インターネットの理想はIoTでこそ実現される? 落合陽一 meets DMM.make AKIBA(第1回ゲスト:小笠原治・前編) | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2015.12.10
  • DMM.make AKIBA,小笠原治,落合陽一,魔法使いの研究室

インターネットの理想はIoTでこそ実現される? 落合陽一 meets DMM.make AKIBA(第1回ゲスト:小笠原治・前編)

ネットでもリアル書店でも話題沸騰中の落合陽一さんの著書『魔法の世紀』。本の内容をさらにフォローアップすべく、PLANETSメルマガでは落合さん出演のイベントや記事を連続で無料公開していきます!
第1弾となる今回は、日本のメイカーズムーブメントの拠点「DMM.make AKIBA(以下make)」で行われた、makeの前プロデューサーで現在はエヴァンジェリストとして活動中の小笠原治さんとの対談イベントの様子をお届けします。『魔法の世紀』で詳細に語られることのなかった、「IoT(Internet of Things=モノのインターネット)」を取り巻く日本特有の状況とは? 本記事の後編は今週土曜に公開予定ですので、そちらもお楽しみに!


■ 小笠原さんの自己紹介

落合:まずは小笠原さんの自己紹介をお願いします。

小笠原:では、ざっくりとしましょうか。
ウィンドウズ95が出た頃に、「さくらインターネット」というデータセンターをやっていたんです。と言っても、当時はまだデータセンターなんて言葉もなくて、仲間と「日本のインターネットを安くして、自由に使える環境を作ろうぜ」と始めました。

落合:その前はどんなことをしていたんですか?

小笠原:僕は、大学には行ってなくて、建築関係の商売をしてたんです。

その頃、タイからCAD(注1)のデータをどう送ったらいいかという話があって、現地の人に見本の図面を書いてもらって、そのデータを取るためにいち早くインターネットを使ったんです。TCP/IPの実験をするという話でもあったんですよ。でも、当時の速度って9600bpsとかで、今から見るとどうしようもないんです。建築の図面って何百枚もあるしね。

そういう状況の中で立ち上げたさくらインターネットが回りだしてからは、今度はiモードのサイトを作る仕事をしたりしてました。
それで一度大きく儲けたので、しばらく仕事はやめてたのですが、4、5年前から小さなバーを経営し始めたんですよ。そこに若手のエンジニアが来るようになって、彼らの話を聞いているうちに投資をするようになりました。そのうち、ちゃんとやるなら仕事にした方がいいなと思って、abbalab(アバラボ)という会社を作ったんですよ。

このabbalabというのは「Atom to Bit」(原子から電子へ)と「Bit to Atom」(電子から原子へ)の略です。この50年くらいは「Atom to Bit」――つまり、物質がデジタルに向かうという動きがあって、その振り子の反動として、近年「Bit to Atom」の動きが生まれてきた。そういう世界観で、その流れに投資するためのプログラムを、僕と孫泰蔵氏の2人でやっています。

(注1)CAD:2次元、3次元のものをコンピュータによって製図するシステム、ないしソフトウェアのこと。機械や建築物の設計など、それぞれの用途に応じて様々なソフトウェアが使用されている。

落合:このDMM.make AKIBAも小笠原さんの作った施設ですよね。

小笠原:亀山さん(DMM.comの亀山敬司会長)には騙されたってよく言われますね(笑)。でも、やっぱりモノづくりでは、お金の問題は2番目か3番目くらいには重要なことなんですよ。こういう大きな設備があるのはいいことだと思います。

基本的にはプロトタイピングをしたいと思ったら、僕らに相談してもらって、100万円~1000万円くらいの幅でプロトタイプの資金を投資したり、貸したりするんですよ。そのあと、さらにイケそうだったら、クラウドファンディングや他の資金調達の手段で、実際にそれを世に出すかを決めるんですね。

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▲handiii

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▲オルフェ
どちらもDMM.AKIBAから生まれた、自分の体の動きで表現を作るデバイス。「これ、クラウドファンディングで一番最初に買ったのは僕ですよ」(落合氏)

