願掛けに対する躊躇|高佐一慈
お笑いコンビ、ザ・ギースの高佐一慈さんが日常で出会うふとしたおかしみを書き留めていく連載「誰にでもできる簡単なエッセイ」。
今回は、寅さんこと渥美清が訪れたことで知られる小野照崎神社にまつわるエピソードです。この神社に「とある願掛け」をしに行こうと考えている高佐さんですが、いざ足を運ぼうとするとどうしても躊躇せざるを得ない、ある理由があったようです。
高佐一慈 誰にでもできる簡単なエッセイ
第17回 願掛けに対する躊躇
今僕は迷っている。
小野照崎神社に行くかどうかだ。
正確には去年からずーっと迷い、足を伸ばそうとしては躊躇している。
これだけ聞くと、「何をそんなに迷ってるの? 別に行けばいいだろ。ただ神社に参拝しに行くだけでしょ? それとも何? その神社には龍が眠っていて、そいつがこの世の中に疫病をもたらしている張本人で、神の啓司を受けた勇者である君が、先日大岩から引き抜いた剣を持って立ち向かうという使命でもあるの?」
と思う方もいると思うので、ここで小野照崎神社について説明したいと思います。
小野照崎神社は、東京の下町、入谷に鎮座する西暦852年に建立された神社で、学問・芸能・仕事の神として有名で、あの渥美清がタバコを断つ代わりに役者として活躍できるようにと願掛けをしたところ、すぐさま「男はつらいよ」シリーズの主役、寅さんのオファーが入ったとして語り継がれている由緒正しき神社である。
芸能界でもここに訪れる方は多く、実際に仕事が舞い込んだという話もよく聞く。
僕の身近な芸人のとある先輩も、渥美清さんと同じく、タバコを断ったところ、すぐに仕事が舞い込んできて奥さんと二人で手を取りあって喜んだり、別の先輩は、大好きなつけめんを断ったところ、その次の週に、単発ではあるがゆくゆくはレギュラーを見据えた地方のテレビ番組が決まったと言っていた。
知り合いの作家も先日行ったみたいで、ずっと辞めようと思い、でもどうしても食べてしまうというスナック菓子を断ったと言っていた。元々「ダイエットしないと」と言っていたので、願掛けをしたおかげでダイエットもできて、今後もしかしたら仕事も入ってくるかもしれないという状況になったため、表情は晴れやかだ。
「高佐なら何を断つ?」という話になり、僕なら、いいかげん辞めないとと思いつつどうしても手を出してしまうLINEゲームだということになった。
これを聞くと「何、迷ってんだよ! 迷う必要ないだろ! 今すぐにでも願掛けに行けよ! ただただ無駄な時間を費やすだけの、何の生産性もないスマホゲームなんて早急にやめて、その代わりに入ってくるであろう劇団四季「ライオンキング」のシンバ役のセリフを覚えたり、「あさチャン」の後釜番組のメインキャスターを務めるための発声練習をしたり、クリント・イーストウッド監督の映画の主演のために渡米しろよ!」
と思う方がほとんどだと思う。
だが、僕は躊躇してしまう。僕の中で乗り越えなきゃいけない大きな壁が、目の前に立ちはだかっているのだ。