宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

Serial

  • 2017.12.14
  • 池田明季哉

池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝 第一章 トランスフォーマー(3)「2009年-2016年:西から東へ、軍人から騎士へ」【不定期配信】

デザイナーの池田明季哉さんによる連載『“kakkoii”の誕生ーー世紀末ボーイズトイ列伝』。1984年にトランスフォーマーの描いた成熟のイメージを評価した前々回、2007年の映画『トランスフォーマー』を『グラン・トリノ』と比較した前回に引き続き、今回のテーマもトランスフォーマーです。映画版トランスフォーマーが描こうとして挫折し続けてきた成熟のイメージを、「騎士」というモチーフを中心に論じます。

1984年に「魂を持った乗り物」として成立した初期トランスフォーマーと、モノとのコミュニケーションによって導かれる成熟について論じた前々回、2007年の映画『トランスフォーマー』を『グラン・トリノ』と比較しながら、アメリカン・マスキュリティを構成する要素を「自動車」「軍人」「キリスト教」の三つに整理した前回に引き続き、今回は、現在公開されている第2作から第5作の映画について、そして映画版トランスフォーマーが失ってしまった可能性について明らかにしたい。

『リベンジ』ーー「古きもの」によるノスタルジックな成熟

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▲『トランスフォーマー/リベンジ(原題:Transformers : Revenge of the Fallen)』(2009年)

第2作『リベンジ』においても、主要な登場人物の配置は『トランスフォーマー』から大きく変化しない。オプティマス・プライム、バンブルビー、サムに加えて、レノックス大尉とヒロインのミカエラがほぼ同じ位置付けで登場する。『リベンジ』ではメガトロンに代わって「ザ・フォールン」と呼ばれる存在が敵の指導者としての役割を果たすが、全体的な構図そのものは第1作とそれほど変わるところがない。前作で高校生だったサムの大学進学が描かれているものの、それが決定的に彼を成熟させることもない。

ただ『リベンジ』からは「老化」や「風化」といったモチーフが現れていることは特筆すべきだろう。たとえばトランスフォーマーシリーズ全体においてリーダーの証として象徴的な意味を持つ「マトリクス(Matrix of Leadership)」は、長年封印されていたために風化しており触れた瞬間に砂になってしまうし、ジェットファイアーという名の老トランスフォーマーは、髭を蓄え腰を曲げて杖をついた老人然としたデザインを与えられている。

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タカラトミー「MB-16 ジェットファイアー」。写真は映画10周年を記念して2018年に発売が予定されている仕様変更版。

そして人間とオートボットの勝利は、こうした「古きもの」の力によってもたらされる。一度は命を落としたオプティマス・プライムは、サムの功績によって再びその形を取り戻したマトリクスを使って復活し、強化パーツとなったジェットファイアーと融合することでザ・フォールンを打倒するのである。

ここでマトリクスやジェットファイアーといった「古きもの」の象徴に込められた理想とは、自己犠牲の精神であることが繰り返し語られる。砂となったマトリクスは、一旦は自ら戦いの犠牲となったサムの臨死体験を通じて復活するし、ジェットファイアーは自ら分解してオプティマス・プライムと融合する。こうした自己犠牲の精神、そしてサムやオプティマス・プライムの再生を、あるいはキリストの死と復活と同期して捉えることも、それほど無理のある見方ではないだろう。

前回、『グラン・トリノ』と比較しながら、『トランスフォーマー』には「自動車」「軍人」「キリスト教」という三つの要素が重要な位置付けで登場していることを述べた。『リベンジ』以降においてもこれは引き継がれているものの、バランスはやや異なる。「自動車」については徐々にあまり描かれなくなり、「軍人」「キリスト教」というふたつの要素が重点的に描かれるようになっていく。

こうした描写からは、『リベンジ』がアメリカン・マスキュリニティの有効期限が既に切れつつあることには自覚的であることが伺い知れる。しかしその再生の道筋は、過去の英知の結晶たるマトリックスと、老トランスフォーマーであるジェットファイヤー(のパーツ)によってもたらされる。トランスフォーマーという人間の科学を超越した機械生命体を中心にしたサイエンス・フィクションでありながら、この物語はフューチャリズムではなくノスタルジーに駆動されているのである。

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