「2.5次元って、何?」――テニミュからペダステまで、「2.5次元演劇」の歴史とその魅力を徹底解説(PLANETSアーカイブス) | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2018.08.14
  • 2.5次元,PLANETSアーカイブス,丸山緑

「2.5次元って、何?」――テニミュからペダステまで、「2.5次元演劇」の歴史とその魅力を徹底解説(PLANETSアーカイブス)

今朝のPLANETSアーカイブスは、「2.5次元演劇」の誕生から定着までを見守ってきた編集者・真山緑さんのインタビューです。2010年代以降に顕在化した「テニミュ」「ペダステ」ブームの背景にある歴史や文脈を辿りながら、新しい演劇文化としての「2.5次元」の魅力について、お話を伺いました。(聞き手:編集部)
※この記事は2015年2月26日に配信した記事の再配信です。
※インタビュー内容は、2015年当時の状況に基づいたものです。

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Amazon.co.jp:『舞台「弱虫ペダル」インターハイ篇 The First Result2014』
■ 2.5次元って、何?
――今回は、このところ話題になっている「2.5次元舞台」について、真山さんに解説をお願いできればと思います。まず2.5次元という概念についてお聞きしたいですが、そもそも「2.5次元」という言い方が定着したのはここ数年ですよね?

 

真山 そうですね。あくまで私が劇場に足を運んでいた体感的なところとデータから見たものでお話しますが、2012年あたりから……だと思います。その前にまず単語として説明すると、2.5次元というのは、マンガ・アニメ・ゲームが原作のものを舞台化――つまり2次元のものを3次元化したからその間をとって2.5次元、という認識でいいと思います。
元々キャラ性の強い特撮作品や声優さんたちに対しても「2.5次元」という言葉は使われてきていましたが、ここ数年で一気に舞台化作品が増えメディアで紹介されたり、昨年「日本2.5次元ミュージカル協会」という組織ができたりしたこともあり、そういった舞台作品を総称して「2.5次元」舞台というジャンルで捉える動きが出てきています。

 

――2.5次元ブームというと、やはり『ミュージカル・テニスの王子様』(以下『テニミュ』)から『舞台・弱虫ペダル』(以下『ペダル』)の流れを中心に広がっている印象ですが、作品としてはやはり女性向けのものがメインなんですか?

 

真山 観劇に足を運ぶ層に女性が多いのもあって過去の舞台化作品を見ても、女性ファンが多い作品が選ばれることが多いです。実は、ここ数年で作品数自体も相当増えていて、私は「PORCh」というテニミュを中心とした評論のZINE(=自主制作・自主流通の同人誌のこと)を作っているのですが、2012年に「おいでよ!2.5次元」という特集をしました。これを出した理由は、観劇に行く中で「最近、急に2.5次元作品が増えたよね」と体感したことなんです。「日本2.5次元ミュージカル協会」の資料をみると、数字的にも2011年は30作品以下だったのに対し、2012年は60作品を超える形で、2011年から2012年にかけて爆発的に作品数が増えたのがわかります。

 

――震災後に爆発的に増えているわけですね。

 

真山 2011年がちょうど『テニミュ』の2ndシーズンが始まった年で、2012年は『ペダル』のシリーズ初演と、乙女ゲームの人気作の舞台化『ミュージカル薄桜鬼』(=薄ミュ)シリーズの初演と、『テニミュ』の関東立海公演――これは『テニミュ』のシリーズとして後半戦に入る直前の盛り上がる公演です――その三つが重なって観劇に行くお客さん自体も増えたように思います。2011年から2012年にかけては、動員数も60万人以下から120万人規模とほぼ倍に増えていることが協会の資料からもわかります。

 

―― 一気に2倍以上になってるんですね。

 

真山 資料には、2013年には160万人突破とまで書いてありますが、リピーターもかなりいるのでユニークユーザーがどれくらいかわかりませんけど(笑)。『テニミュ』は「Dream Live」という楽曲だけのガラコンサートをするんですが、昨年の2ndシーズンを締めくくるライブではさいたまスーパーアリーナが埋まりました。それまでは横浜アリーナ(最大収容人数17000人)で毎回公演をしていて、さいたまスーパーアリーナ(最大収容人数37000人)でやるという告知があったときに、ファンは「え、埋まるの!?」という感じでしたが、意外とチケットが取れない人もいたりしていて。

 

――スーパーアリーナぐらいの規模だとはむしろ「行ってあげる」くらいの気持ちでいたら、意外と取れなかったわけですね。

 

真山 あんなに油断せずに行こうと言われてたのに(笑)! ただ、その公演で『テニミュ』2ndシーズンのキャストが卒業だったので、さいたまスーパーアリーナに最後を見届けようというのも大きかったと思います。
 ここまで爆発的にファンが増えたのは、『テニミュ』を中心とした観劇ファンだけでなく『ペダル』や『薄桜鬼』といった別の作品のヒットとその原作から劇場に足を運ぶファンが増えたことも大きいです。『テニミュ』は知っていたけど観たことはないという層が、原作の舞台化をきっかけに2.5次元の世界に入ってきた。その流れに合わせて作品数も増えたのではないかと思います。

 

――『テニミュ』の成功を背景に、ネルケプランニングといった舞台の制作会社とその周辺の企業が動いたというわけですか。作品数が増えていくと同時に『テニミュ』で培われた人材が分散していったということなんでしょうか?

