宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2016.04.05
  • チームラボ,宇野常寛,猪子寿之,猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉

猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉第7回「ウォーホルのように〈美の基準〉を変えることで、世界を変えたい!」

今朝のメルマガは、チームラボ代表・猪子寿之さんによる連載『猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉』の第7回です。チームラボがシリコンバレーで開いている展覧会が現在、大盛況。アメリカでは「“文化砂漠”のはずのシリコンバレーでなぜ?」という声があがっているそうです。Googleの経営陣やNetscapeの創業者などのシリコンバレーの伝説的な起業家、さらにはスティーブ・ジョブズの奥さんまでが足を運んできたというその展覧会。なぜチームラボの作品はそれほど熱狂的に受け入れられたのでしょうか。


▼プロフィール
猪子寿之(いのこ・としゆき)
1977年、徳島市出身。2001年東京大学工学部計数工学科卒業と同時にチームラボ創業。チームラボは、プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、絵師、数学者、建築家、ウェブデザイナー、グラフィックデザイナー、編集者など、デジタル社会の様々な分野のスペシャリストから構成されているウルトラテクノロジスト集団。アート・サイエンス・テクノロジー・クリエイティビティの境界を曖昧にしながら活動している。
47万人が訪れた「チームラボ踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」などアート展を国内外で開催。他、大河ドラマ「花燃ゆ」のオープニング映像、「ミラノ万博2015」の日本館、ロンドン「Saatchi Gallery」、パリ「Maison & Objet 20th Anniversary」など。2016年はカリフォルニア「PACE」で大規模な展覧会を予定。
http://www.team-lab.net

◎構成:稲葉ほたて

■ チームラボ、シリコンバレーに乗り込む

猪子 チームラボは今、シリコンバレーのPACE ART + TECHNOLOGYっていう新しいギャラリーで展覧会をやってるんだよね。今年の2月にスタートして7月までやっているんだけど、僕は宇野さんに一度来て欲しいと思っているんだよ。

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▲2016年2月6日から7月1日にかけて、チームラボは、Pace Art + Technology(シリコンバレー)のオープニングエキシビジョンとして大規模個展を開催している。新作含む全20作品を展示。(参照1)(参照2)

このPACE ART +  TECHNOLOGYっていうのは、ニューヨークを拠点とするPACEというアートギャラリーがはじめた新しい試みなんだけど、今回の展示はそのオープニングエキシビションにあたるのね。2014年からペースギャラリーがチームラボを取り扱うようになったんだけど、チームラボの活動を見てはじまった試みなんだ。だから、向こうとしてもめちゃくちゃ力が入っている企画なんだよね。
で、チームラボの展示は「Living Digital Space and Future Parks」というタイトルで、内容としては去年東京でやった「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」の超バージョンアップ版みたいな感じだと思えばいいかな。この連載でも以前触れた「境界のない群蝶+増殖する生命II+花と人、コントロールできないけれども、共に生きる」とか、「クリスタルユニバース」も、会場が大きくなったぶん超巨大な空間になってて、とにかくスケール感がすごいのよ。あと、新作も3つくらい増えてるの。

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▲「Light Sculpture of Flames」(参照)
人に反応して火がリアルタイムで動く立体作品。
【動画(YouTube)】

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▲「Black Waves in Infinity」 (参照)
水の動きをシミュレーションして波の動きを再現し、それを線の集合で表現した作品。
【動画(YouTube)】

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▲「Black Waves」(参照)

宇野 なるほどね。生放送の仕事が抜けられなくて……と思って先日は行かなかったけど、そう聞くと行きたくなるね。というか、J-WAVEにかけあって、いっそシリコンバレーで猪子さんとラジオ収録しても面白いかもしれないね。

猪子 なにせ『ウォール・ストリート・ジャーナル』では「シリコンバレーが初めてアートを買った」という記事を書いて、事件として扱っているんだよ。
しかも、『ガーディアン』なんて凄くて、The cultural desert――つまり、「文化的な砂漠」とシリコンバレーのことを呼んでいて、その彼らがチームラボのデジタルアートを受け入れたことを驚いている。そのほかにも、『ニューヨーク・タイムズ』なんかでも記事になった。

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▲”Silicon Valley’s Wealthy Finally Buy Art (When Not for Sale)”(THE WALL STREET JURNAL, Feb 10, 2016)(参照)

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▲”The ‘cultural desert’ of Silicon Valley finally gets its first serious art gallery”(THE GARDIAN, Feb 6, 2016)(参照)

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▲”A Very Different Kind of Immersive Art Installation”(THE NEWYORK TIMES, Feb 4, 2016)(参照)

宇野 それ、すごい話だと思うんだけど、こういうチームラボの動きは日本国内ではほとんど報道されないよね。もしかして猪子さん、嫌われてるの?

