える。
一方で、ガラケー時代に培われた日本的なコミュニケーション様式をスマホ上に置き換え、代替となる新たなプラットフォームビジネスを展開しようという動きも、東日本大震災時に家族との連絡手段を確保しようとした人々のニーズの顕在化を背景に、同時並行的に進行していた。その立役者となったのが、NHN Japan(現:LINE)社が11年6月から提供を開始したメッセージアプリサービス「LINE」に他ならない。LINEのサービス内容は、アプリをインストールしたスマートフォンやフィーチャーフォン、パソコンといった端末間で、相互認証したユーザー同士がテキストメッセージによるグループトークや無料の音声通話がインターネット回線を通じて行えるというものだが、携帯電話端末の電話帳データをサーチし、電話番号登録のある他のアプリユーザーを相互にメッセージ交換可能なアカウントの候補として自動的に提示してくる点に特徴がある。つまり「もともと電話番号を交換し合っているリアルな知り合い同士なら『友だち』で問題なかろう」という考え方のもと、最終認証の確認だけを求めるという方式で、相手の積極的な探索が必要な従来のSNSに比べて、ソーシャルグラフの形成コストを極端に下げたのである。
これによりLINEは、ガラケーから移行したばかりの国内のスマホユーザーが即座に親しい仲間たちのネットワークに加入することのできる標準ツールとしての性格を獲得し、12年までには必須のコミュニケーションインフラとして爆発的な普及を果たすことになる。

LINEの普及を大きく後押しした要因として、ちょうどガラケー時代のiモードにおける絵文字の導入に相当するようなデコレーション機能として、テキストメッセージの中に様々な感情表現を伴うキャラクターイラストなどを任意に選択して挿し挟むことのできる「スタンプ」の存在が挙げられる。NHN社内の韓国人デザイナーがデザインした、表情豊かで丸顔の「ムーン」や無表情な熊「ブラウン」といったキャラクターたちが彩る公式スタンプの中には、単純な喜怒哀楽に留まらず、かなり毒気の強い嘲笑や僻みをコミカルに処理した表情や、一見すると何を伝えたいのかわからないシュールなシチュエーションのパターンも数多く含まれていた点が特徴的だ。いわば2ちゃんねる掲示板などで培われてきたAA(アスキーアート)の文脈にも通じる、本音主義的かつ微妙な機微をもった空気を演出することのできるハイコンテクストなニュアンス表現が、広範な人々の身内世間の醸成ツールとして標準化され、最新テクノロジーデバイス上に実装されるに至ったわけである。
このようにスタンプの販売を基礎的なマネタイズ源として、コミュニティインフラとしての足固めに成功したLINEは、12年7月より、いよいよ他社の参入も含めた連携アプリによるコンテンツプラットフォーマーとしてのビジネスを開始する。その主力カテゴリー「LINE Game」としてラインナップされたカジュアルゲーム群のうち、とりわけ多くのユーザーを獲得した初期タイトルが、自社開発の『LINE POP 〜ブラウンのクッキー〜』である。

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▲『LINE POP 〜ブラウンのクッキー〜 』(LINE 2012年)(出典)

本作は、スタンプで定着したブラウンをはじめとするLINEキャラクターたちを象った7種類のクッキー(ブロック)が7×7のマス目に敷き詰められている中、任意のクッキーをタッチスクリーン上での接触操作で上下左右に1マスだけ動かして隣接するクッキーと入れ替え、同じクッキーが3つ以上並ぶようにすると、並べたクッキーが消えて得点になるという、3マッチパズルと呼ばれるタイプのアクションパズルの一種にあたる。
3マッチパズルは、『コラムス』『ぷよぷよ』などの連鎖型の落ちものパズルの派生形とも言えるサブジャンルで、PCブラウザゲーム『Diamond Mine(Bejeweled)』(PopCap Games 2001年)で基本的なルールが確立され、敷き詰められたブロックを直接操作しやすいタッチパネル型の操作系に適したカジュアルゲームとしてiOSやAndroid向けにも様々な類似タイトルがリリースされていた。『LINE POP』は直接的には、LINEに先行する韓国の同様のメッセンジャーアプリ「カカオトーク」の連携アプリとしてリリースされ人気を博していた『Anipang』(カカオ 2012年)の追随作であり、1分間の時間制限や4つ以上ブロックを消した場合のボーナスブロックの出現等々の細部に至るシステムまでをほぼ丸ごと引き写したゲームである。

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