ただ、この8月からはDMM.makeのプロデューサーを辞めて、エヴァンジェリストとして広報活動をしていくようになりました。一方で、先ほど言ったさくらインターネットに出戻って、インターネットサイドでIoT向けのことをやろうかなと思っているんですよ。
やっぱり、ハードをやっている人は、「もう嫌いなのかな」というくらいに、ネットに疎いじゃないですか。

落合:間違いなく、そうですね。ソフトウェアセンスのあるハードウェアエンジニアがいなすぎるんですよ。CNC(注2)をやる「やる気」の10%くらいはJavascriptにかけてくれればもっとすごいやつになるのに…みたいな人がいるでしょう。

(注2)CNC:機械工作において工具の移動量や移動速度などをコンピュータによって数値で制御すること。多くの工作機械で採用されている。3Dプリンタが主に樹脂系のものを素材とするのに対し、CNCの場合は金属、樹脂、木材など様々な素材を切削・加工できる。

小笠原:でも、CNCを嬉しそうに触っている顔を見るとついつい言えなかったり……(苦笑)。

本当にソフト・ネット・ハードの断絶感って、半端ないでしょう。それを全部できる人って、僕はほとんど出会ったことがないんです。

落合:まあ、その逆に、フロントエンドばかり書いてないでFPGA書いたりCNCいじれよ、みたいな人もいるんですけど。しかも、さらにそこにくわえて物理のセンスなんて言い出したら100%いないですよね。

うーん、だから、それを実現するためには人間性を捧げて成功体験をするしかないんですよ(笑)。
僕がいま筑波大学でやってるデジタルネイチャー研究室は、24時間楽しく頭を使える人で、心が折れない人をたくさん育てる研究室にしたいんです。ソフトでコンピュータービジョンのプログラムを書いているのかと思ったら、被験者実験のデータづけ始めて、論文英語書きながら図を書いて、ハードウェアをガリガリと組みながら、なんとか締め切りに間に合わせられる人材。大体、3ヶ月~半年に1本くらいは何か世界がびっくりするようなアイデアを書いていけるくらいスピード感で生きられる学部生をどれだけ育てられるか、ですね。

そういうのを、これから3年で50人くらいを僕が野に放流すれば、スタートアップ50社くらいはうまくいくと信じてますね。

小笠原:ちょっとお金を出してしまいそうになりますね。おたくの学生さんを早めに紹介してください(笑)。

実際、そういうことを学校でやってくれると嬉しいんですよ。企業では絶対に「ブラック企業かよ」とか言われてしまうでしょ。ちなみに、僕はもう最近ネット業界にすらあんまり投資しなくなりましたから。理由は、ネット業界が急成長して儲かりだして、怠け者ばかりになったからですね。

落合:論文って、別に書いても一円の金にもならないんですけど、胆力だけは死ぬほど身に付くんです。だから、研究したい人が3~5年うちに来れば、猛烈な人間になれると思います。実際、僕も24時間応対しますからね。楽しく合宿とかもやるし、僕自身が自分のスケジュールがわからなくなるくらいの状態になってますけどね。

■ 日本を変えるには理系の金持ちが30人いればいい

落合:最近、僕が考えてるのは、日本に3000人くらいの理系の金持ちがいれば、日本でもテクノロジーベンチャーは上手くいくはずだということなんです。

結局、高度経済成長期にお金持ちになった人はごく少数の元から超すごい人か、その他は文系の人とか良い家の人でしかなくて、変なものに投資する気概がある人はすごく少ないんです。大学の先生は大学の先生で、日本の場合は商売っ気がない。MITの先生なんて「スポンサー集めしかしてなくないか?」みたいな人がいるのにね。でも、理系の金持ちを1000人単位で作って、10億円くらいの資産をもたせれば、2億円くらいは投資に回してくると思うんです。

実際、70年代のシリコンバレーでインテルが伸びた頃に、そういう理系キャリアパスの人がいっぱいいて、彼らが投資したおかげで、80年代から90年代にかけてシリコンバレーは爆発的に成長したんです。

小笠原:逆に、金持ちが理系の勉強をするのは無理なんですか?

