宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

Serial

  • 2017.03.10
  • 猪子寿之

猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉 第18回「アートによって地方のポテンシャルを引き出したい!」

チームラボ代表・猪子寿之さんの連載〈人類を前に進めたい〉。今回は、福井県やハワイで展示されるチームラボの新作から、日本の地方に秘められたポテンシャルについてまで語っていただきました。「カラス」の更なるアップグレードで到達する「群れ」の表現とは? そして、地方都市だからこそ実現できるアートの可能性とは?(構成:稲葉ほたて)

「群れ」という秩序なきピース

猪子 最近は、各地でチームラボの常設展示をつくる機会が少しずつ増えているんだけど、今回はその紹介から始めたいな。まずは3月26日から、福井県永平寺町に新しくできる文化施設「えい坊館」に、作品を常設することになったの。禅の曹洞宗の大本山の永平寺がある町で、曹洞宗はひたすら座禅する。もちろん、座禅ではないのだけれど、作品の空間で、ひたすら座って体験してもらおうと思ってて。16畳程度のこじんまりした空間の壁4面と床に、森美術館で展示した「追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして衝突して咲いていく – Light in Space」と同じシリーズになる新しい作品を創って展示しようと思っている。
 
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▲「鳥道 – 黙坐 / Bird Road
 
実は、今回は無数の鳥が「群れ」で飛んでるんだよね。これまでは、手付け(手作業の)アニメーションによるカラスと、アルゴリズムによるカラスの2つが混ざっていたんだけれど、今回は全てアルゴリズムで鳥が動いているの。まるで、イワシの群れにマグロが来たときみたいに、鳥の群れは鑑賞者を避けるように飛ぶんだよ。
 
宇野 そもそもなんで群れにしようと思ったの?
 
猪子 昔から「群れ」そのものに興味があったんだよね。ムクドリの群れの動画があるから、それを見てもらうのがわかりやすいかな。これが、めちゃくちゃヤバい動画なんだよ。今までも作品でよく群れを使っているし。で、今回は、群れにもっとフォーカスを当てて、全体としての意思はなくて、鑑賞者の存在の影響を受けながら、一羽一羽が非常にプリミティブなルールで動くことで、意図のない複雑で美しい線群を空間に描きたかったんだ。
 

Flight of the Starlings: Watch This Eerie but Beautiful Phenomenon | Short Film Showcase
 
宇野 これはすごいね……。僕、もし時間が有り余ってたらずっとこの動画を見ていられるな。群れ全体が、有機物なのか無機物なのかもよくわからない、巨大な生き物のような動きが素晴らしいね。
 
猪子 これは遠くから撮影した映像だけど、この群れの真ん中に、鑑賞者の視点があるような世界をつくりたいんだよね。僕がこの動画に惹かれたのは、群れの密度が変わっていくところなんだよ。密度によって、ムクドリの影である黒色が強く出たり、逆に背景の空の色が見えたりと、どんどん印象が変わっていくじゃん。その動きと色の濃淡が美しいよね。
 
宇野 この前の、スクリーントーンの話に近いかもしれないね。西洋の印刷技術をいかに日本的な平面表現の思想でハックするかという試行錯誤の中でスクリーントーンが生まれてきたという話をしたけど、スクリーントーンは密度だけで僕らの色彩感覚を置き換えてるわけだよね。「濃い青だったらこれくらいの密度の点々」というふうに。そこに時間の動きを組み込んだのが、今回の新作のポイントだよね。
 
猪子 そうそう。群れの動き自体が、見ていてすごく気持ちがいいんだよね。あと面白いと思ったのは、おのおのの鳥がシンプルなルールで動いているだけなはずなのに、全体で複雑な生き物のように振る舞っているところかなあ。
 
宇野 その群れの動きの特徴って、まさにチームラボがつくってきた「秩序なきピース」だもんね。猪子さんが群れに惹かれるのもわかるな。
 
でも、今までのチームラボの作品が、人間を動物の群れのように動かしてしまうことによって、ピースが成り立っていくものだとしたら、今回は少し違うと思う。いわばこの自然に発生している「秩序なきピース」のダイナミズムを、いかに人間に味わわせるかに注目している。だから、猪子さんにしては珍しく、鑑賞者が作品に参加するよりというよりは、作品を観ているという印象が強い。
 
猪子 確かに。
 
宇野 ただ、この群れの動きには、人間の意図と自然現象の中間にあるような、独特の他者性があると思う。気持ち悪さと気持ち良さが混在してるこの感覚って、群れ全体が目的の見えない変なリズムで動いていて、とてもじゃないけどあの群れと対話とかできなさそうなところから来てると思うな。意図を持っているように見えるけど、明らかに自分と同じような思考回路をしているわけじゃない、という感じがする。
 
こういう、小さな生き物の群れが一つの巨大な化け物みたいに見えるみたいなモチーフは、宮崎駿がよくアニメーションで再現してるよね。『もののけ姫』でアシタカの腕に呪いとしてつくタタリ神とか、『となりのトトロ』の真っ黒いススワタリとか。あの自然の群れの持つ奇妙な運動性って、誰の意志もない単なる自然現象なんだけれど、人間の目には、ある種の神や悪魔とかの超自然的な意図を持った何かに見えてしまう。たぶんこれって、古くからは特に妖怪の表象として、伝統的に禍々しく描かれてきていることが多い現象だと思うんだよね。
 
猪子 あの禍々しさをつくるのには非常に興味があって、でも難しいんだよね。イワシの大群ぐらいだったらできるんだけれど、ちょっとムクドリの禍々しさは研究中だなあ……。でもいくらすごい量だったとしても、桜吹雪には別に禍々しさとか感じないもんね。群れってほどよく意図的に見えながら、理解の範疇を超えてくる”他者”なのかもしれないと思う。そして、そこには、何か、人間がまだ理解していない普遍的原理の存在があるように感じるんだよね。

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