宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

Serial

  • 2018.03.22
  • 橘宏樹,鷹鳥屋明

橘宏樹「父性のユートピア」をあきらめない(『現役官僚の滞英日記』刊行記念エッセイ第三部・最終回)

現役官僚の滞英日記』の発売を記念した、著者・橘宏樹さんエッセイ、今回で最終回となります。分厚い中間層を維持するための「グローカリゼーション」を目指すべく、生産量/人材不足を補うための施策とは? 橘さんが「父性のユートピア」をあきらめないその理由に迫ります。
今回も全編無料公開でお届けです!
※『現役官僚の滞英日記』刊行記念エッセイ、配信記事一覧はこちら。(全編無料)

【書籍情報】
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橘宏樹『現役官僚の滞英日記』好評発売発売中!

「平家」が宇野常寛に「父性のユートピア」を説くの巻

先日(2018年2月20日)、ありがたいことに、PLANETSに拙著のサイン会&宇野常寛編集長との対談イベントを催していただきました。

【会員視聴可能アーカイブ】橘宏樹×宇野常寛『現役官僚の滞英日記』刊行記念 特別対談 -いま、僕たちはイギリスから何を学ぶべきか-

僕のうっかりミスで事故を起こしている模様もご覧いただけます…。会場は爆笑でございましたが、あらためてお詫びいたします。僕の顔をどうやって隠すかとか、これまで多くの皆様に多大なるご配慮をいただいていたのに、申し訳ございませんでした…。

当日、宇野編集長からは、拙著について「システム論(世の中どうなっているか論)と主体論(個人はどうあるべきか論)のどちらにも偏らない論考」として、ご高評いただきました。この点、僕自身、大変心を砕いてきたところだったので、褒めてもらえて素直に嬉しかったです。

一方で、「在野」の宇野編集長は自らを「源氏」、そして「官僚」である僕を(権力の側にある)「平家」になぞらえる、刺激的な対置構造もお示しいただきました。「デモクラシーとガバナンス」といった対置も同様の延長線上にあるかもしれません。この点、僕自身は、この度「コンサバをハックする」というエッセイ・シリーズを書いているように、「自分がコンサバである」とは、思っていなかったところ、「お前自身がコンサバだろう?」というお話にはハッとさせられました。ハックしてやろう、と青春をスタートしたのに、アラフォーに入ってきた今、ミイラ取りがミイラになっている瞬間って自分ではわからないものかもしれませんね。

(ちなみに、まさしくコンサバ族長の系譜上におられる、岡本全勝氏(元復興庁長官・現内閣官房参与)のウェブサイトでも、拙著を取り上げていただきました。)

「岡本全勝のページ」イギリスの強さ、官僚の留学記(2018年2月21日)

また、僕がこのエッセイ・シリーズでも言及した、コンサバの族長たちの甲斐性(戦中派のエートス)が、行き届いている状態、言うなれば「父性のユートピア」については、宇野編集長は(戦後ホワイトカラーのカルチャーと呼びつつ)「信じることができない」、とおっしゃっていました。

この点、僕などは、巨大なコンサバ組織で生きていたり、エッセイ第二部前編でお話ししたような族長たちの振る舞いを間近で見る経験があるので、なんというか、彼らの「袖」のようなものが揺れていて、自分がその下に匿われていることを実際に感じることがあるわけです。ただこれは、そこに安心を感じるといった、いわゆる母性的な類のものではなく、自分もまたそのような袖になりたいと志させるような、ある種の緊張を強いるものです。それは、僕が男の子である(ジェンダー論はさておいて)がゆえに、「父性のユートピア」を夢見ている、ということなのかもしれません。この点、宇野編集長はもっと「リアリスト」なのでしょう。

ともかく、団塊とバブルに不満ならば、例えば、戦中派(の系譜)にアプローチするという選択肢も眼中に入れつつ、団塊とバブルをぶち抜く力を得られる資源を求めて、組織内外問わずあらゆるアプローチを行うべきだとは確実に感じています。この覇気は、今の40代以下に求められているのだろうと思います。自分が幸せになりたければ。誰かを幸せにしたければ。