落合:理系の勉強って、やっぱり5〜7年はかかってしまうんですよ。もちろん、金持ちが大学に入り直して技術を身につけるというのは超かっこいいと思うんですけど、やっぱり一度お金を手に入れると、それで時間を買うようになるし怠けますよね(笑)。

小笠原:まあ、お金持ちになった人間は、すぐショートカットしようとするようになるからね。じゃあ、できるだけ若いうちに金持ちにさせるしかないですね。

ただ、僕が気になるのは、日本の大きなメーカーが、いわゆるインディーズメーカーみたいなスタートアップを買収しないことなんですよ。別に僕はシリコンバレーが良いとはまったく思ってないし、アメリカが好きとかいうこともないんですよ。
ただ、先行してるメガベンチャーが伸びてきた後発の芽を摘むくらいの勢いで買い取っていくのは、唯一いいなと思うんです。だって、それによってまた新たに金持ちが生まれて、新たに投資が生まれてくるでしょう。

落合:あれは逆に言うと超よい習慣で、大手に食べられちゃったら、もう辞められるわけじゃないですか。辞められないというのが、実は問題ですからね。大手の企業がインキュベーションファンドになってくれれば良いんですけどね。なんでオープンイノベーションをやらないのかな、と思うんですよ。

小笠原:ほとんどない。オープンとまで言わなくても、近いのがソニーのキュリオくらいじゃないかな。でも、あれも投資会社のWiL側から社長を出して、ソニーサイドに誰も責任を取る人が生まれなくていいという仕組みを作って、やっと成立したものですからね。

落合:しかも、あそこの社内にイケてるベンチャー企業を連れて行って、これで「逆買い取り」しませんかとお膳立てしなきゃいけないとか、僕はもう末期だと思うんですよ。

結局、日本の企業は社内で育てたカルチャーを否定されたくないんだと思います。
僕、初めて車系会社の社内を見に行ったときに、これは『1984』の映画なのかと思いましたからね(笑)。日本の車メーカーのことは大好きで、大学研究にスポンサーもしてくれているのですが、本当に全員が全く同じ食堂で、二部制くらいに分かれて、だいたい同じカートの縁に乗って食事をするんです。

小笠原:そういう人間の能力の差があまり活きない作業に社員を押し込めると、「ロボットで良いじゃん」という話の最たるものになっていくと思うんです。

落合:しかしながら車みたいに究極に部品点数が多いところでは、どうやったら社内に優秀で、みんなの品質が揃ったチームワークを作るのかが最も重要になるんですよ。だから、あれは日本風美学の最大到達点なのであって、日本の車系メーカーが死んだときに、戦後日本のサラリーマン文化は本当に死ぬことになるんだと思います。

ただ、電機メーカーやソフトウェアメーカーでは、とうにそのやり方が通用する時代は終わってますよね。マイクロソフトなんてエンジニアの社員に個室を与えていて、個人主義の発想なんです。こっちの方では、むしろ人間ひとりひとりの性質を揃えないほうが強くなるんですよ。

小笠原:日本でそういう働き方を徹底している会社は、ほとんど見たことないですね。

落合:今日、個室持ちのサラリーマンエンジニアの方っています?

(挙手なし)

いないでしょう。そりゃCNCをみんなでやったら危険性も考えながら設備管理しないとダメですけど、ソフトはそういう世界ではないですからね。

小笠原:なんでも作れちゃうからね(笑)。ちなみに、落合くんに近い年代では、研究も開発も事業もやってる人はいるの?