猪子 いや、嫌われてないと思うんだけど……最近、話が難しいからじゃないかなあ。

宇野 今の話って、第二次世界大戦後になって、それもかなり政治的な都合で生まれたニューヨークのギャラリーを頂点とするアートマーケットに対して、まったく違うヒエラルキーが西海岸を中心にして生まれていく可能性を示唆していると思うんだよね。

猪子 例えば、オフィスのエントランスにウチらのアートを飾ってるのは、マーク・アンドリーセンという、まさにインターネット(モザイクやNetscape)を創った人なんだよね。

宇野 なるほどね。興味深いね。

猪子 それなのに、ガーディアンはシリコンバレーを「The cultural desert=文化砂漠」だと書くわけだよ。つまり、彼らは本気で「シリコンバレーの連中は文化に興味がないんだ」と思っていたんだと思う。
ところが、実際に蓋を開けてみたら、オープニングにすごい来てくれた。展覧会には社長の奥さんも、Googleの経営陣や社長の奥さんも、家族を連れてやって来てくれたからね。Vimeoの共同創業者はツイッターで絶賛してくれているし。
しかもさ、僕が会場で歩いてたら、「私、これ二回目なのよ!」とか叫んでる凄いテンションの高いお姉さんに会ったんだよ。僕に会うなり「あなたは天才だわ!」とか言いだすもんだから、僕も「お、おう。僕たちは天才なんだ」みたいな感じになっちゃって(笑)。で、「もう一回見に行くわ!」と言うから「楽しんできてねー」と見送ったの。
ところが、それから一時間くらいして「ジョブズの奥さんが来ているから紹介する」という話が来て、会いに行ったら――さっきのテンションの高いお姉ちゃんが立ってるんだよ(笑)。「いやいや、あなたの隣には真に偉大な天才がいたでしょう」と、なんだか複雑な気持ちになっちゃった。

宇野 猪子さん、珍しくちょっと照れながら話してるね。

猪子 まあね(苦笑)。でも、あの人たち、みんなオープンでフラットだから、なんか、いいよね。

■ シリコンバレーは本当に“文化砂漠”なのか?

宇野 でもさ、ああいう西海岸の人たちは、どれくらい明白に自分たちの世界を構築するために文化、ないしはアートが必要だという意識があるのかな。例えば、もうちょっと単純にミーハーな気持ちでやっている可能性もあるわけだよね。

猪子 まさにさっきの『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、「今まではどんなにお金を持っていてもアートに興味なかった」という前提には立っているけど、やはりみんながアートを購入したことそのものはニュースとして衝撃を持って受け止めているんだよね。
ただ、そのときの『ウォール・ストリート・ジャーナル』の分析は、「ギャラリーでは異例のチケット制で、買うつもりがなくても自由に見られる状態を作ったからこそ、彼らも買い始めたんだろう」みたいな感じで、心理学的な切り口の説明なんだよね。

宇野 その記事を書いた人って、たぶんシリコンバレー的な価値観に共感していないんじゃないかな。つまり、東海岸の人が「あいつらがなんか美術っぽいことに興味を持ちだしたけど、やっぱりちょっと違くない?」みたいな感じで取り上げた記事なんでしょ。

猪子 うーん、どうなんだろうか。『ウォール・ストリート・ジャーナル』も展覧会に対してはすごく評価してくれていて、でも、衝撃的な事件に対して、何か彼らなりに解明して解説を書きたかったんじゃないかな。

宇野 結局、そういう「距離感の表明」にすぎない文章のように見えるな。

猪子 でも、そこで起こっていることはそうじゃないと思う。
きっとシリコンバレーの連中は、自分たちの新しい生き方とか信念とか、そういうものを表現するアートとして受け容れてくれたんじゃないかな……と思ってる。
だってさ、彼らがお金を持ったからといって、彫刻なんかを買うとは思えないじゃない(笑)。たまたま、これまで存在してきた文化に対して興味がなかったというだけで、当たり前だけど、彼らが文化やクリエイションに本質的に興味がないわけではなかったと思うんだよ。