いずれにせよ、PLANETSの支持者をコンサバ側にもっと広げていくことは、「公共の福祉」に資するという判断の下、僕のPLANETSにおけるミッションとして自認していることです。なので、引き続き「GQ」などを中心に、今後とも色々と連携して頑張っていきたいと思います。僕と宇野編集長との間の、友情や活動家同志の絆をザイルとして、また源平的対置構造を楽しむディベートができる機会を楽しみにしています。

分厚い中間層を維持するための「グローカリゼーション」

さて、この「現役官僚の滞英日記」刊行記念エッセイ・シリーズは、今回で最終回です。ひとつだけ残している問いに答えたいと思います。それは、日本の中間層を維持する方法論です。エッセイ第二部中編で僕は、日本の「同質性の高い」「分厚い」「中間層」を構築してきた、②「大部分利益」(≒自動車産業や建設業など、下請けの多さゆえに富の再配分効果が高いため、贔屓されることがほぼほぼ公益だった産業)の存在について論及しました。そして、現在、「大部分利益」が有する政治社会的影響力は、産業構造の変化によって(相対的には強いままながら)後退していること、同時に、価値観の多様化や格差拡大など、「同質性の高い」「分厚い」「中間層」も解体を始めていることを述べました。

これを、どうするか。格差を容認するのか。再配分をより強く求めるのか。第三の道か。この問いが残っています。これには、政治的な判断を要すると思います。この点、僕は公務員なので、政治的な意見表明はできません。ですが、公務員には憲法の遵守義務があり、そこに答えがあります。憲法には、

日本国憲法第二十五条
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

と書いてあります。なので、所得が上の人がもっと上に行くことで格差が広がるのはともかく、現行憲法下の政府と公務員は、基本的に、貧しい人が増える、中間層が刃こぼれしていくことは防ぎたいと考えて行動することになります。

ゆえに、僕は、第三の道によって、少なくとも「分厚い」「中間層」は維持したいというポジションを取ります。ですから、問題は、どうやって中間層を維持するかの具体的な方法論に移ります。僕の私案は、ずばり、「グローカリゼーション」です。グローバル×ローカル=グローカリゼーション。地方が外貨を稼ぐのです。

首都圏市場は目指さない。海外市場を目指す。自分の地域にとってそれぞれ有利な顧客となる国や地域を、それぞれ海外に求めて繋がり、右肩上がりに収入を増やす。日本ブランドが健在で日本通の外国人も増加し、ITが普及した今、潜在的にはそれが十分に可能です。

そして、地域ごとに付き合う国や扱う商品がそれぞれ異なることになりましょうから、地方の拠点都市を中心に、個性的な文化や風景が生まれてくることにもなるでしょう。ミニ東京を目指して、似たような風景が広がってしまっている地方都市は多いですが、外国と地方文化が混じり合い、地方の伝統や特産の個性がますます呼び覚まされて、個性を発揮していくわけです。長崎、横浜、神戸などのように。ですから、きっと「同質性の高さ」は放棄されて、「多様性の高い」「分厚い」「中間層」を目指すことになるのではないかと思います。

その方針を推し進めれば、もしかしたら、グローカル関係産業を、「新しい大部分利益」として、官民挙げて(護送船団方式はもう機能しないと思いますが、国内コミュニティ全体のある種の合意として)育てていくことになるかもしれません。経団連が製造業系大企業の利益団体として組成されているように、グローカル関係の企業群が利益団体を形作り、教育政策(日本固有の文化を身に着ける教育や、より実践的な語学教育など)や労働政策(副業・副業推進、機密保持契約整備等)、経済促進施策(小口の輸出業者の支援、国内の各国大使館や商工会議所との連携支援等)などに対して、政策提言を行う、さらには政党を組織する時代が来るかもしれません。

とはいえ、グローカリゼーションは、現在それほど進んでいない印象です。グローカリゼーションという単語自体は、だいぶ前から耳にされているのに、です。外国人観光客が増えた程度以上のグローカルを実現できている地域がまだまだ限られているのはなぜでしょうか。何が壁なのでしょうか。

僕は官僚です。希望的な理念をぶち上げることや問題点を指摘することだけにとどまりたくはない、という矜持があります。問題解決者であろうと志す姿勢に職業的な誇りを持っています。なので、この点について、もう少し丁寧な原因分析と具体的な解決方法の提示にチャレンジしたいと思います。

