各界のイノベーターとの対話集『資本主義こそが究極の革命である』発売記念! 宇野常寛による書き下ろしの「まえがき」を無料公開! | PLANETS/第二次惑星開発委員会

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  • 2015.06.10

各界のイノベーターとの対話集『資本主義こそが究極の革命である』発売記念! 宇野常寛による書き下ろしの「まえがき」を無料公開!

本日、宇野常寛と各界のイノベーターとの対話集『資本主義こそが究極の革命である』が発売になります。それを記念し、宇野による書き下ろしの「まえがき」を無料公開します! いま、産業界でイノベーションを起こしている彼らの「思想」について考え、知ることの意味とは――?
 
資本主義こそが究極の革命である_堀江貴文氏推薦
▲『資本主義こそが究極の革命である 市場から社会を変えるイノベーターたち』
宇野常寛(編著)、粟飯原理咲 (著), 安藝貴範 (著), 安宅 和人 (著), 川鍋一郎 (著), 北川拓也(著), 野林徳行 (著), 古川健介 (著), 森 健志郎 (著)
 
 

まえがき

 
 この本には8人の実業家とビジネスマンが登場する。
 この8人は誰をとってもその世界では一目も二目も置かれているキーパーソンで、たぶん経済誌の特集でもこのメンバーを一度に揃えることは難しいのではないかと思う。
 しかし、最初に言っておかなければならない。これは、ビジネスでの成功の秘訣を教えてくれる本でもなければ、起業や経営のコツについて論じた本でもない。もっとはっきり言ってしまえば、お金の儲け方について扱った本でもない。
 こう書いてしまうと、表紙の著者たちの名前を見て手に取ってくれたビジネスマンたちは──彼らの名前にピンとくるということは、きっとさまざまなジャンルにアンテナを張っている気の利いたビジネスマンなのだろうが──この本を書店の本棚に戻してしまうかもしれない。けれど、そうする前にちょっとだけ待ってほしい。確かにこの本には彼らがどうやって事業を成功させたかということは、全く書かれていない。けれど(あえて言うが)「そんなことよりも大事なこと」が、この本には詰まっている。
 この本では、僕が聞き手になって彼ら8人に、それぞれの専門分野で発見したことについて語ってもらっている。
 例えば、大手タクシー運営会社の日本交通・川鍋一朗社長を既存のメディアは、ほぼ「マッキンゼー出身の、エリート三代目」「傾いた会社を立て直した辣腕タクシー王子」という文脈でしか取り上げることが出来ていない。しかし、僕に言わせればこうした視点からの紹介は、川鍋一朗というビジネスマンのやろうとしていることの社会的な意味を1ミリグラムも伝えていない。そこで僕は川鍋氏のところに出かけて行って、彼の計画をとおしてこれからの車社会と都市交通がどうなるのか、どうすべきなのかというビジョンを聞いてきた。
 本書を一読してもらえればすぐにわかることだが、氏の構想する新しい地域交通の形は、タクシー業界の再編という業界地図の問題に収斂されるものではない。もっと根本的に、日本の国土開発や地方の労働社会の、それも今後数十年単位の野心的な設計図に基づいたものであることに気づくはずだ。
 そして、さらに言うならそれは同時にインターネットやモータリゼーションという、従来は個人主義を押し進め、コミュニティを解体していたものを逆手に取ることで、これまでとは違う形で地域社会を再建することでもある。集約型=マス的なものではなく、分散型=ソーシャル的なものを通じて新しい社会を考えるというのは、現代社会の直面している最大の思想的な課題の一つでもあるはずだ。しかし、従来の言論メディアでは川鍋氏のような実業家が「思想」の語り手であり、実践者であるということを認めようとしない。そして従来のビジネス系のメディアは、彼の業績を株価と売上でしか評価することが出来ないのだ。
 これは、もの凄く「もったいない」ことではないだろうか。
 あるいは、同じく本書に登場する粟飯原理咲氏の手掛ける一連のウェブサービスは、概ね同業他社が苦手とする特定の年代の女性のマーケティングに成功したと評価されることが多い。しかし、僕の考えでは粟飯原氏の事業のもつ批判力はそんなところにはない。共働きや職住近接という現代的な(脱戦後的な)ホワイトカラーのライフスタイルが都市部の20代、30代を中心に成立しつつあるとき、そのライフスタイルの実現をインフラ面で支援しているのが氏の手掛ける「おとりよせネット」や「朝時間.jp」に他ならない。ここでは、かつて電気洗濯機や冷蔵庫が実現した家事労働の軽減による主婦層の解放を、ウェブサービスが形を変えて実現しつつあると言えるはずだ。だがやはり、既存のメディアで粟飯原氏の意欲的な試みの数々が、社会や文化の問題として取り上げられることはほとんどない。
 
