宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2017.02.17
  • 山本寛

山本寛監督インタビュー「いまだからこそ語るべきアニメのこと」第4回 『ハルヒ』『らき☆すた』演出ノート【不定期連載】

『らき☆すた』や『かんなぎ』で知られるアニメ監督・山本寛さんの、これまでの活動を総括するロングインタビュー「いまだからこそ語るべきアニメのこと」。第4回では、『ハルヒ』のライブシーンやダンスEDの誕生秘話、そして『らき☆すた』降板の舞台裏について、深掘りしてお話を伺いました。(取材・構成:高瀬司)

――なるほど……。いまのお話で、これまでなんとなく曖昧だった『ハルヒ』の経緯に関して、いろいろと腑に落ちました。では事実上の初監督作品として、『ハルヒ』の具体的な内容・演出に踏みこんでうかがわせてください。まずそもそも、第1話に「朝比奈ミクルの冒険 Episode00」を持ってくるという構成が衝撃的でした。

山本 『涼宮ハルヒの憂鬱』をアニメ化するときのコンセプトは「超監督・涼宮ハルヒ」だったんですね。つまりあのハルヒが『涼宮ハルヒの憂鬱』というTVアニメを作るとなれば、時系列シャッフルだろうとなんだろうと、ありとあらゆる訳のわからないことをするだろうし、当然一番頭に持ってくるのは自分が監督した自主映画に決まってるだろうと(笑)。
ただ、それを視聴者に受け入れてもらえるかどうかは、僕らにとっても冒険でした。だから、最速となる東京の初放映時には、2ちゃんねるの実況スレに張りついて反響を見ていたんですよ。そうしたら案の定、最初は大騒ぎなわけです。ネットが動揺している瞬間をはじめて見ました。みなが混乱している。それでいよいよ「これは炎上してしまうかもな……」と思いはじめたころ、原作ファンから「これが『ハルヒ』だよ!」という声があがったんですよ。第1話はOPも「恋のミクル伝説」ですから、通常のOPには出る「超監督・涼宮ハルヒ」というクレジットもなく、メディアにも事前には非公開にしていた情報だったんですが、にもかかわらず僕らが意図したコンセプトを見抜いたんです。やはり『ハルヒ』のファンは頭がいいなと思いましたね。この第1話を受け入れてもらえたことが、その後の僕らの勢いにもつながっていきました。

――第1話の次に山本監督が担当されたのが第9話「サムデイ イン ザ レイン」です。これも極めて異色なアニメオリジナルのエピソードでした。
山本 「サムデイ イン ザ レイン」のコンセプトは第三者視点、「定点観測」です。『ハルヒ』の原作というのはつねにキョンによるモノローグ、一人称視点で統一されているのですね。そのせいで、原作ファンのあいだでは、ハルヒではなくキョンこそがこの世界を司る真の神であって、キョンが見ていない世界というのは存在しないのではないか、といった推論も出ていて。だから原作者の谷川(流)先生との打ち合わせのとき、「キョン以外の、第三者視点のエピソードを作りましょうか」と提案してみたところ乗っていただけて、それで最終的に定点観測というコンセプトを立てました。キョンのいないSOS団の部室を、三点からの監視カメラのような映像で延々ととらえる。設定へのエクスキューズとして、コンピ研が仕返しに盗撮していたとか、部室にある太陽のオブジェが実はキョンでもハルヒでもない第三の神だったとか、そういう深読みできる理屈も用意していましたね。
――EDでも目立つオブジェですが、本編でも2度ほど意味深にアップでとらえられていましたね。またこのエピソードは、ショット数がものすごく少なく、150ほどしかない点も特徴的です。長回しがすごく多い。
山本 定点観測ものというのは、同ポ(同ポジション)が多いのでレイアウトこそ楽ですが、引きの画ばかりになるので、登場人物の全身を描かなくてはいけなくなって作画がすごくハードなんですね。一般視聴者からすると楽そうに見えるかもしれませんが、作画カロリーはむしろすごく高い回になっていて、だからどこかで思いっきり手を抜いておこうと。それで長門が本を読んでいるだけの画をずっとリピートするカットを入れたんです。最終的に一番長いカットで2分17秒、さらに一度別のカットを挟んで、もう一度同じ画を1分間という長回しになりました。
――作画という点では、その後の第12話「ライブアライブ」のライブシーンも大きな話題を呼びました。
山本 あの演奏シーンはロトスコープですね。「God knows…」は、当時人気だったアイドルバンド「ZONE」の曲をモデルに神前に作・編曲を発注していて。あがってきた曲をプロのミュージシャンの方に演奏してもらい、その様子をビデオ撮影したうえで、映像をキャプチャした画像をプリントアウトし、それを上からなぞるという手順で作りました。ハルヒのアップの表情は、平野綾さんの歌う映像をもとにリップシンクさせるようにしています。ハルヒのカットの原画は全部西屋(太志)くん、彼は本当にうまかった。それと高雄(統子)さん(※編注:のちに京都アニメーションを退社し『アイドルマスター シンデレラガールズ』『聖☆おにいさん』を監督)のパートもいいんですよ。ハルヒが「God knows…」を歌い終わったあと、大受けの会場を見て安心したようにため息をついて、ドラムのほうを振り向くというカット。あそこの原画は、あがってきたのを見た瞬間に大泣きしてしまいました。僕は基本的に、タイムシートは全カット自分で直していたんですが、あそこだけはもう涙でシートが読めず、そのままスッと戻すよりほかなかったですね。
また演奏シーン以外にも、文化祭の日のエピソードということで、参加している全員が主役というコンセプトを立て、背景のモブも全部動かすようにしています。キョン視点の物語の背後で、モブの一人ひとりが文化祭を楽しんで、またさり気なくハルヒとバンドメンバーたちの物語も進んでいく。だから結果的に、作画枚数はほかの話数の2倍使うことになりました。

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