グローカリゼーションの壁は生産力と人材の不足

いくつか原因は思い当たりますが、たいていの問題は、生産と流通のこと、すなわち、①生産ロット数の少なさと②グローカルな人材の不足の2点に行きつくと思います。これらの解決に関する提案を行っていきますが、その前に背景要因を考えます。

まず、①なぜロット数が出せないのか。海外で日本酒や高級果物に人気が出ても、需要に対応できないのか。これは、やや自明と思われる方も多いかもしれません。人口も人材も、地方から太平洋ベルト上の都市部へと、製造業者やサラリーマンとして移住してしまいました。ゆえに、地方の生産力は弱まり、日本酒や高級果物などに海外で急に人気が出ても、設備投資と雇用が追い付きません。結果として、海外で注文を受けても、商機をかなり逸している場面を多々見受けています。

次に、なぜ②グローカル人材が不足しているのか。まず、日本人は「島国なので」「昔から」グローカルなセンスはなかったのか、というと、少なくとも明治エリートは違ったようです。明治政府は、ほとんど一次産業しかなかった日本の産品で何がどの地域で売れるか、各国に赴任中の領事館員に探らせていました。その記録が「通商彙纂」※という書物に残っています。例えば、ブラジルについてであれば、「X字型・ふくろう・黒蝶・猿にして配色甚だしく黒を忌み、緑を好みかつ濃厚燦爛たるを好む。」といった風に、世界各地の文化習俗まで事細かに書かれています。この領事報告がもとで、エジソンが電球の発明のためにフィラメント用の竹を欲していることが伊藤博文等に伝わり、京都から良質な竹を大量に送らせる段取りをつけたとも聞いています。どの地域で何が売れるか、個別に丁寧に、貪欲にニーズを拾っていたわけです。ちなみにこのセンスは、サムソンの有名な「地域専門家制度」の手法にも見られます。

しかし、戦後の高度成長期以来、巨大な国内市場を有してきたために、すっかり日本は内向きマインドになってしまったのではないでしょうか。加工貿易産業は下請工場が海外に出てしまい、海外投資で利益を上げるようになったことで、日本を拠点に外貨を稼ぐというセンスが廃れた感があります。東南アジアなどに海外赴任に出る大企業サラリーマンは増えましたが、現地に売るというより、現地人材を安く雇用してマネジメントし、生産した安価で良質な機械部品を日本等の組立工場に送るというミッションが主でした。供給源は東南アジア、完成製品の市場は国内や欧米でしたから、赴任者は東南アジアの市場を開拓する仕事はほとんどできていなかったように思います。大手の商社も投資会社になったり、当然ですが効率よくビジネスができる、ロットの大きい普遍商品(自動車、木材、石油等)に集中するようになったり、ボリビアのものをロシアに運ぶというような第三国取引を行うようになったりして、各国各様の市場ニーズに応じた小口の輸出貿易業は非主流化しました。

ざっとこのような経緯が2つの問題の背景にあると思います。尚、ロット不足と内向きマインドの融合的な帰結として、③海外輸送コストも高い状況にあります。細々としたものを方々に頻繁に輸出するルートは十分に整備されておらず、流通市場に競争も働いていません。よって、コストが高くなり小口貿易のコスパが悪くなっている、という事情も重要です。

※ 明治14年~大正2年3月刊。外務省が編纂した「領事報告」(海外各地に駐在する領事が、本国政府に定期的に送付した現地の通商経済情報や貿易報告)の集大成。

ブルーオーシャンを目指しましょうよ。

こうして、巨大な国内市場において、同質性の高い日本人がマスコミの影響で同じものを消費する、させられる動向ばかりを見るマーケティングに馴染み切ってしまいました。結果として、多くの地方の方々は、農業にせよ、製造業にせよ、地元(市町村)の特産品をまずは県内に広め、そして東京に届けて、知名度を得て、全国に展開する。海外輸出はその先の夢、という同心円を拡大していくイメージでのマーケットを認識するようになってしまいました。少年野球から甲子園、NPBを経て大リーグに向かう出世コースのように。

