宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2016.10.04
  • イメージの世界へ,大見崇晴

大見崇晴『イメージの世界へ 村上春樹と三島由紀夫』第7回 三島の終焉 その美的追求によるパフォーマンス原理(前編)【不定期連載】

今朝のメルマガでは大見崇晴さんの連載『イメージの世界へ 村上春樹と三島由紀夫』第6回をお届けします。
多彩な分野で才能を発揮しながら、実は長編作家としての評価は必ずしも高くない三島由紀夫。そこには〈人物〉よりも〈風景〉に他者性を認める特殊な資質があり、その限界を乗り越えようと晩年の彼が挑んだのは、自らの生の神話化と、日本的な官能美の追求でした。


 
▼プロフィール
大見崇晴(おおみ・たかはる)
1978年生まれ。國學院大学文学部卒(日本文学専攻)。サラリーマンとして働くかたわら日曜ジャーナリスト/文藝評論家として活動、カルチャー総合誌「PLANETS」の創刊にも参加。戦後文学史の再検討とテレビメディアの変容を追っている。著書に『「テレビリアリティ」の時代』(大和書房、2013年)がある。
本メルマガで連載中の『イメージの世界へ』配信記事一覧はこちらのリンクから。

前回:大見崇晴『イメージの世界へ 村上春樹と三島由紀夫』補論 記号と階級意識(後編)【不定期連載】

 
 「劇作家としては一流、批評家としては二流、作家としては三流」。
 これが純文学プロパーの間で紋切り型の符牒がごとく伝わっている三島由紀夫に対する評言である。後輩世代の作家、特に「若い日本の会」のメンバーたちに共有された三島評価であった。ある意味で後発世代なりに三島を追い落としに掛かった表現と言えるのだろう。
 たとえば、「三島由紀夫と天皇」について語らないできたと『物語から遠く離れて』の小冊子に収録されたインタビューで答える批評家(にして三島賞作家!)・蓮實重彦は、ほぼ同年代ではあるが四歳ほど年長の批評家・江藤淳に「まァ三島由紀夫の小説は、江藤さんの初期批評以来あまり買っていらっしゃらないということはわかるんですけれども、(笑)でも彼の出現なんていうのは、戦前的なものの残照的でしょうかね」と話に水を向ける。

……結局、三島さんは、戯曲家としてもっとも優れ、短編作家としてとしてこれに次、長篇作家としては非常に辛い道を歩んだでのはないか。ところが人間というのはむずかしいもので、あの人はやはり、本格的な小説家として自分を登録してもらいたかったから、最期に無理をして四部作を……。あれはちょっと悲惨だったなァと思いますよ。(中略)要するに、短編を無限にに引きのばすというかたちでしか長編小説を書けないという感受性はどうしようもないですね。
(江藤淳・蓮實重彦『オールドファッション』)

 
 江藤淳の述懐は、自身が三島由紀夫の欠点を真正面から指摘した評論「三島由紀夫の家」に対して、その誠実さを讃えた三島からの返礼があったことを思い出しながらのものだ。
 かように好意的な記憶とともに引き出されながらも、なお否定的に評価される三島の(長篇)小説は、如何なる欠点を持っていたのか。結論を先取すると、三島由紀夫という作家は小説というジャンルに対して、決定的な見当違いをしているのだ。特に小説中のリアリズムについて大きな見当違いをしている。
 さらに先取して述べるなら、三島由紀夫という作家はリアリズムについて決定的な見当違いをしたために、「本格的な小説家」に登録することは叶わなかったし、鬼面人を驚かす右翼的作家への変貌を見せるのである。しかし、三島由紀夫の素顔は――仮面は愛国的な作家というところだろうが――それどころか三島由紀夫の死には、国体の護持との関連は殆ど無い。天皇にすら実際のところ関心はない。垣間見えるのは同性愛への関心とそれに密接に関連している美に関する傾向だ。
 
 さて、ひとまずはリアリズムにおける三島の見当違いを明らかにすべきであろう。この見当違いについては、またしても彼自身が手の内を明かしている(!)。われわれは三島由紀夫のアリバイとも言える随筆「わが創作作法」にあたるべきだろう。この随筆の中で三島は四つの方法が重要だと述べている。「主題の発見」、「環境を研究すること」、「構成を立てること」、そして、最期に必要なこととして、評論よりも堅苦しくない随筆にふさわしく「書きはじめること」の重要さを読者に説く。いかにも随筆らしい落ちと言えるだろう。ところで、三島は随筆中で「本格的な小説家」にはふさわしくない記述を幾つか犯している。特に、第二の方法である「環境を研究すること」には三島という作家の才能を制限する習慣が存在していたことを無意識的に明かしている。おそらくは、そこに多くの読者も何かしらの言いようのない、誤りが認められることだろう。三島という作家の限界が露呈するのは例えば下記のような文章である。

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