落合:近い年代だと、暦本(純一)研の4、5個上の先輩に玉城さんという、手に電気流す研究をしている人がいますけど、まあ大体の人はどれかが欠けてますね。
一番いいのは、海外で自分のバリューがどこにあるかを問われつつ働くことなんですけどね。日本の場合は、3人くらいのベンチャーを始めて社長をやると、とりあえず何でもできないとまずいから……みたいな状態になっちゃうんですよ。スペシャリティを見つけるっていうよりは「家事もできます」みたいな話が重要になるとかね(笑)。

小笠原:「事業以外のことなら、なんでもできます!」みたいなね。

落合:一番良いのはたぶんビザの制限をもうちょっと甘くして、海外で働く経験を増やしてあげるとかですかね。あと、未踏事業みたいな経産省がやってるプロジェクトに海外から流入するコストを下げるとか。

小笠原:でも、そういう支援系が上手くいったのを見たことがないですよ。

落合:僕も、あまりないですね。だってGunosyなんて、採択されたときにはもうコンセプトとか出来てましたから。でも成功したのはもっとマスに受けるための工夫をひたすら詰め込んで行ったから。
こんなこと言ったら怒られそうですけど、官庁がやってるとだいたいそこそこの出来になるものを見込む「出来レース」のものが多いので、採択された時点である程度上手くいく未来が見えているんです(笑)。

■ IoTの可能性について

小笠原:ちょっと話は変わるのですが、IoTという言葉に「サムいな」って思ってたりしてません?

落合:思ってます(笑)。いや、Thingsって言葉が良くないですよね。あれ、本質はデータや空間や経験じゃないですか。

小笠原:最初に言い出したのは、シスコなんですよ。まあ、僕は言う側なんで、恥ずかしくても、バズワードであろうと、俺は言い続けると決めたんですよ。でも、本当はIoTというよりIoE、つまり“Internet of Everything”でいいと思ってます。
僕はずっとインターネットに関わってきたから、インターネットという言葉をどんどん拡大していきたいんです。そうなると、すべての物事であり、事象すべててがインターネットに繋がっていくということでいいと思うんですよ。

落合:僕の場合は、インターネットはもうネイチャーそのものだと思っていて、だからこそデジタルネイチャーという言葉を作ったんですよ。だから、その自然観というのは、モノのインターネットなんてものじゃなくて、むしろ逆にインターネットを自然に含もうという感じです。

小笠原:さっきも言ったように、僕はインターネットを拡大解釈したくてしたくてしょうがないんですよ。インターなネットワークならば、なんでもそうだって言い切りたいくらいの気持ちがあるんです。

落合:個人的には、インターネットよりも「イーサネット」という言葉のほうが良いと思いますけどね。だって、エーテルですからね。昔、電磁波が伝わるためにはエーテルという媒質が必要だと昔の人は思っていたこんですけど、イーサネットはまさに「ethernet」ですからね。

ちなみに、僕は博論が「Graphics by Acoustic Computational field」というタイトルなんです。僕はコンピューテイショナルな場をどうやって作るのかをテーマにしてたんだけど、ヨーロッパのアーティストと話してたら「コンピューテイショナル・エーテル」の方がよかったんじゃないの、と言われたんです。いや、まさに僕がやりたかったことはエーテルを作ることそのもので……とすれば、どうやって僕たちは否定されたものを再定義することで、人間生活をアップデートできるのかが重要になるんです。

小笠原:再定義、再発明……僕がすごく好きなキーワードがいっぱい出てきてます(笑)。

IoTも何かの再発明のキッカケになるものだと思うんです。よく開発サイドは、「車輪の再発明」を嫌がるでしょう。僕は、それをひっくり返したいんですよ。

だって、発明というのは、結局のところその当時分かったことをベースに作ったものでしかない。でも、インターなネットワークで繋がったときには、また僕らが知らない世界との相関とかが生まれてくるはずで、それをベースに再発明をしていけるはずなんです。

落合:完全に同意しますね。
結局、あと100年の勝負は、グーテンベルクの活版印刷以降のあらゆる二次元の生成物をどうやって三次元に再発明できるかなんですよ。

でも、そのときに不必要だと思うものが3つあるんです。それは、一つは重力、もう一つはゲート、最後はつなぎ目です。

まず、重力があるからこそ、俺たちは机のところに座って、目線を合わせて共通の土台の上で話をするわけですよ。もし重力がなければ、目線を合わせるのにそうする必要はないですよね。それに、富野由悠季監督的に言えば(笑)、重力さえ無ければ僕たちは脳から汁が出てきて、やがて形も変えるし、精神で重力波を打てるような身体に生まれ変わっていく…というようなアニメだと思うんですよねガンダムって。
でも、そこまで行かなくても、たぶん何か価値観は変わるんですよ。ホバーボードが表面からちょっと浮くだけだけでも、きっと価値観だって変わるし、一人乗りのドローンができるようになったら色んな話だって変わっていく。