その結果、今日では、46道府県の産品が、首都圏市場に殺到して、結果誰もが、差別化と価格競争に苦しんでいます。しかも、昨今は五輪需要などで回復の兆しがあるとはいえ、長い不景気によるデフレマインドの定着と若年人口減や価値観の変化で日本人の消費は停滞基調です。どうするか。農協や自治体はたいがい、ブランド化が大事だ、と考えています。ブランド化とは何か。商品名の知名度が(産地名とともに)上がって、高値であっても売れることと解されがちです。東京の有名店の棚に並んで、全国ネットのテレビで取り上げられ、(そして地元のお茶の間にも映ること。)ゆえに、産品を取り上げてもらえるよう、大手流通業の担当者や知名度のある芸能人に営業が殺到することになります。しかし、〇〇村産のコシヒカリ、△△町産のコシヒカリ。確かに差異はあると思いますけど、所詮、決定的な差別化は難しく、卸業者や広告代理店に足下を見られてしまいます。まさしく「レッド・オーシャン」です。

もうやめましょう。地方からいきなり海外のお客に売りましょう。OECDによれば、世界の中産階級は、2016年時で18億人いると言われています。これは日本人の生活水準の高さや質を理解し、お金を出す可能性のある人々の人数です。1億2千万人から人口減少中の国内市場を奪い合う現状に比べれば、遥かに「ブルーオーシャン」と言える規模があるのではないでしょうか。特に、地方創生、地方の雇用の確保のためには、金融や海外投資よりも、一次産品や地場の中小製造業の輸出にもっと貪欲になることが大事だと思います。それには、まずは売れることが大事です。地方を生産拠点にしつつ、売れて儲かれば、若者も地方に帰ってこれます。(インバウンドもよいです。が、デービッド・アトキンソン氏「新観光立国論」に詳しいですし、各種施策が既に展開しているのでここでは議論を割愛します。)

では、グローカル・ジャパンを興すために、立ち向かわなくてはならない①生産量不足と②人材不足という2つの問題。どのように解決しましょうか。

ミカンはワインに学ぶとよいのではないか。

まず、①生産量不足についてです。生産量が(他国産品に比して)少なく、国内のレッドオーシャンで差別化競争にしのぎを削る多種多様な日の丸産物をどうやって世界に売り出しましょうか。

例えば、日本のミカンで考えてみます。僕は最近愛媛に出張しました。なので、愛媛みかんを中心に考えてみます。幸い果樹は、梱包と保存の技術が進んでいるので船底で1か月はもちますから、輸出に向きます。愛媛は、品種改良も非常に進んでいて、様々な種類のミカンがあります。高級みかん「せとか」のなかでもさらに特別で、特定の畑から採れる、その名も「クイーン・スプラッシュ」という1個1600円以上する凄まじく高級なミカンまであります。しかし、和歌山、静岡などの他産地に対するライバル意識が激しいです。うちのミカンが最高だと、個別にバラバラに売り込んで、千疋屋の店頭を競ってばかりいるように見えました。

この点、僕は、ワインという商品世界の構造が参考になると思います。例えば、ロマネ・コンティは、特定の畑から採れるブドウから造られた、希少で高価な素晴らしいワインです。でも、もしワインをあまり知らない人のところへ、ロマネ・コンティだけを持っていき、美味いから高いぞ、買え、と言って売れるでしょうか。ワインの世界には、品質のピラミッドがあり、味の分布図があります。様々な産地やブドウの品種、製法などがあって、多種多様で奥深い世界が広がっています。ロマネ・コンティはこのピラミッドと分布図のこの辺にある、という風に理解されてはじめて、質と値段に合点がいき、売れていくものではないでしょうか。それを解説するのがコンシェルジュ達であり、巷のワイン通の方々です。ワイン通だと、なんかカッコいい感じがするという商品世界自体のブランドイメージの確立にも、少なくとも日本国内では成功しているといえるのではないでしょうか。

僕は、ミカン業界も、全体として、酸っぱい、あまい、形や香り、多種多様で奥深いミカンの世界を、品質のピラミッドと味の分布図を示すといいと思うのです。その価値もピラミッドと分布図によってクリアになっていくでしょう。例えば「クイーン・スプラッシュ」をロマネ・コンティ的に扱う中で、他のミカンの個性も、それぞれに際立ってくると思うのです。ピンでデビューするのと、AKBの群れでデビューするのと、どちらが個性を示せるか。思案のしどころではないでしょうか。「おらが村の〇〇を売り込もう、ほかはライバルだ」、という考えから離れて、「日本産〇〇」というパッケージでブルゴーニュ産ワインなどのように、供給量とブランドを確保し、その中を住み分けていく方が、僕は全体合理性が高まる気がします。和歌山、静岡、愛媛、鹿児島、長崎等々からなる、全日本ミカン連合構想です。