 

真山 『テニミュ』出身のキャストを「テニミュキャスト」(ミュキャス)と呼んだりするのですが、彼らが卒業後別の2.5次元舞台に出ることはとても多いです。『テニミュ』は基本的に舞台経験の少ない若手俳優を役に据えるので、2.5次元舞台をやる上での若手俳優養成所的な役割も担っていると思います。
■「発明」から生まれるヒットシリーズ
真山 ファン自体も『テニミュ』をきっかけとして舞台にハマって出演者を追いかけて他の作品を観に行ったりするファンや、2次元(アニメ・マンガ)を平行して追いかけている原作ファンもいるので、『テニミュ』で入ったファンがそのままずっと『テニミュ』を観続けるとは限らない。2012年からお客さんがどっと増えたのは、『ペダル』と『薄桜鬼』が舞台化されたことが大きいですけど、どちらも初演から満員だったわけではなく、シリーズを続けることで徐々に原作や役者のファンから作品のファンへと観客を増やしていった印象です。
 それに加えてこの2作は、演出に小劇場系の人を呼び、すでに2.5次元系の作品の出演歴があるキャストに演じさせることで、それぞれの作品にカラーが出たことも大きかった。それが結果的に「あの原作(2次元)がこうやって舞台(2.5次元)になりました」という驚きをあたえることができた。特に『弱虫ペダル』は驚きでしたね! まさかああくるとは(笑)。

 

――想像では、クロスバイクを持ち込んでみんなで漕ぐのかと思っていたら、実際はハンドルだけを持ってみんなで漕いでるアクションをやるという――衝撃でしたよね。

 

真山 本当にあれは「発明」でした! 元をたどれば、演出の西田シャトナーさんが「惑星ピスタチオ」という劇団でやっていた「パワーマイム」と呼ばれるもので、小道具を極力使わずに役者の身体で表現をする、パントマイムを使った演出方法なんです。それを『弱虫ペダル』の原作に活かすことによってああいった表現になった。これは『テニスの王子様』も同じで、実際にボールを打っているわけではないんですよね。ただ、ラケットの振りに合わせて、スポットライトと音を効果的に使うことで、ちゃんと打っているように見える。映像だと全てをきちんと表現しないと描けない原作の要素が、舞台では観客の想像力で補われる。そこに「.5(てんご)」の部分が生まれる。そこが2.5次元のおもしろさだと思います。

 

――2.5次元演劇の魅力のひとつが「見立ての美学」であるというのは共有されつつある気がするのですが、『ペダル』のDVDを観たら、舞台としても洗練されているという印象を受けました。メタ視点の入れ方も良いし、原作のまとめ方も良いし、そこにさらにクレイジーな「見立ての美学」という要素が加わっていて。

 

真山 これまで「舞台」というと「ちょっと高尚な趣味」という感じで、宝塚や東宝ミュージカルも含めて少し敷居が高い大人の趣味と思われがちでしたが、『テニミュ』や『ペダステ』といった2.5次元系の作品が増えたことで、観に行く敷居が下がったところはあると思います。昔は『テニミュ』ファンだけだったのが、作品数が増えることによって2.5次元舞台ファンが細分化して、広がっていった印象です。

 

――ちなみに『薄ミュ』は、『ペダステ』のようにぶっ飛んだものではないんですか?

 

真山 『薄ミュ』は、意表をつく演出があるというわけではないですが、乙女ゲームが原作なので乙女ゲームにあるキャラクターの「ルート」をうまくシリーズに昇華させています。ゲームの『薄桜鬼』はキャラクターごとに主人公と結ばれるルートごとの物語があって、『薄ミュ』では、このゲームの1ルートを1作で見せる形式だったんです。
 『テニミュ』は、主人公の学校が全国大会優勝までを描く物語が一本筋で続いて、その対決を学校ごとに1作で見せていく形式なんですが、こちらは、パラレルワールドとしてストーリーを毎回見せる形でした。お客さんも「このキャラのルートが観たい」という形で原作ファンを定期的に呼び込めるのが上手い点だと思います。
 もうひとつ『薄桜鬼』の発明は、男性キャストは基本的に変えずに「沖田総司篇の千鶴(主人公)役はこの人で…」という形で、1作ごとに主人公を演じる役者さんを変えたことです。その理由は簡単で、パラレルワールドのストーリーになるので、毎回同じ人が演じたら、主人公が移り気過ぎに見えるじゃないですか(笑)。そのやり方で、結果的に「今回の千鶴は~」という風に話題にできたのも良かったと思います。

 

――なるほど。クラスタとして、「2.5次元ファン」というのが生まれつつあるんですか?