もうひとつは扉、ゲートですね。
たぶん、古代に石ころの小銭を転がして、物質と価値を交換するようになった頃には、買い物のときには誰かの前に並んだり、チェックしてもらうことが必要になっていたはずです。そのとき、扉は必要になってくる。
あるいは、現代のコンピュータ技術であれば、駅から降りて改札を通らなくても勝手に決済してくれて、好きな場所に行けますよね。お店で物を買うときだって、レジで店員に見せなくても、自動的に決済できるようになるはずなんです。

もちろん、実際には小学校や会社でも教師や上司に自分の通学や通勤を確認してもらわないといけない。僕達の秩序は、あらゆるゲートを生活空間に置くことで守られてきたんです。そして、実はこのゲートによる確認作業によって、都市や建物の構造、ひいては僕たちの精神構造が決定されてるんです。もし、あれを全てコンピュータが担保すれば、人間からは何かをくぐるアナロジーで生きていく必要がなくなるんです。
だから、僕は扉やゲートという概念がすごく嫌いなんです。コンピュータによって「理路整然たるカオス」が実現されて、誰が何をやってるかをもっと把握できる社会になれば、むしろもっとカオティックになって、こういう概念は不要になっていくはずなんです。

最後の一つは、つなぎ目です。生き物にはつなぎ目がないのに工業製品には多すぎるんです。本当にイヤになりますよね、3Dプリンターが出てきたときには、これだと思ったんですけどね。

小笠原:まだまだでしたねえ。

落合:ジョイントをマテリアルにあらかじめ組み込めれば、生物と区別が付かなくなるはずなんです。だって、皆さんガラスだけで出来た家は見たことないでしょ? 必ず金属の蝶番が付いていて、ダッサダサですよね。木だけで作った家はあるのに、ガラスで作った家とかが無いのは、要はプリンティングできないからにすぎないですよ。木は生物だから、ある程度まで変な構造を作れるのだけど、鉄やガラスではそれが難しい。

この3つは、僕が40歳になるまでになんとかしたいものですね。

小笠原:つなぎ目が無くて、扉も無くて、重力の縛りがない家、だよね。

落合:そんな家があれば最高ですよね。ガラスチューブみたいなものが円筒形で宙に浮いてて、中でガンダムMK-ⅱとかが攻め込んで来て戦うんです(笑)。そういう重力構造に支配されない構造体に興味があるし、そういう精神性にどうたどり着くかを考えたいんです。

小笠原:ゲートの話はすごく分かりやすいですね。
だって、せっかくインターネットがそっちの方向に振ったのに、アフェリエイトみたいに間に入る人が生まれてきてしまったじゃないですか。あれはあれで気持ち悪いんですよ。

落合:あいつら、何なんでしょうね。

なんか僕、鯨(くじら)みたいな生き物がたぶん必要だと思うんです。鯨はオキアミばかり食って動いてるんだけど、あのロジックの巨大アフェリエイターみたいのがいていいはずなんです。そのときに、海がプラットフォームなのか、鯨がプラットフォームなのかは、俺の中で生物のアナロジーで捉えきれてないんですけど。

小笠原:……えっと、お客さん、ついてきてますよね? 大丈夫ですよね(笑)?