グローバル×都会×ローカル。3者が手を繋ぐイメージを強く持つ。

次に、②人材不足の問題です。ミカンを誰が売りましょうか。海外の誰に売りましょうか。柑橘系は中東でも食べられているので、例えば中東のお金持ち向けにドバイに運んだらどうでしょう。なぜ中東と僕が言うか。PLANETS読者の我々には、ピンと来るものがあるのではないでしょうか。わが国には、「中東で最も有名な日本人」鷹鳥屋明君という最高のカードがありますよね。もちろん、流通や貯蔵の問題など克服すべき問題は様々ありましょうが、どんなミカンを誰に繋げばよいか、少なくともヒントをくれるのではないでしょうか。(僕が彼をPLANETSに紹介したのですが、これはPLANETSグローカル化計画の布石だったりもします。なんちって。)

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PLANETS 鷹鳥屋明君の連載『中東で一番有名な日本人』

また、ここでは僕は鷹鳥屋君との縁を出発点に、ややテキトーに中東を挙げてしまいましたが、地方の方々は、上記のような国内出世街道的マーケット認識が主流ですから、そもそも、どの地方の何が、どこの国のニーズにマッチするのか、現代版の「通商彙纂」的情報を収拾・検討する必要があります。しかし、現在、地方の方々はこの点にあまりアプローチできていない印象があります。何が売れるか、見当をつけるシステムが必要です。この点、JETROなどの活用方法も問われてきますが、巷でも、例えば宇野常寛PLANETS編集長にもご登壇いただいた「トーキョー会議2017」に登壇していたデニス・チア君のチャレンジは期待が持てます。デニス君は、コンサル会社「Boundless」を起業し、地方に各国留学生などを連れていって、地域の自治体関係者や旅館経営者などと議論させることで、外国人のニーズを虚心坦懐に汲み取って地方創生に活かす活動をしています。地方が主体的に、かつ実感として世界中の様々な人々の多種多様なニーズを下調べできるわけです。彼のような日本を愛する外国人達の活躍に今後も期待です。

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▲「トーキョー会議2017」の一幕。国籍を超えたパネルディスカッション。左から二番目は宇野編集長。三番目の発言中の人物がデニス・チア君。

とはいえ、デニス君や鷹鳥屋君のような「グローバル人材」、小回りのきく海外商社やコンサルタントは、東京と任地を往来するのに忙しいので、普通、地方の人には見つけにくいです。また、彼らが素晴らしいグローバル人材であることを知る我々はとてもラッキーですが、一般的には、ネットで業者を見つけたとしても、信頼できるかどうか見分けるのも困難です。この業界は特に海千山千の人が多いですし。

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▲宇野編集長、『PLANETS Vol.9』からポストオリンピックの東京についてプレゼン中。

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▲「トーキョー会議2017」集合写真。

消費地ではない、グローカル・ハブとしての東京

では、海外進出を考えるローカル人材は、どのようにして信頼できるグローバル人材と出会えばよいでしょうか。逆もしかりです。グローバル人材は、地元をしっかり根回しして供給体制を整えてくれるローカル人材をどのようにして探せばよいのでしょうか。答えは、都市にあると思います。都市をグローカル・ハブにするのです。そして、都市はグローバル人材とローカル人材の両方を知る人が集まりやすい状況にあります。グローバル人材は都市と海外の間を、ローカル人材は都市と地元の間を往来します。都市の人々が両方とネットワーキングしておき、機を捉えて、都度みつくろい、両者を結びつける機能が決定的に重要だと思います。拙著「現役官僚の滞英日記」で論じている、カタリスト(媒介者)が活躍する舞台が都市です。都市は日本にとって最終消費地であり続けようとするより、巨大な海外市場へ進出する基地にしていくのがよいのではないでしょうか。上記の「トーキョー会議」自体もまた、まさしく地方人と海外人の人脈交差点としての東京という地の利を生かして、東京人が仲介したり議論したりする場として機能しています。