宇野 今、猪子さんはとても大事なことを言っているね。
よく「カリフォルニアン・イデオロギーには文化がない」みたいな批判をしてくる人は多いじゃない。たしかにその劣化コピーである意識高い渋谷・六本木のITベンチャーの経営陣の人にはそういう批判が当てはまるひとが多いのかもしれない(笑)。でも、その大体は誤解なのであって、単純に歴史的な経緯を知らなかったり、「文化を理解しない人々だ」というふうに思いたがっているだけなんだよね。
でもさ、単純に西海岸の人たちは、既存のアートシーンにある「彫刻」や「絵画」を美術館に収蔵することが、本当に自分たちの世界観を表現することだとは、どうしても思えないというだけなんだと思うんだよね。

猪子 そう、そう!

宇野 でもさ、これって「歴史は繰り返す」でしかないんだよ。

だってさ、ハッキリ言ってしまうと、第二次世界大戦後にニューヨーク中心のアートシーンができた理由そのものが、当時のヨーロッパから見たときに「文化がない」とバカにされていた、アメリカのある種のコンプレックスの裏返しだったわけじゃない。
当時のアメリカは、ついに西側諸国の、いや世界のリーダーになって、圧倒的な経済力と軍事力を持つことになった。そのときに彼らはナチスを倒して集めてきた美術品をニューヨークのギャラリーに全部入れて、「ここがアートの中心で、文化の発信源です」と言い張ったわけだよね――ざっくりと言うと。
それってつまり、70年前にはこういう海外の彫刻や絵画を集めて美術館に入れることが、彼らのいわば歴史の終着点としての「パックス・アメリカーナ」の物語を作ることと深く結びついていて、彼らのアイデンティティーの記述たりえていたということだと思うんだよね。

猪子 なるほどね。

宇野 でも、それから70年経った西海岸には、もう当時の東海岸の文脈は残っていない。彼らはまったく新しい自らの世界観の表現を必要とした。そこで彼らが辿りついたものの一つがチームラボだった――ということなんじゃないかな。
でね、そのときに実はチームラボの作品が美術館に収蔵したり、ギャラリーで売られたりするような、伝統的なアートの形式に必ずしも則っていなかったことこそが、とても重要だった気がするんだよね。

猪子 まあ、買ってくれた人もいたからね(笑)。
ただ、確かにすごく単純に言ってしまうと、僕たちがデジタルによる新しいアートの可能性を模索していたところに、そういう本質的な部分まで含めて賞賛してくれたところはあると思ってる。

宇野 実際、そういう印象を受けた場面はあったの?

猪子 もう超“ウェルカム”な状態だもん!
だって、ある意味でチームラボのために建造物をみんなで建ててくれたようなもんなんだよ。
実は、普通は建物を建てるときって、先に消防法を取ってから展示の内装を行うんだけど、スケジュールが遅れてしまって、今回は両方を同時進行しなきゃいけなくなっちゃったの。でもさ、そうなると消防法の審査に入る頃には、もう建物はLEDだらけ。それでは、通らないんだよね。たぶん、10回くらい審査やり直しをしたんじゃないかな。
ペースギャラリーも、今回の展覧会に過去最大にお金をかけてくれたらしいんだよね。

宇野 いやあ、猪子さん惚れられてるね。

猪子 というよりも、賭けに出てみたんだよね。シリコンバレーには元々ギャラリーがなくて、「絶対にギャラリービジネスなんて上手く行かない」と言われていた。でもペースギャラリーは「チームラボと共にシリコンバレーに行くんだ」と言って、ギャラリーを建てちゃったのよ。

宇野 単純な疑問なんだけど、ギャラリービジネスが西海岸で上手く行かないと思われていた理由ってなに?

猪子 いやあ、シリコンバレーの人たちはアートに興味がないと思われていたんだと思うよ。「文化砂漠」とか書かれるくらいだしね……でも、実際には興味があったということだと思う。

宇野 つまりは、彼らの古い感覚からすると「文化砂漠」に見えていただけなんだということだよね。

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