落合:要は、鯨がAmazonなのか、海がAmazonなのか、という話なんですけど(笑)。

アフィリエイターって、オキアミ程度にしかお金が食えていないけど、オキアミを食っている生き物は動物プランクトンくらいの小さいサイズのヤツもいれば、鯨みたいな大きいヤツもいるんです。明らかに異なった生態系の連中が同一種の上に生きているわけじゃないですか。
でも、それをかっさらっていくのがGoogleのようなプラットフォームなのか、それとも巨大なアフェリエイターのような連中なのかは、全く分からないんですけどね。ただ、プラットフォームを売ってる側と、そのプラットフォームに乗ってる側の区別がやがてつかなくなる未来はぼんやりと見えていますね。

つまり、クジラって、口を開けるだけで、オキアミが流れ込んできて生きてるわけですよ。で、加速すれば加速するだけ食える。インターネットも同じようなもので、オキアミみたいなピースのマネーをいかに大きな流量に乗せて、自分の体を大きくしていくかをやってるわけですよ。その中で、アフィリエイターって、どこのポジションなのかはナゾですよね。オキアミを食ってるクラゲかもしれない(笑)。

小笠原:会場、大丈夫ですかね(笑)

落合:まあ(笑)、でもこういうアフィリエイターのような中間層の登場って、ゲートを作る発想そのものだし、ホワイトカラーと資本主義の本質的な問題点なんですよ。実際、いま中間業者って、めっちゃいるじゃないですか。例えば、ちょっと前にペニーオークションってありましたよね。

小笠原:DMMが一瞬で撤退しましたけれども。

落合:あのペニオクって、実は儲けている側はサービスを提供しているわけじゃなくてペニオクエンジンを配って儲けてるだけじゃないですか。ペニーオークション業者があったわけじゃないんですよ。

その意味では、クラウドファンディングは好きなんですけど、本質的には不要ですよね。中間業者でしかない。だって、クラウドファンディングも本質的にはツールがありさえすればいいはずなんです。でも、なぜか業者が必要になる現実はあって、それはインターネットに信用の担保機関がないからだと思うんです。

小笠原:まあ、日本はインターネットのサービスにそこまで信用置いてない気はしますね。額の桁を見ても。

落合:別にああいうサービスを使わなくても、アイスバケツチャレンジみたいにお金が集まってくるじゃないですか。クラウドファンディングがゲートとして18%とか20%くらい取るけど、本当はそこは不要なんですよ。

小笠原:ゲートになっちゃいましたよね。僕は、ああいうサービスに権威性を持たせるのが嫌なんですよ。この間、tmixというTシャツを作るサイトに出資したときに、海外で事例を探したら、ドネーションTシャツというのがメチャクチャ流行ってるんです。
例えば、誰か有名人が亡くなったとして、その遺族にお金を残してあげるために「RIP誰それ」みたいなシャツを作るんです。その会社、もう2年で売り上げが60億あるんですよ。いやもう、これなんて完全に中間搾取でしょ。やっすいTシャツにUVプリンターかなんかで印刷して、誰かが死ぬたびに40〜50%のお金を抜いてるわけですよ。

落合:本当は全員がその価値観にもとづいてkinko’sに発注すればオシマイですよね。

小笠原:単にそういう事業者がいればいいだけなのに、なぜ間に入るのか。インターネットでは間を抜いて急成長する人たちが生まれてきたのに、間に入ることで恩恵にあずかろうとするパターンが増えてきて、あんまり面白くないんです。

落合:中間業者を抜いて世界を開放してきたはずが、開放した部分に中間業者が乗ることで、市場を増やしたという状況ですよね(笑)。


 

小笠原治(おがさはら・おさむ)
1971年京都府京都市生まれ。株式会社nomad 代表取締役、株式会社ABBALab 代表取締役。awabar、breaq、NEWSBASE、fabbit等のオーナー、経済産業省新ものづくり研究会の委員等も。さくらインターネット株式会社の共同ファウンダーを経て、モバイルコンテンツ及び決済事業を行なう株式会社ネプロアイティにて代表取締役。2006年よりWiFiのアクセスポイントの設置・運営を行う株式会社クラスト代表。2011年に同社代表を退き、株式会社nomadを設立。シード投資やシェアスペースの運営などのスタートアップ支援事業を軸に活動。2013年より投資プログラムを法人化、株式会社ABBALabとしてプロトタイピングへの投資を開始。

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