成功事例も増えている。

実際、海外の顧客のニーズに丁寧に寄り添って大成功している事例は結構増えてきています。

僕の好きな事例でいうと、例えば、ハラール認証を取得したドレッシングを、有田焼の瓶に入れ、高級杉の箱に詰めて1本10万円で売りまくっている愛知県の「グルメストーリー」は有名です。国内ではキューピーなど大手が既に席巻していますから、外に打って出る必然性もあったのだと思います。

第48回 ハラール食品で中東に挑む[グルメストーリー][中小機構2015年5月25日]

また、タイ人に特化して、彼らが楽しみたい日本の祭りや文化習慣などを全部体験させてあげる、北海道歌登の「うたのぼりグリーンパークホテル」もよく取り上げられています。僻地であっても、従業員がみんなで、タイ語を新しく学び、片言で話しながらサービスしているそうです。お仕着せでははない、真の「おもてなし」が喜ばれているようです。

国内体験施設レポ僻地でも年間2,000人のタイ人が殺到する北海道・歌登 [稼げるインバウンド コト消費ラボ 2017年12月18日]

これらは、都会が間に挟まるというより、地方の方々が、都会を介さず、ほぼまっすぐ海外と結びついた、勇気や激励を与えてくれる事例です。しかし、普通は、帰国子女や外国人が直接地方に出向いても、逆にドメスティックなローカル人材がいきなり海外に出向いても、なかなか難しいことが多いのではないかと僕は思います。成功事例を聞いても、さあ、うちの地元でもやれるか、といったら、うーん、となるのがリアルだと思われます。ならば、都会をいったん挟んでマッチングを行った方がむしろ効率的なのではないか、都会のカタリスト達が成功ノウハウやネットワークを蓄積していけばいいのではないか、というのが、僕の考えです。都市の人々が、グローカル・ハブとしての自覚をさらに深めて、様々な方々の本業の知見を集積して活発に活動すれば、もっともっと、こうした成功事例が増えていくのではないでしょうか。

PLANETSもグローカルに絶賛貢献中!

都会のカタリスト(媒介者)が行うグローカリゼーションの推進作業とは、具体的には、信用をテコにした、「コネ」のintroduce(紹介)を行うこと、そして、見識をテコにした、「チエ」のinspire(情報提供)を行うことになります。

これについて、僕の身近な具体例を2つ挙げます。僕が活動に参加しているNPO法人ZESDAは、主に東京でグローカル・ビジネスを促進する活動も行っています。(活動内容はこれだけではないですが。)地方公務員のスタッフや、地方や海外と東京を往復する仕事をしているスタッフもいれば、ロンドン、ニューヨーク、パリなどにもスタッフがいます。ひとつの組織内で志をともにする仲間が集い、それぞれの本業での知見や人材を繋ぎ合わせることで、東京拠点のNPO法人がグローカル・ハブ機能を果たしているわけです。こうした活動の中で、スタッフそれぞれが、新たに経験や知見、人脈を養っていきます。副業禁止規定のある会社はまだまだ多いですが、ボランティアという形でも副業・複業は可能なわけなのです。

一つめの事例は、つい先日、当団体をネットで見つけた高知県馬路村(ゆずとはちみつのジュース「ごっくん馬路村」で有名)の村役場の方を、ZESDAスタッフが取り次いで、上記の鷹鳥屋明君を村役場と農協の方々と引き合わせました。まさしくintroduce(紹介)を行ったわけです。次のアクションも色々と膨らんだそうです。

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▲鷹鳥屋君を囲む馬路村役場・農協の方。鷹鳥屋君の左手の木製カバンは馬路村の特産。

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▲楽しく生産的な意見交換ができたそうです。次の動きも決まったとか。

また、二つ目の例は、実は近日3月24日(土)に行われます。しかも、我らが宇野常寛編集長も登壇します!

