【新連載】前田裕二『仮想ライブ文化創造試論 ―“n”中心の体験設計―』 第1回 LINEの重さとインスタの「軽重」均衡。有史以来初めて、“なぜ人に喋りたくなるのか”が問われている | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2018.08.01

【新連載】前田裕二『仮想ライブ文化創造試論 ―“n”中心の体験設計―』 第1回 LINEの重さとインスタの「軽重」均衡。有史以来初めて、“なぜ人に喋りたくなるのか”が問われている

今月から「SHOWROOM」を率いる前田裕二さんの連載「仮想ライブ文化創造試論 ―“n”中心の体験設計―」が始まります。第1回では、1対nの空間でありながら1対1を感じさせ承認欲求を充足させるSHOWROOMの構造を紐解きながら、バブル期のテレビ村の内輪ネタの欲望を回収したLINEやInstagramと、そのことによって可視化された「人が人に話したくなる欲望」について考えます。(構成:長谷川リョー)

1対1幻想を最大化する、n数はまだ検証の余地がある

宇野 前田さんの「SHOWROOM」は一般的には中国のライブ配信系サービスを日本向けにローカライズしたものだと考えられていると思うんです。その理解自体は間違ってない。ただ、重要なのはその背景にあるもっと大きな変化のはずです。
つまり、インターネット以降に人間が何に心を動かされるのか、というレベルでの変化ですね。それはたとえば「〈モノ〉から〈コト〉へ」の、あるいは「〈他人の物語〉から〈自分の物語〉へ」の変化です。量産可能な〈モノ〉やコピー可能なデータ(テキスト、音声、映像)の所有ではなく、量産もコピーもできない自分だけの〈体験〉のシェアに人々の関心が確実に移動しています。同じように、紙の上やモニターの中の〈他人の物語〉に感情移入するよりも、やはり自分だけの体験をSNSで発信することのほうが相対的に楽しいと考える人が多くなっています。
そして僕の理解では前田裕二というプレイヤーはこの変化にもっとも敏感であるがゆえに、中国のライブ配信サービスに、その最先端を見たわけです。それを独自に変化した芸能文化があるコンテンツガラパゴス大国・日本にローカライズする中で、様々な実験を繰り返し、もっとも洗練されたライブ配信サービスの展開を目論んでいる。この連載ではビジネス的な展望や戦略ではなく、文化論としてのSHOWROOMに迫りたいと思っています。

前田 ありがとうございます。文化論としてのSHOWROOMやライブ配信現象を議論する上で、まずはその前提となるユーザーインターフェース(UI)設計、およびUIがもたらすコミュニケーション体験についてご説明した方が良さそうです。

宇野 では、初回はSHOWROOMがこだわっているインターフェースの話からはじめたいと思います。SHOWROOMは一見1対n(演者とオーディエンス)の環境を提供しているサービスに見えるけれど実際は1対1の集合の構造になっている気がします。

前田  おっしゃる通り、SHOWROOMは仮想空間上に「1対1の集合」環境を作り出しています。もちろん、同一コンテンツを数万人が同時に視聴することもあるので実際には1対nであるわけですが、ユーザーの実感として、極めて1対1を感じやすい設計になっています。演者がいなくなったあとはn対nにコミュニケーションの流れが移り、ユーザー同士、横の繋がりで盛り上がったりします。この、「実際は1対nだけど何故か1対1を感じる」構造は、ラジオにも似ていると思います。イヤホンをつけてラジオを聞いていると、例えば、パーソナリティの方が自分に語りかけてくれるような感じがするのと同じです。本来は偶像的で手の届かない存在が、ラジオを通じて身近に感じられる。それによってファンの深度が加速する。こうしたギミックがうまく効いているのがラジオですが、SHOWROOMでもそれと同様の事が起こっています。

宇野  前田さんは時代の流れがどんどん1対1の欲望に向かっていると捉えているからこそ、それをより強くドライブするため、戦略的にあえてギャラリーを置いてインターフェースも1対nに少し戻しているということですね。

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