 

真山 クラスタが生まれているかというと、中々むずかしいと思います。「2.5次元舞台だから追いかける」というとちょっと違う気がするんですよね。2.5次元作品から舞台を観るようになって、キャストのファンになったりすることも多いので、そうすると下北沢の小劇場だったり、もしその人が蜷川幸雄の作品に出ることになったら彩の国に行くことになるので(笑)。原作や俳優が好きで観に行くことはあっても、「2.5次元だから観に行く」というそれを中心としたクラスタはそこまで生まれてないと思います。

 

――たとえば「アイドルオタク」って、AKBだったり、ももクロだったり、もっとマイナーなアイドルもみんな好き、という人が多い気がするんです。自分が推しているグループはあるけれど、基本的にはアイドル全体が好きで、その時々によって好きなグループや好きなメンバーがちがう、という。そういう形にはなっていないということなんでしょうか?

 

真山 それは若手俳優のファンが近い感じですね。『テニミュ』から好きになった若手俳優を追いかけて別の舞台を観に行って、さらに別の若手俳優を好きになってその人が出る別の舞台に行く……そういうおっかけ的な習性は、いわゆる「ドルオタ」と近いかもしれません。

 

――つまり、「2.5次元クラスタ」というよりは、観劇ファンの中に、オタク勢力の女性ファンが今いっぱい流れ込んできている。

 

真山 そうだと思います。ただその中にも、そこから若手俳優を追う人もいれば、私のような考察するのが好きな人間もいて、自分の好きな作品が舞台化したら舞台も観るよという2次元に準拠したファンもいるので様々ですね。
■斎藤工も!? 役者育成機関としての2.5次元
真山  「観劇」を趣味とする人の増加も大きな変化ですが、こういった2.5次元舞台が増えることで、若手俳優がデビューするための登竜門の役割が強まったことも大きな変化だと思っています。『テニミュ』以前は、スタイルや見た目の良い若い男の子が芸能活動をしてみたいと思ったときになかなか入り口がなかったところに、そういった2.5次元舞台を経由することでファンを付けられる。それが結果的に2.5次元舞台を盛り上げるところに還元されているんですよね。

 

――なるほど。男性アイドル文化ってジャニーズの存在で発展しづらいところがあるけれども、その分をこの2.5次元を登竜門とする若手俳優が代替しているとも言えるかもしれないですね。

 

真山 『テニミュ』が広く知られるようになったとされる1stシーズンのキャストには、ナベプロ(ワタナベエンターテインメント)のD-BOYSという俳優集団のメンバーが多いんですが、彼らは俳優としての活動だけではなく、イベントで歌ったり握手会したりと、限りなくアイドルに近い活動をしているんです。いまでこそ若手俳優がユニットを組んで歌ったり踊ったり、握手会などのイベントをしたりしますが、アイドルとしては売り出しにくいものに対して、それとは別の男性「アイドル」的な回路をナベプロが作ったんだと思っています。2ndシーズンから握手やハイタッチなどの接触系イベントが増えたこともあって、『テニミュ』や他の2.5次元系舞台がそういった流れを組んで、いまの若手俳優の売り方に影響を与えているとは思います。

 

――ちなみに『テニミュ』の出世頭といえば、城田優と加藤和樹という感じなんでしょうか?

 

真山 他には、斎藤工ですね。氷帝の忍足侑士役でした。

 

――なるほど、斎藤工!

 

真山 いまや「情熱大陸」です! 『テニミュ』などの多くの2.5次元舞台を制作しているネルケプランニング自体も舞台経験なしの若手俳優を一から役者として育てるのでそういった育成機関としてうまく機能していると思います。そこから特撮や朝ドラ、東宝ミュージカルなどに出演する人も多いです。

 

――ネルケプランニングは芸能事務所として機能してたんですか?

 

真山 いえ、あくまで舞台制作会社なんですが、何も知らない……事務所にも入っていないような子を採用しているので結果教えることになるんだと思います。役のイメージに合う男の子をスタッフがカフェでスカウトもしていたくらいなので(笑)。

 

――つまり普通の制作会社の域は超えていて、なかばプロデュースに近いこともしているAKSに近いのかもしれないですね。
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