 だから、僕は彼らのもとに出向いて、彼らとじっくり腰を据えて話し合うことにした。
 彼らのやろうとしていること、やりたいこと、これまですでにやってきたことの意味を、経済の言葉ではなく「文化の言葉」で、その売上ではなく「意味」を言葉にする仕事をやろう、そう思ったのだ。
 なぜならば、彼らのこうした仕事が利益でしか測られないのだとしたら、それは甚だしい過小評価で、そして彼らのこれまでの仕事とこれからの構想が、社会を変えてきた、変えていけることを、世の中の人が知らないことは大きな、いや大きすぎる損失だと思うからだ。
 
 この一冊は、こうしたことを考えながら1年あまり僕が取材してきた人々との対話を集めたものだ。大手タクシー会社の社長から、ビッグデータ活用の第一人者まで、さまざまな仕事に携わっている人々が登場する。
 野林徳行さんとは、リクルートとブックオフ、コンビニエンスストアをテーマに「流通」という視点から、これからの生活文化について語り合った。グッドスマイルカンパニーの安藝貴範さんとは、エンターテインメントをとおしてアメリカ西海岸的なイデオロギーを、(特にこの現代日本が)生活文化の中でいかに受容していくのか話し合った。nanapiの古川健介さんとは、インターネットが「文字検索」の時代を終えたのちにどこへいくのか、スクーの森健志郎さんとは、動画教育の需要から見えてくる新しい「教養」の形について議論した。楽天の北川拓也さんとは、eコマースの世界が溜め込んだデータから明らかになった人間の行動様式について意見を交わした。そしてヤフーの安宅和人さんとは、ビジネスシーンで用いられている思考法を、どのように思想として、人間観の問題として捉え直すのかという、いささか抽象的な議論に挑んでいる。
 こうした幅広い議論が、すべて彼らの手掛けるビジネスを起点にした変化について交わされていることに、驚く読者も多いはずだ。
 そして、今の日本にはこうした意欲的で創造的なプレイヤーが数えきれないほど活躍している。そして、彼らの仕事は確実に、少しずつこの世界を変えつつある。問題があるとすれば、社会の側にそれに気づくためのアンテナと、それを伝えるための回路が不足していることだけだ。
 
 20世紀の遺物のような学者や文化人の中には、いまだに「資本主義からは価値は生まれない」とか言う人がいるのだけれど、僕は全く逆のことを思っている。
 少なくとも僕の知る限り、いま世の中を確実に変えていく力はすべて市場から、資本主義の内部から生まれている。断言しよう。資本主義こそが究極の革命である。
 
(この続きは、発売中の『資本主義こそが究極の革命である』で!)

『資本主義こそが究極の革命である 市場から社会を変えるイノベーターたち』
宇野常寛(編著)、粟飯原理咲 (著), 安藝貴範 (著), 安宅 和人 (著), 川鍋一郎 (著), 北川拓也(著), 野林徳行 (著), 古川健介 (著), 森 健志郎 (著)
 
堀江貴文氏推薦! 真に世の中を変えている「革命家」たちとの希望ある未来への対話集
 
インターネットによるジャーナリズムが市民社会を革新すると期待された10年前。
しかし現実には変革は起こらず、むしろ閉塞感のある社会になってはいないだろうか。
 
では、世の中に希望はないのか。
 
宇野常寛は情報社会を再検討する中で一つの答えに辿り着く。
資本主義こそが究極の革命であると。
つまり、サービスを設計する経営者たちが、テクノロジーを手掛けるエンジニアたちが、
仕事を通じて得た思想とビジョンを背景に着実に世の中を変えていたのだ。
 
勉強や仕事、あなたが今やっていることの先にやりたいこと、そしてビジョンさえあれば
毎日は希望に満ちた日々に変わっていくはずだ。
その先駆者8人との、未来への対話集。
 
【内容】
1 川鍋一朗
過疎化する地方でタクシーが果たす使命
──日本交通・川鍋一朗が描く「交通」の未来

2 粟飯原理咲
「中食」はポスト戦後の食文化にどう介入するか
──アイランド・粟飯原理咲が語る「お取り寄せ」の現在

3 野林徳行
なぜネット時代に『ゼクシィ』は売れ続ける?
──レッグス・野林徳行の「顔が浮かぶ」マーケティング

4 安藝貴範
僕らに『スター・ウォーズ』さえあれば
──グッドスマイルカンパニー・安藝貴範が語るオタク文化の世界戦略

5 古川健介
そもそも検索ワードなんて要らない?
──nanapi・古川健介が語る「ポスト検索」の時代

6 森健志郎
動画教育が可視化する新しい日本人の人生設計とは
──スクー・森健志郎の学歴社会「解体プラン」

7 北川拓也
人間の意識を変革するECサイトは可能か?
──理論物理学者・北川拓也が楽天で得た「哲学

8 安宅和人
「人間」を単位に考えるのは生命に失礼
──『イシューからはじめよ』著者・安宅和人が神経科学とマーケティングの間で考えてきたこと