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▲2018年3月24日(土)@向島百花園(東京・墨田区)【春蘭の里×宇野常寛×山菜アドバイザー×プロボノNPO】 地方創生交流会「山菜の、知られざる魅力」(山菜食付き)。詳細・お申し込みはこちらから。

石川県能登にある「春蘭の里」という古民家民宿群(英BBCの取材も受けました。ZESDAスタッフも数回訪問しています。)の魅力を「山菜料理」という切り口からプロモートしていくイベントを行います。(参加者にも山菜料理が振舞われます。詳細・お申込みはこちらから。席数が限られているので、お急ぎください。)これも、この里に縁があったスタッフが、里のボスの多田さんをZESDA内部に取り次ぐなかでプロジェクトチームが結成され、様々な形で商品開発や広報の助力を行っています。山菜という切り口での地域おこしを提案するなど、様々なinspire(情報提供)を行っているわけです。

何が希望なのか

世界の人々は、当然ですが、自分の国にないもの、他の地域では得られないものを求めます。高い価値を感じます。海外受けする資源は、東京よりも地方のほうに、たくさん眠っています。この点は、デービッド・アトキンソン氏の「観光立国論」等に詳しいです。そして、世界には約200か国あり、多種多様な価値観と習俗があり、それぞれに、日本に求めるもの、魅了されているものは少しずつ異なります。これを丁寧に捉えて個別にキャッチしていくセンスが求められていると思います。

加えて、上記で論じた2つの歴史的な壁の他にも、グローカリゼーションにブレーキをかける昨今の事情がいくつもあります。例えば、失敗体験。2000年代の伸び盛りの中国に進出しようとして、支払い方法や商慣習等の違いから、痛い目にあった会社や地域が多くあります。それ以来、あつものに懲りてなますを吹くように、出足が鈍っている企業も多いようです。また、農産物の輸出については、最近、ISO含め、検疫や成分表示など品質規制が世界中で厳しくなっています。スタンダードに合わせる又は働きかけるなど、迅速に対応しなければなりません。こうした点を克服できる「チエ」もまた培っていかなくてならないでしょう。

コネとチエの再配分へ

僕は、拙著「現役官僚の滞英日記」でも書いた通り、「カネ(富)・コネ(人脈)・チエ(情報・知識)」の3つがバランスよく揃わないと、産業は育たないと考えています。ベンチャーには「カネ」だけ投資してもうまくいきません。販路(コネ)や経営ノウハウ(チエ)も投入していかなくてはいけません。

戦後70年、地方には、これまで「カネ」だけが再配分されてきました(第二部中編参照)。「コネ」(人材・ネットワーク)と「チエ」(知識・情報)は東京など大都市圏に集中したきりです。地域が自立する、すなわち、「カネ」を自分で稼ぐ、若者を都会から呼び戻せるような高所得の雇用を持続的に生み続けられるようにするために、東京等に集中している「コネ(海外ネットワーク)」と「チエ(海外市場の情報)」の再配分が必要だと思います。それも、中核市から政令市を中心とした、地方経済圏の中心都市単位に再配分していくのが良いと思います。グローカルで、食えるところから食っていき、その波及効果を周辺に及ぼすイメージです。グローカルと聞いて、中山間地域の限界集落に、いきなり海外商社が買い付けにやってくる、お年寄りが困惑する、対応は無理だろう。と思われた方も多いかもしれませんが、そういうイメージではないのです。中核市規模程度の都市に、外国人や海外に強い日本人が集住して、東京等の国際ハブ都市と連携しつつ、周辺地域の産品の輸出やインバウンドを仲介するイメージです。

都市部の人々が、グローカル・ハブを担うインセンティブは、副業もさることながら、投資が良いのではないかと思っています。詳しくはまたの機会に議論していきたいと思いますが、ざっくりいうと、自分の本業の業界や海外関係におけるリテラシーを基に、地域の中小企業に対して少額出資などしつつ、自身のコネ(人脈)やチエ(知見)をも注ぎ込むのです。欧米のベンチャーキャピタルのように。いわば「手伝う株主」です。以上の構造変革案を図にするとこういう感じです。

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「コネ」の再配分は、introduce(紹介)によって、「チエ」の再配分はinspire(情報提供)によって行われていきます。具体的には、やる気のある地方農協を鷹鳥屋君に繋げたり、デニス達の会社にヒアリングさせたり、宇野編集長が山菜を評論して国内外に発信したりと、海外×地方の交流パッケージを、都会人が、投資などをインセンティブに、丁寧にたくさん生み出していく活動によって、担われていくものであると僕は思います。

大変地味ですね。なかなか道のり遠そうです。しかし、希望とは、飛びつけるように楽しく鮮やかなものでしょうか。希望の実体とは、地味でも苦しくても、それでも歩みたくなるようなリアルな手応えなのではないでしょうか。zesdaなどの取り組みが全日本的に模倣されていけばいいなと思います。「コネ」と「チエ」の地道な再配分こそが僕の希望です。

希望というと、世界最先端地域で日進月歩で進む、華やかで一挙解決的な、テクノロジーやイノベーションの発展に期待したくもなってきます。しかし、その話が通有できるのは、広く見積もっても、東京圏約4千万人の人々です。(狭く見れば六本木ヒルズでしょうか。)ゆえに、東京圏以外に住む数千万人の人々の暮らしや考え方の仕組みが変わるスピードは、世界最高水準のイノベーションのスピードに全く追い付かないことは前提として考えざるを得ません。ですから、日本の最先端が世界の最先端に負けないようにする、という論点と、地方がいかにして自立的でかつ希望の持てるものにするか、という2つの論点は、別の問題として、同時並行的に議論していかなくてならないと思います。

僕はどちらの問題に注力するか。僕は公務員です。なので、中間層をからこぼれる人を減らしたい、すなわち、日本中の地方の人々に、自分で自分を養えるようになってもらいたいです。ですから、一気にすべてが変わっていきそうな最先端のテクノロジーやイノベーションで近未来を拓くことをもっぱらにすることは、(議論にはキャッチアップしていきたいですが)他の方々にお譲りして、イケてる農協に鷹鳥屋君を紹介する方を担当しようと思います。それが、わが国社会を「袖」の下に匿おうという甲斐性を諦めない、コンサバをハックしてまでその系譜を継ぎ、「父性のユートピア」を志す者の、誇らしき道だと思っているからでしょう。

エッセイ・シリーズのおわりに

「コンサバをハックするということ」最終回、だいぶ長々と述べてしまいました。はじめは、「現役官僚の滞英日記」の販促、ということで、何か3000字程度のものを一本書いてください、という依頼でした。しかし、考えているうちに、そもそもなぜ滞英日記だったのか、なぜ滞英日記の次の連載が、「GQ(Government Curation)」なのか、その必然性を伝えたくなってしまいました。なぜ僕は官僚なのに、なぜPLANETSで連載を書くのか、ということを説明したくなってしまいました。それを、例によって、寛大な編集部が受け入れてくださいました。本当にいつもありがとうございます。

第一部では、僕のようなコンサバ組織内で働く方々に閉塞感との闘い方を提案しました。自分に言い聞かせるように鼓舞しました。第二部では、戦後コンサバを、ある種の「父性のユートピア」として捉え、その衰退過程を3つの観点に分けて描きました。第三部では、ユートピアの本質である中間層の厚さを維持する手段としてのグローカリゼーション、及び英国エリートの流儀から仕入れたその推進方法を述べました。

要するに、この三部構成全5回で申し述べた考えの下で、僕は生きております、ということでした。自分でも、自分が何考えてて、何やってるのか、なんだかよく整理できた機会になりました。この国をどうにかする上で、官業で足りない部分は、NPO活動やその他の方法で補って実践しているわけなのです。そのなかで、自然と、行動する言論戦艦PLANETSや宇野艦長らとのコラボも深化しております。

今後は、「官報」をベースに行政の本質的な動向を共有する「GQ」の連載で、主権者仲間のみなさんにお目にかかってまいります。激動する政局については、ほぼ一切触れませんが、その裏に隠れがちな重要事項に焦点をしぼります。パレスチナのインティファーダ(石投げ運動)の裏で社会構造が激変していたように、見えにくいところで何か重要なことが起きているのではないのか。僕自身も目を凝らしていければと思います。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

共に未来を。

(了)

▼プロフィール
橘宏樹(たちばな・ひろき)

官庁勤務。2014年夏より2年間、英国の名門校LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス)及びオックスフォード大学に留学。NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。twitterアカウント:@H__Tachibana

 

『現役官僚の滞英日記』刊行記念エッセイ、配信記事一覧はこちらのリンクから。

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